見出し画像

懐かしの講義

先日,職場の同僚(兼中学高校の同窓生)と会食しました。

よもやま話をする中で,話題は自分たちが大学生だったころの印象的な講義の話になりました。

指導教員となるゼミの先生との思い出が一番なのはもちろんなのですが,(そういえば大学1年生のときの基礎演習の先生は誰だったか…???)
「講義」となると,特に印象に残るのはK先生「政治学入門」の講義と,お名前は忘れてしまったが一般教育科目「人類の歴史」の講義。

どんな講義だったかというと……。

1.「政治学入門」

K先生は国際政治がご専門でしたが,「入門」とは言いながらとても「入門」レベルではない濃い講義をしてくださいました。

ちょうど時代は「マルタ会談」で米ソ冷戦の終結が宣言されて数年後のこと。

ようやく緊張が緩和され,ソ連も解体されて,少しずつ世界が平和な方向へ進んでいくのかな……という空気が世間をたゆとうていたこの時期に,「アメリカとソ連がイデオロギーで対立する時代は終わったかもしれないが,アメリカの外交戦略は依然として冷戦時代と変わっていない。『冷戦』は終わっていない!」ということを熱く熱く語ってくださった先生でした。

令和のこのご時世には,後ろ指をさされてしまうかもしれない「古い」言葉遣い(平成のその時代でも,ちょっと古めかしい言い方…例えば女性の学生のことを「女学生」とか…)がちろちろ飛び出してしまうことも相まって,このK先生の言動を研究する機運が一部学生の間では高まりました。

「こんな場面でK先生はこんな発言をした」みたいな言行録が集積されていく中で,先輩が,「私はK先生のこの科目の期末試験で,こういう答案を書いてよい評価をもらった」なんていう情報も集積されていきました。

2.人類の歴史

こちらの講義は「人類の歴史Ⅰ」と「人類の歴史Ⅱ」と2科目4単位ありました。

こちらの先生は,文字通り「自分で書いてきた『講義ノート』を読み上げていくだけ」の講義で,率直に言って個人的には「聞くに堪えない」講義でした(一般教育科目でもあるし,私語も横行していたし…)。

しかしこの科目が,在学中に履修した一般教育科目の中で一番印象に残っている科目なのは何とも皮肉なことです。

こちらは,前期(春学期)に「アフリカゾウとインドゾウ」の話,後期(秋学期)に「ハーメルンの笛吹き男」の話がひたすら続きました。

アフリカゾウとインドゾウでは,インドゾウの方が大きいのに,なぜアフリカゾウの方が大きいという誤解があるのかとか,ハーメルンの笛吹き男の話の背後には,ネズミが媒介することによって広がった黒死病があるとか……。

正確な記憶ではありませんが(そして,調べ直す気力もないですが),おおむねそんなお話だったと思います。今思い返せばそれなりに面白いテーマだとは思いますが,この科目の講義を「古き良き大学の『講義』」だったとは……やはり言いたくないですね。

3.その他

あともう一つ,印象に残っているのはO先生の憲法の講義です。第9条の講義の時には,先生に質問しに行きましたねぇ。

私:敵国にスパイを送り込んで敵の元首を暗殺することで,戦争を回避するのは合憲でしょうか?

先生:合憲・違憲以前に,主権国家に対する内政干渉でしょう

この先生は,「群衆蜂起は誰にも止められないのだから,自衛隊を廃止して非武装となったのち,万一外国の侵略をうけることになっても,そうやって自衛権を行使するのだ」と強調されていました。今のパレスチナ・ガザ地区の惨状を見ても,O先生はそうおっしゃるのかしら。

4.おわりに

大学時代は法学や政治学が専攻でした。まだ東西冷戦が終わって間もない時期だったこともあって,「イデオロギーが濃い」先生方(一部学生)にたくさん出会いました。そんな先生や学生に言い負かされまいと頑張っていたように思います。

結果的に,以前ご紹介した二人の先生が

何故に授業という言葉を使わないか?
授業は、字の意味でいくと業(ワザ)を授けることです。
つまり、授業をするということは、相手に知識を与えようという意識が必要になります。しかし講義は、別に知識を与えることを目的とはしていません。自分の学説を論じてみたり、研究の一端を解説して、それを学生が一生懸命理解しようとするのが、講義なのです。(適宜改行は修正した.)

「大学教員の日常・非日常」ブログ

びっくりするな。 大学で授業とか。 講義であって、議論を促す場なのに。 学生一人一人が、自分で調べて、考え、教授にエビデンスを揃えて、議論して学んで行くから「大学」なのに。 小学校みたいに、手取り足取り、おんぶに抱っこじゃない。

Shizuka Uchida氏のX(旧Twitter)2023年1月10日のポスト

と述べた,理想の「講義」のありようを,私自身は体現していたのかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?