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ポチ【ショートショート】

 八十歳の女性が、行方不明になっている。認知症を患い、夫が留守中に行方がわからなくなった、という。警察も捜索していたが、結局不明のままになっている、らしい。
 女性は資産家。十歳年下の婿養子の夫との二人住まい。子供はいない。近所に、八歳違いの、夫と死別した、女性の妹が住んでいる。
 その二人が、相続手続きのため、不明から七年目に、失踪届けを家庭裁判所に出した。
 夫宅で、調査官による事情聴取が行われている。掃除の最中だったのだろう、ロボット掃除機が部屋中を、一生懸命に動いている。
 調査官「症状が出たのは、いつからですか」
 妹「十年前です。飼っていた愛犬が死んでしまい、それがきっかけだったと思います」
 夫「犬を買っても、また死別するのが嫌だというものですから、なにか動くものをと考え、そのロボット掃除機を買ったのです」
 妹「掃除機に、盛んに話しかけるようになりました。犬と同じ名前、ポチとつけて」
 夫「孫もいないせいか、犬に『花さかじいさん』の童話を、よく読んで聞かせていました。同じように、掃除機にも・・・」
 調査官は、掃除機が気になった。さっきまで部屋中を動き回っていたのが、急に、板間にある堀炬燵の周りを、ぐるぐる回っている。
 翌日、二人と一匹の、白骨化した遺体が、見つかった。

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