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「個と個で一緒にできること」をたずねて #編集後記

毎年書いている気がするけど、2022年も目の前のことをひたすらやっているうちに、あっという間に年の瀬を迎えた。編集の仕事は表に見えづらかったり、クレジットがあってもさらりとだったりするので、どこかにポートフォリオとかまとめておかないと……と思いつつ今年も実行できていない。

去年立ち上げた「#編集後記」も、この投稿が今年初という状態。どのメディアのどの記事も印象深くて、何か1つを取り上げるのが難しいよなあ、と思っているうちに時間だけが過ぎてしまった。

ただ先日、福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉の仕事で、「何かを世に出したあと、ちゃんと振り返るのって大事だよね」という(すごく基本的な)ことを痛感した。2022年で一番、個人的に編集本数が多かったメディアでの、編集部の座談会でのこと。

正直ちょっと長いけど、自分たち自身の大事な記録でもあるので1万字の記事にした。記事でこぼれた写真を、アザーカットとして紹介できたのもうれしい。

もちろんここには、話の流れ的に触れられなかったり構成上カットしたりした話がいくつもある。FC今治の岡田武史さん×ゆるスポーツの澤田智洋さんの対談とか、甲賀市の「やまなみ工房」さん訪問記などは振り返れたけど、一方で個人的に“絶対残しておきたい”記事をいくつも入れられてなかったりする。

なので今日は2022年の大事な記憶として、ささやかだけどnoteでちゃんと記録して、次につなげようと思う(来年は溜めずにもっと書くぞ……と!)

「子ども」と「言葉」をテーマにした対談

最初は『まとまらない言葉を生きる』の著者・荒井裕樹さんと、上町しぜんの国保育園の青山誠さんの対談。今の社会、暮らしを飛び交う「言葉」と、子どもたちが置かれた状況への違和感について、このお2人なら大事な問いかけをしてもらえるんじゃないかと考えた。

初対面だった荒井さんと青山さんの話は、『まとまらない言葉を生きる』の続きを聞いているような時間になった。コロナ禍から2年が経つ今、いろいろなものが元に戻ったり“なかったこと”にされようとしていたりするのを日々感じるなかで、僕ら大人が声をあげることをやめちゃいけない、と読むたびに促される。

あと「ミーティング」の実践に対する荒井さんの質問に、青山さんが「一人ひとりの存在をくっきりさせること」と返された言葉の意味も、その後何度も考えている。最近は「子どもの声を聞く」という話に触れる機会が多くなってきて、いいなと思う反面、その難しさも感じるからこそ。

自分が保育とか幼児教育にベースを置いてることもあって、この記事を〈こここ〉で一番読み返しているかもしれない。執筆は大島悠さんに依頼。

抗議というよりは、子どもがここにいるよって伝えたくて。

子どもたちの靴って、実際に手に取ってみるとすごく小さいじゃないですか。そういう実感をもって社会のことを考えてほしい。子どもたちの存在を感じながら、話をしてもらいたいと僕は思うんです。(青山誠さん)


「まるっとみんなで映画祭」の取材

バリアフリー動画配信サービス「THEATRE for ALL」の活動から始まった「まるっとみんなで映画祭」に関連して、2本の記事を制作した。

1つ目は、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』の著者・川内有緒さんと、THEATRE for ALLを統括する金森香さんの対談。川内さん監督の新作映画が「まるっとみんなで映画祭」で上映されることをふまえて、情報保障とは?や、感覚の違いを認め合える社会ってどんな状態?といったテーマを考えていった。

編集部の問いかけに金森さんが迷いながら答え、それを受けた川内さんが「そのプロセスや時間にこそ価値があるのでは」と返されたところを中心に、2人の細やかなやりとりがなされるシーンがハイライト。執筆は友川綾子さん、撮影は川瀬一絵さん。

ダイバーシティなどと言われるけれども、それぞれの人がそのままで肯定される社会をつくるのは簡単じゃない。けれど、その意識を全体にまで広げなくとも、もっと手前で、“個”としての自分の好きなものを見せ合うことはできるはずです。

白鳥さんは美術館が好き。私はそれが別物かもしれない。みんな、何かあると思うんですよ。(川内有緒さん)


