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『ヒート』に関する個人的な話

 ハリウッドを代表する2大演技派俳優共演という言葉を聞くと、ワクワクする映画ファンは筆者だけではないはずだ。それも、過去に同じ映画に出演しながらも現在と過去に分かれ、実際に共演するシーンがなかったふたりがいる。それはアル・パチーノとロバート・デ・ニーロだ。ふたりの共演映画は1974年のフランシス・フォード・コッポラ監督『ゴッドファーザーPARTⅡ』で、パチーノは現在のパートでマイケル・コルネオーネを、デ・ニーロは過去のパートで第1作でマーロン・ブランドが演じたドン・ヴィトー・コルネオーネの若き日を演じた。デ・ニーロはこの映画でオスカーの助演男優賞を獲得し、演技派スターへの道を歩み始める。一方、パチーノは主演男優賞にノミネートされるも獲得できず、その前後も何度かノミネートされるものの獲得には至らず、1992年のマーティン・ブレスト監督『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』でようやく主演男優賞を獲得する。そんなふたりが初共演したのが、マイケル・マン監督が1989年のテレビムービー『メイド・イン・L.A.』をセルフリメークした『ヒート』だ。筆者が初めて観たのは、現在は竹芝に移転してしまったが、五反田にあったころのイマジカの第一試写室。この試写室はTHX認定の試写室で、音響の良さには定評があった。そこで行われたマスコミ試写で観て、中盤の銃撃戦をメインにあまりの音響の良さにびっくりしたものだった。地上波で初放送されたのは1998年4月12日にテレビ朝日の『日曜洋画劇場』で157分枠(本編は約130分)だった。吹き替えキャストはパチーノ=菅生隆之、デ・ニーロ=津嘉山正種、ヴァル・キルマー=山路和弘、トム・サイズモア=大塚明夫という顔ぶれだった。ちなみにソフト版はパチーノ=青野武、デ・ニーロ=津嘉山正種、キルマー=大塚芳忠、サイズモア=牛山茂。その後、リバイバル上映もあまりされず、スクリーンで観られる機会が少ないのは残念だ。
 プロの犯罪者であるデ・ニーロ演じるニックが、キルマー演じるクリスたちと現金輸送車を襲い、有価証券を奪う。パチーノ演じるロス市警の刑事ヴィンセントは陣頭指揮を取り、少ない証拠から次第にニックたちに近づいていく。そして、ニックたちは1200マンドルの上がりが見込める銀行襲撃の話を受ける。襲撃当日、ニックたちは銀行を襲撃し、タレコミから襲撃を知って駆け付けたヴィンセントたちと銃撃戦を繰り広げる。
 映画はニック率いる強盗団側とヴィンセントが所属するロス市警側の物語が交互に展開し、それぞれのドラマがじっくりと描かれていく。パチーノとデ・ニーロが直接相対するのは中盤を過ぎてからで、高速道路で遭遇し、コーヒーショップでふたりが対面で座り、緊張感のある、息詰まる演技を繰り広げる。ふたりの共演場面が少ないのではないかという不満もなきにしもあらずだが、この映画の構成から考えるとふたりの共演シーンはあえて少ない方がいいのではないかと思う。それぞれが単独のシーンだけでも映画として成立するし、あのシーンで対峙するからこそ、後半の銃撃戦、クライマックスの対決シーンも意味合いが出てくる。約171分という長尺だが、ドラマを重視し、それぞれの持ち味で物語を引っ張るマン監督の緻密な計算が所々に施されている。さらに、最大の見どころである銀行襲撃からの銃撃戦のシーンは実弾の発射音を使っていることもあり、その迫力はハンパなく、後の映画にも影響を与えたというのも頷ける。ふたりを囲む女優陣はダイアン・ヴェノーラ、エイミー・ブレネマン、アシュレイ・ジャッド、子役時代のナタリー・ポートマンが出演。ベテランのジョン・ヴォイトほか、ミケルティ・ウィリアムソン、ウィリアム・フィクトナー、デニス・ヘイスバート、ザンダー・バークレーなど、後に海外ドラマでよく見かける俳優たちも顔を見せている。
 パチーノとデ・ニーロは後に2008年のジョン・アヴネット監督『ボーダー』、2019年のマーティン・スコセッシ監督『アイリッシュマン』で共演しているが、やはり、脂の乗り切った、渋くてカッコいいふたりが共演するこの『ヒート』が一番いいと、最近観直してみて、個人的に思う。今後、4Kデジタルリマスター版、もしくは『午前十時の映画祭』あたりで上映されないだろうか。あの銃撃戦を大きなスクリーン、いい音響で久しぶりに観てみたいものだ。

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