見出し画像

きっと春に雪が降るようなことじゃない

今日は知り合いが、少し前の約束をよく思い出すわね、と言う。どこか、もの思いに耽るような顔をして。

連絡が来る。明るくなっていく街からの光で部屋が青くなる頃。素直になって言うべき大切なことを隠す。これで、何回目だっただろう。

誰かが本当にいなくなってしまうような、そんな事が日常の真隣にはあるはずなんだ。それは、きっと春に雪が降るようなことじゃない。



今日も知り合いが、少し前の約束をよく思い出すわね、と言う。どこか、もの思いに耽るような顔をして。

誰かが僕に放った言葉や、いつか見た景色や、感じたことは、さまざまな自分を行き来する為の通路みたいなところに影響を及ぼすのではないか、と最近思う。
意識の及ぶところではないが、回路を新しく繋いで増やしていく感じ、というか。(その回路を無意識記憶で飾っていく感じとも言える?)
人が軽々しく変われるはずもないのはそのためで、だけど、常に軽々しく変わり続けているとも言える。こんな事をかれこれ9年くらい考え続けている。



今日も知り合いが、少し前の約束をよく思い出すわね、と言う。どこか、もの思いに耽るような顔をして。

物事の輪郭を掴む事は、本質的な事ではない。物事と自分がただあるだけだ。

君はこうでこうなんだね、とその人の特徴を知る事。自分はそれに対してどう思い、考えるかと問う事。
自分の快適さのために誰かを平然と傷つけている事。
社会の中での汚らしい豊かさはそうやってしか手に入らない事。
嫌になる事を避ける事で、より全てを嫌になる事。



今日も知り合いが、少し前の約束をよく思い出すわね、と言う。

繰り返していく日常、袋を開けるまでわからないカードパック、他人事とゴシップだらけのテレビ、意味のわからない現代詩、遠い遠い所にあるもう一つの銀河、118円のカップ麺、見るからに頭の悪い評論家、取り沙汰して大仰に見せる問題、昔習っていたスイミングスクールの先生の顔、何かを残せそうな筆記具、起きてすぐに消える夢、あの日降り立ったサービスエリア、美味しくなかったグミの袋、朝日、光。


明日もきっと知り合いが、少し前の約束をよく思い出すわね、と言うんだろう。何度も、何度も、回る。ちっぽけな指先を見る。


2024.04.13

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?