2つ目は、那須高原で開催されたリアル上映会「まるっとみんなで映画祭 in NASU」にて。会場のGOOD NEWSで就労支援の仕事をする小宅泰恵さん(バターのいとこ)と金森香さんの対談で、野外上映を振り返りながら、インクルーシブな環境ってどうつくる?と具体的なお話しをしていただいた。

小宅さんが話された工場での実践はすごくリアルで、「働きやすい環境」って結局どういうこと?と悩んでいるビジネスパーソンなどにもぜひ読んでほしい内容。一方で、GOOD NEWSとTHEATRE for ALLそれぞれの思想と、今回の映画祭の取り組みとの重なりも随所で感じられたので、そのことができるだけ伝わるよう記事構成にはかなりこだわった。

執筆はウィルソン麻菜さん、撮影は加藤甫さん。余談だけど、この取材は6歳の息子と娘を帯同させてもらって、チームにたくさん助けてもらった。

二人の対話を聞きながら、フレンドリー上映会のなかのある場面が思い返された。少し暗くなる映像を見た小さい子どもが「こわい」と親に伝え、ライトが明るく照らすお店のほうに抱っこされて行ったのだ。

「たくさんの人に見てもらえるように」と作られたアニメーションでも、静かなシーンをわくわくすると感じる人もいれば、怖いと感じる人もいる。多様な感情の先で、見続ける、一度離れるなど、それぞれの心地よさを選べればいい。スクリーンと広場、店舗が共存するその空間には、まさに「個人の状況や事情」に合わせた多くの選択肢があった。


専門家をたずねる『こここスタディ』から

〈こここ〉の柱として育ってきているシリーズ『こここスタディ』。僕が2022年公開で担当したのはこの3記事だけど、他もすごくいいのでぜひ。

まずは「子育て」や「教育」の現場をよく知っていて、多様な子どもたちの支え方について研究・実践する星山麻木さん(明星大学教授)。「発達障害」をテーマにした初の取材記事で、大人にかかった“呪い”、その連鎖を解き放つために教育ができること……僕が聞きたかった話をたっぷり伺った90分を記事化させていただいた。執筆は遠藤光太さん、イラストは惣田紗希さん。


それから、「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」を運営する医師の西智弘さんのお話。僕は妻が看護師なので医療から見たケアの捉え方も興味あったし、「専門家って何だろう?」という問いもずっと持ってたので、今回の取材でそこのヒントが一つもらえたのは大きかった。執筆はもろずみはるかさん、イラストはおおえさきさん。


最後に、「障害の社会モデル」をテーマにしたバリアフリー研究者・星加良司さん(東京大学教授)のインタビュー。“障害”という概念の歴史を紐解きながら「医学モデル」「個人モデル」との違い、よくある誤解までを解説した記事で、構造的な問題に踏み込めたのがよかったのか、SNSのシェアもかなり多め。執筆は庄司智昭さん、イラストは間弓浩司さん。


『福祉のしごとにん』で大阪へ

振り返り座談会で触れた『アトリエにおじゃまします』とあわせて、個人をたずねる『福祉のしごとにん』は現場訪問の大事なシリーズ。滋賀に拠点がある僕は、主に関西圏の取材を担当している。

今回は前職(出版社)時代にいた大阪で、何度か名前の聞いたことのあった〈NPO法人み・らいず〉(今は〈み・らいず2〉)から、設立メンバーの1人、枡谷礼路さんにフォーカスした。

当日は、堺市の放課後等デイサービス「beみ・らいず」の見学もあわせて。移動支援、という事業への思いとあわせて、枡谷さん個人の視点もたくさんいただいた取材だった。「本人がどう思うか」をさまざまな角度で語られてたのが印象的。執筆は北川由依さん、撮影は進士三紗さん。

自分とは違う人が隣にいる、ということが、ちょっとずつ受け止められやすくはなっているんだと思います。それがもっと進んで、「いろんな人がいる状態が普通だ」という感覚が当たり前の社会にしていきたいですよね。


