「ピルグリム2019」1回目の鑑賞を終えて。【今の巡礼者たちはどこに向かって歩けばよいのだろうか】

そういえば「黒マント」といえば大高洋夫さん!のイメージが強すぎたんだけど、
実は大高さんの「黒マント」って、生で見たことがなかったことに気づく。
唯一生で見たのは2003年。大森博さんが黒マント。
大高さんの印象が強いのは、戯曲を何度も読み込み、DVDで何度も何度も見たからだと思う。
でも、最後に観てからは多分15年以上、全く見ていない。全然そんな感じしなかったのに。

ということで、私としてもほんとに15年以上振りの追体験となった、
虚構の劇団第14回公演「ピルグリム2019」。
虚構の劇団としても1年ぶりの公演。久しぶりの「第三舞台」作品の虚構版上演。
私も結構楽しみにしておりました。

…でもね。中盤以降ずっと、「…あれ?こんな物語展開だったっけ?」って、
なっちゃったんですよ。
いや、思い出してみたらほとんど本筋は変わってない(はずな)んだけど。
自分の中から「ピルグリム」と言う物語が一旦リセットされてたことに驚いたのです。
観終わったあとしばらくその「忘れていた」ことに驚きつつ、一方で清々しさも感じるという、実に奇妙な感覚に浸っておりました。この感覚、決して悪くないというか。なぜなのだろうと。

30年前の初演時は「ダイヤルQ2」という、0990で始まる伝言サービスが隆盛。
私も真夜中にドキドキしながら、いろんなダイヤルを当てずっぽうでかけたりしたことがあります。
色んな叫びや呻きの中に隠れた「誰かと繋がりたい」と言う願いを表現する最先端だったことは間違いなく、だからこそこの「ピルグリム」はその願いの行き着く先を必死に探しもがく物語として、10代〜20代の私に響いてました。

今は当然SNSが主軸になるわけで、主軸となるキーワードは「つながり孤独」となり、「沢山の人がいるからこそ寂しい」っていうのは、私自身も時々痛烈に感じています。30年前には決して知ることができなかった、2010年代ならではの痛みです。「理想の共同体」と言う存在に求めるものは、1980年代と2010年代では全然違ってしまったのだと。


だから私は「私の中でピルグリムと言う物語を忘れてしまった」んだと思うのです。多分。
そして再び掘り起こしてくれたこの「ピルグリム2019」。
第三舞台で上演したときの劇団員の年齢と、今の虚構の劇団のメインメンバーの年齢は、ほとんど同じ時期ですよね。
演出的には今回の2019年のほうが落ち着いて見えました。過激なオーバーアクションはそれほど多くなく、でも2019年の要素もしっかり入れ込んでいて、きちんとアップデートしておりました。


多分1980年代に上演するより、今上演するほうがこの物語、役者としては難しいと思うのですよ。
実は終演後に小野川晶さんにご挨拶したとき、思わず「難しくなかった?」って聞いてみたんですね。
そしたら小野川さん「確かにまだ分からないところもあるけど、分からないのは分からないままでもいいんじゃないかな?って思えるんですよ」って、おっしゃってたんですよね。
それを聞いてほぉっ!って思いましたね。劇団員、たくましくなったなぁと。

虚構の劇団はこれまでにも何度か第三舞台時代の作品を上演してきましたけど、これまでだと「分からないからなんとか必死にわかろうとしている」感が強くて、確かにそれは良いことではあるけど、一方で劇団員が悩み苦しんでるところも垣間見えることもあったんですよ。観てるこちらもハラハラするというか。

でも、今回の「ピルグリム2019」は、そのハラハラが殆どなかった気がします。劇団員の地力も勿論上がってきてるんだけど、「分からないのは分からない」っていうのをキチンと見せられるっていうのは、それだけ自分たちの芝居に自信をつけてきた証拠だと思うので。
10年間と言う年月の強さと、(特に10年間残ってきた)劇団員の安定感が十二分に発揮された作品でした。

でも…いや、だからこそこの「ピルグリム」と言う作品は、1989年よりも今のほうがずっと「難しい物語」になってしまった気がするんです。
いまの若者はどの「オアシス」にたどり着けばいいのか、たどり着かなくてはいけないのか。
他社がはっきりわかりすぎてしまう故に孤独を感じざるを得ないし、自分の言動が他人のを刺激してしまうかもしれないという恐怖に晒され続ける時代に、
「さて、問題。オアシスはどこでしょう」
この言葉がより突き刺さってしょうがないのです。

何度も観ている作品のはずなのに、今が一番難しいという未知の体験に戸惑っています。
なので、2週間ちょっと自分の中でもう一度反芻し続け、千秋楽に2回めを見に行く予定なので、そのときにこの難問に再び立ち向かってみようと思います。

ですので、今回はとりとめなく終わり。
役者個々の感想はちょっと配役のネタバレになるので、また後日。

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