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「にんじん」【エッセイ】

 四年ほど、ほぼ毎日、歩いている。
 国は「一日一万歩」を推奨。しかし、数年前に八千歩でよいとの、“研究成果”が、発表される。群馬県中之条町に住む、六十五歳以上の全住民約五千人を対象に、十五年以上にわたって調査した、結果らしい。「八千歩! 二千歩の差は大きい」と、はじめる。
 八千歩。六キロ弱、速足で約一時間ちょい。けっこう、気合を入れる。でも、毎日歩くとなると、根性論だけでは三日坊主になりかねない。そこで、「にんじん」をぶら下げれば続くのでは、と考えた。
 食事の前に歩くと決め(空腹時に歩くのがまた良いらしい)、終わったら食べられるという、インセンティブ。「今日は肉! 赤ワインを開けよう」「今日は刺身! 日本酒で一杯やろう」と。近くのスーパーをルートの最後に入れ、食材を買ってくる。つまり、直接行けば三百歩くらいの店に、七千七百歩ほど遠回りして買いものに行く、という構図だ。
 「にんじん」は、食べ物だけではない。ルートの途中に、本屋がある。十五分位、新刊を立ち読みするのも、至極の楽しみになる。
 また、二千五百歩の地点に、椿山荘近くを流れる神田川がある。川沿いの遊歩道が桜並木になっている。名所のひとつだ。時期になると、その桜も立派な「にんじん」になる。
 (ただ、一番大きな動機は、毎日酒を呑んでいることの「罪滅ぼし」というのが、正直なところかもしれない)

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