グッドデザイン賞とのコラボ『デザインのまなざし』

グッドデザイン賞を主催する〈日本デザイン振興会〉の連載、という位置付けで、福祉とデザインのまじわるところをたずねる『デザインのまなざし』シリーズ。2022年公開の4記事、どれもすごく大事で選べない。執筆は塚田真一郎さん、矢島進二さん、撮影は進士三紗さん、加藤甫さん。

1月に公開したのは、難病を抱える子どもとその家族が過ごす「TSURUMIこどもホスピス」から、代表の高場秀樹さん、看護師の市川雅子さん、西出由実さんのインタビュー。建築デザインと運営両方の視点で語られた“ケアの拡張”、「今は今しかない」という言葉の重みなど、これも何度も読み返す記事に。


3月に公開したのは、障害のある人の描いた絵やフォントをパブリックデータにする「シブヤフォント」のプロデューサー、磯村歩さんの記事。「どうポジティブにその人の力を見立てていくか」という言葉に、デザイナーのすごさと福祉分野での必要性を改めて痛感。


8月に公開したのは、公共冷蔵庫ともいえる「コミュニティフリッジ」を運営する〈北長瀬エリアマネジメント〉石原達也さんの記事。スマホを介しあえて「顔を合わせない」しくみにした距離感のデザインが絶妙で、多くの人の行動を変える取り組みだなあと素直に感動した。


11月に公開したのは、福祉施設とデザイナーの協働するブランド&しくみ「See Sew」を率いる、〈NPO法人motif〉井上愛さんと愛知県立芸術大学教授・本田敬さんのインタビュー。立場の異なる2人が、自分が何を大事にし、互いに何を伝えたり尊重しあっているかが感じられるすごくいい時間だった。


(これら連載のほかに、40本近い〈こここニュース&トピックス〉も編集。書いていただいたのは、遠藤ジョバンニさん、北川由依さん、ちばひなこさん、林貴代子さん、福井尚子さん。テーマも広がって、印象深い出会いがすごくたくさんあった1年だった)

「個と個で一緒にできること」をたずねて

〈こここ〉というウェブマガジンの語源であり合言葉である「個と個で一緒にできること」は、創刊時から自分のなかでかなり刺さっていたフレーズだった。僕が考えたものではないけれど、“一緒に”を今掲げることは密かに大きなポイントだと、最初聞いたときから思っていた。

僕が大学生〜出版社での勤務をしていた00年代〜10年代半ばは、ウェブでの情報の取得や発信が当たり前になり、さらにスマホ登場で人といつでも簡単につながれるようになった時代。”個”の可能性が広がる一方で、激しい変化はスタンスや生きる環境のズレをどんどん可視化し、差を拡張していったように思う(いわゆる「分断」とよばれる現象もこの結果の一つ)。しかも変化を分析するような議論の多くが、構造的要因を問うているようで、結局は個人の対処(自己責任論など)に回収されていった気がしている。多様性が大事……と言われながら、どこか「自分には関係ない」ことばかり溢れる、バラバラな状態が進んでいないかなと感じていた。

“一緒に”や“みんなで”というのは、保育や教育の仕事をしていると本当によく耳にする言葉だ。けれど、その意味ってどのくらい考えられているのだろう? 自分の子どもを見ていても、人と人が一緒に生きることは全然簡単じゃない(ものすごい葛藤や衝突がある)。でも、一緒にいるからできることがあることも彼らはよく知っていて、“一緒に”のハードルを時にひょいひょいと鮮やかに乗り越えていく(もちろん、乗り越えられないこともあるけれど。)

そんなワードを“個と個で”に組み合わせた合言葉は、自分にとっても大事なものになっているし、福祉の現場にいて取材を受けてくださる方々にも伝わっている気がする。振り返り座談会でも書いたけど、取材の終盤にそこに寄せて思いを語ってくださる方が本当にたくさんいたのが印象深かった。

今回のnoteは〈こここ〉限定で振り返ったから、他のメディアの取材事例は一切紹介できてないのだけど、本質的に「個と個で一緒にできること」に関わってきそうなお話は2021年特によく聞くことがあった(広報の仕事でも、ローカルの仕事でも)。逆にいえば、その切り口でもう一度たずね直したい先がたくさんあるということ。次にどんな企画をいこうかいつも迷うけれど、ここを考え続けていくようなテーマは、来年もたくさん見つかる気がしている。


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