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結び目【エッセイ】六〇〇字

TOP画像:「なないろ毛糸」サイトから

早大エクステンション「エッセイ教室」夏講座(全六課題)の四回目のお題、「結び目」。会社を整理した頃を想い出しました。
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 複合機だけが残り、小春日和の陽が入り込んでいる空間を、ぼーーっと眺めていた。
 幸運の連続だった。十七年勤めた会社では役員になりつつも、社長と衝突。黎明期のネット事業部という、閑職に。が、それがきっかけで、四十六の春、独立。得体の知れないWEB事業が幸いし、大手百貨店と関わることに。程々の成果を収めた。しかし、業界は「秒進分歩」。勢いがまだ残るうちにと、六十五になり、幕引きを考え始める。そこで、同じ取引先に口座がある会社に、全スタッフの引受けを条件に、六年前の師走、売却する。
 幾度も神風が吹いた二十年だったが、最たるは、何といってもスタッフに恵まれたこと。特に、最初に出会ったデザイナー、O君。先に採用した者と、入社祝いの昼食を終え戻ったとき、部屋の前の壁によりかかり座る、O君がいた。面接を失念していたのだが、小一時間待っていてくれたのだ。彼が、取引先のWEBデザインの基礎を創ってくれたと、断言できる。帰っていたら、成功はなかっただろう。いま彼は、個別に案件を依頼されながら、起業し、酒と器の通販サイトを、運営。他の者たちも、引受先で活躍してくれている。
 什器と備品の引越しが終った室内で、想い出していた。起業直後のまっさらな部屋の壁に寄りかかり、薫風に撫でられ、レイアウトを描きつつ、うたた寝をしていた日を。

(おまけ)
珍しく、野球記事を。これがおもろかった。この翌日も、岡本は二試合連続の2本塁打を放った。奮起したらしい。この3日のインタビューで、「めちゃめちゃ気持ちを入れて打席に入りました」と答えた。おいおい、毎打席入れてくれよ!(ま、あの、のほほんとした表情が、宗とは違う良さでもあるのだが、ね)

朝日新聞朝刊(8月3日)


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