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思い込み【エッセイ】二〇〇〇字

「酒、やめる!」
 そのあとに「日本酒は。ネ」なんて、姑息なことは言わない。アベ何某元首相がお得意だった「ご飯論法」のように。正確に申し上げると、「アルコホールを、毎日、呑むのはやめようと思う」だろうか。友との呑みや食事会、なにか特別な日以外は呑まない、、と決めたのである。
 実は10日前の深夜、トイレで起きた際に催し嘔吐したことがあったのだ。20年ぶり。ショックだった。そんなに大量に呑んだつもりはない。せいぜい日本酒を4合。ん? 十分に多い? いやいや、ワタクシにしては普通。なにかに当たった? いやいや、一緒にいたかたは、異常なし。
 そんな一大決心をするからには、相応の事情がある。「嘔吐インシデント」以来、単なる胃酸過多か、胃潰瘍か、はたまた胃ガンか、胃に違和感があるのだ。そこで念のため、この1週間ほど呑まないようにしてみた(パンシロンを飲み、来週いちおう胃カメラも、のむ)。すると、意外にできるではないか。眠れないと思い睡眠促進剤のかわりに欠かすことがなかったのだが、眠られた。何度か入院を経験しているが、むろん、その際には呑んでいなかった。“諦め”と、夜に寝られなければ、本でも読み、昼に寝ればいいや、と割り切ることができたからだろうか。いまは「サタデー毎日(次の日は、いつも日曜日)」。外出の予定がなければ、入院のときと同じ。問題ないのである。
 健康上、好ましい結果を自覚できたことも大きい。「熟睡できた気がする」「就寝中のトイレの回数が減った」「起床時、唇の渇きを感じない」などなど、やはり世間、ひと様がおっしゃる通りなのだ。
 アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)という言葉をご存知だろうか。「無意識の偏ったモノの見方」、「無意識の思い込み」「無意識の偏見」等の意味。酒を呑んできたのは、まさに「無意識の思い込み」にすぎなかったと思えるようになってきている。であるなら、「酒を呑まないと眠られない」という思い込みを、「酒を呑まなくても眠られる」と、思い込もうというわけ。
 酒を口にしないようにするために、ちょっとした工夫をしてみた。夜の「入浴」である。
 大学卒業後、半世紀弱。「朝風呂派」だった。夜は、温泉旅館にでかけたときぐらい。夏も、シャワー程度で済ましていた。それというのも、酒を毎日欠かさなかったからである。元医師である99歳のお姉さまが本に書いているらしい。「浴槽は、年寄りにとっての“死刑台”」って。呑んだあとでは、さらに危険極まりない。“死刑台”というか、バスタブが、“棺桶”になってしまう。
 気温が下がってきた昨今、気持ち良いのだ。浴室には小さな窓があり、開けるとプチ露天風呂になる。冷気もいい。そのバスタイムを楽しむためには、酒が飲めない。先の事情もあり、酒よりも入浴を選ぶことにした(夏場にどうなるかの課題はあるが、その時期までに習慣化すればいい)。「朝風呂派」を貫いてきた。そんなワタクシにとっては、パラダイムシフトに等しいことなのである。
 6時ぐらいに夕食をとる。むろん、これまでの酒に代えて、“ノンアルビール”(これ結構イケル。この発見も大きい)か、麦茶。「酒は、料理とのマリアージュ」というのは確かだが、週一くらいの愉しみに残しておくことにする。バスのスイッチを押す。食器を洗い終わった頃に、「お風呂が沸きました」のコール。湯船の蓋を外し、浴室を暖める。NHKニュースか「こころ旅」が終わった頃に、入浴。温度は、40度(真冬は、41度。夏は、38度)。体も浴室も温まり、スクワットをルーチン化。再度、バスタブに浸かる。浸かっている時間は、計10分(長風呂は、まさに“棺桶”となる)。
 これまでだと、そのあと映画鑑賞や読書の時間になり、ついつい酒に手が伸びてしまう。なので、昼の時間帯に切替えることにする。シーズンになるとナイターがあるが、最近は巨人が弱いし、「オオタニさん」に気持ちが完全にシフトしているし。ドジャースがデイゲームのときは朝早く起きなければいけないので、早寝は、好都合。すべてがOKOK、なのだ。これまでも早寝タイプであったが、さらに早めて8時、遅くても9時には、“go to bed”となっている。
 そもそもアルコホールとは無縁のかたは、「なんだよそれごとき」と思われるかもしれないが、ノンベイにとっては“踏み絵”と同じ。でもそれは、アンコンシャス・バイアスに過ぎなかったのである。
 さて、来週の水曜日は、いきつけの蕎麦屋で日本酒を三本。久しぶりに味わおう。格別だろうなあ。

TOP画像:渋川伊香保温泉観光協会サイトから

(後記)
“ノンアルビール”も利尿作用があるらしいので、麦茶にしようとも思っている。ノンアルコールビールにはホップ由来の「クエルシトリン」という利尿作用のある成分が含まれているらしい。


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