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大人になったら・・・【エッセイ】八〇〇字

 四歳の頃だから、七十年近くも前。ラベンダー畑で有名な(当時はなかったが)美瑛町・美馬牛にいた。ある日、駄菓子屋でくじ付きガムの包みを開けていた。次々と何個も。すると、母が「M坊、なに開けているの~。ハズレじゃないのぉ~」と言った(らしい)。私は泣きながら、「またどうぞ、って書いてあるよぉーー」と答えた(らしい)。そのとき、言ったそうだ。「早くおとなになって、たくさん買えるようになりたい」と。しかし、大人過ぎるほどに大人になったいま。めったにガムを口にすることはない…。
 小三の頃、旭川近くの愛別にいた。旭川の銘菓「旭豆」が大好きだった。今でも北海道土産として、人気。香ばしく炒った大豆を、砂糖で包んだ、シンプルな味。白い粒のなかに緑の抹茶豆がいくつか混ざっている。みんなこれを狙って食べる。昔の冷や麦には、緑やピンクの色つき麺が混ざっていて、子たちは、その麺を競ってすくったように。「お母ちゃん、旭豆ってウメぇべやー。おとなになったら、おなか一杯食べるんだ」と、よく言っていた、ようだ。だが、二年後に愛別を離れ、いまに至るまで、その姿を見たこともない。
 「北の国から」の舞台。富良野・麓郷にいた頃。正月。我が家では、父と母は、お屠蘇がわりに「赤玉ポートワイン」を飲むのが、恒例だった。切子のお猪口のようなワイングラスで。二つ違いの弟と私にも、飲ませてくれた。小学校に入る前からだった、と思う。これが、美味しい。喉がカアーっとしてきて、気持ち良くなる。私と弟は、千鳥足で部屋中を回って愛嬌を振りまく。それが面白いと、父が、もう一杯ついでくれるのだった。思った。大人になったらたらふく飲んでやるぞ、と。この頃知った呑兵衛の味。ことだけは、しっかりと、いまもやめられない。

(おまけ)
早大エクステンション「エッセイ教室」の最終課題「さがしもの」(八〇〇字)が、授業で取り上げられました。過日書いた『自分探し(一〇〇〇字)』を、八〇〇字(正確には、タイトルと氏名の行があるので、760字)にリライトし、提出した作品になります。
実は自分としてはかなり自信があり、高評価を受けることを期待して課題提出ボックスに放り込んだ作品。「取り上げてくれなかったらどうしよう」「これで評価をされないようではエッセイには相性がないのかもな、オレ。やめてやる」と思いながら当日の授業に臨んだのであります。が珍しく、師匠に最大級のお褒めをいただきました。やはり、このnoteをご覧いただいたのかと。(ホっ!)

《after》さがしもの(八〇〇字)

《before》自分探し(一〇〇〇字)

(御口直し)

きょうも同じ出来事を扱っていました。

東京新聞朝刊6月28日


朝日新聞朝刊6月28日


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