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ひまわり【エッセイ】六〇〇字

早大エクステンション「エッセイ教室」夏講座(全六課題)の二回目のお題、「ひまわりor向日葵」(タイトルに、ひらがなを使うか、漢字を使うかは、テイストに応じて)。
過日、(北海道・北竜町にいた時の)小学校の花壇に植えたひまわりについて書きました。(自分たちの)花壇を踏まれないようにと柵を作ったのだが、校長先生に取り払われ、こう言われた話です。「みんなの花壇です。どうして、ほかと仕切りを作る必要があるのでしょう。世界の空がひとつのように、地面も、みんなのものです」。
TOP画像は、後年、町がつくった「ひまわりの里」の写真です。

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 わが家は、暗かった…。海軍気質かたぎの父、弟との男中心所帯。灯りは、母だけ。そんな家にテレビが入った。小学三年、公務員の父の転勤で、旭川の北の町にいた頃。十軒ある公営住宅で、初。父は大の巨人ファン。長嶋が入団二年目。贔屓力士が、若乃花でもあった。
 他言無用の御布令が出るが、屋根にアンテナが立つので、無用の禁令。ご近所付き合い担当の母がお茶屋をやっていたのか、土俵入りが始まる頃、六畳の茶の間が、溜り席に変わる。最初のうちは、父も引きつった笑顔ながらも、接していた。しかし、大鵬が十両に上ってからは、早々に、満員御礼。あまりにも入場者数が多くなりすぎると、慣れない愛想疲れか、父の機嫌が、悪くなり始める。
 しかし、野球中継の時刻には、一変。長嶋がホームランやヒットを打った時はもちろん、盗塁の時も、上機嫌。疾走する姿を、若駒に例え、「アンコ馬」と名付けた。仕事で何か不愉快なことがあった日でも、神がかったプレーに驚嘆し、珍プレーに、大笑い。仕事以外では自粛している晩酌の本数が、増えることになる。ご多分に漏れず私も、チームでは、背番号は、「3」を奪取していたし、いまの車も、むろん、「3」。蝋燭の灯の家だけでなく、昭和を生きた人間にとっては、33と輝く、太陽おひさま
 後に野村さんが名言を残すまでもなく、長嶋茂雄は、「太陽の花」そのもの、だった。

(御口直し)
朝日新聞朝刊に昨年8月まで連載された『白鶴亮翅』。本日の東京新聞朝刊の書評記事です。移民・同性パートナーなど、彼女のテーマのひとつ多様性を扱った小説です。私も完読したので、機会があればエッセイとして書いてみたい作品でした。

東京新聞朝刊(7月22日)

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