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インスリン、糖尿病、生活習慣病(1)余り知られていない「インスリンの常識」

「インスリンは血糖値を下げる」というのは間違い。「筋肉・脂肪組織」にブドウ糖を取り込んでいいという許可を与えるのです。「筋肉・脂肪組織」がブドウ糖を取りこむから結果的に血糖値は下がるのです。「筋肉脂肪組織」以外の細胞はインスリンの許可がなくとも、必要に応じてブドウ糖を使います。

インスリン注射は血糖値を下がげるが、ブドウ糖量に対してインスリン量が多すぎると低血糖となり、下がりすぎると簡単に死ぬ。

「糖質制限者」はケトン体が有るから(細胞はブドウ糖以外の物質をエネルギーにしている)食事から炭水化物を取らなくとも大丈夫というが、それならば年間4万人以上の(インスリン注射による)低血糖患者が入院することはなりまっせん(要出典)。

インスリンは動物の共通のもの?

インスリンによるブドウ糖の制御は多くの動物に見られます。1920年にインスリンは発見されて2年後に薬品として認可が下りますが、その時のインスリンは豚の膵臓から抽出したものでした。

豚のインスリンとヒトのインスリンの差は3箇所しかありません。豚の膵臓を食べても、インスリンは分解されるために低血糖は起こりません。

注射で体内に入れなければ効果はないのです。ちなみに、インスリンは膵臓から分泌されて5分で分解されます。食事の量に合わせて分泌され、筋肉と脂肪に許可を与えますが、すぐに消えるのです。ですから私達はインスリン注射をしない状況では低血糖を起こしません(トライアスロンなどで起こる場合はありますが、まれです)。

1980年前後まで、日本ではインスリンの治療(1日3回の自己注射によるもの)は違法でした。しかし、海外で大腸菌の遺伝子操作でインスリンの生産が起動に乗ると法律の改正がされました。

日本人にも売るだけの供給が確保されたのです。II型の患者にインスリンを売りつけるようになったのもこのおかげです(注)。

その後、II型糖尿病に対してもインスリンは処方されます。現在のI型の患者数は5%程度と言われています。


筋肉組織は何をする?

「運動するためにある」というのはある意味間違い。筋肉は二種類ある。随意筋(横紋筋)と言われる骨と骨を「ケン」で繫いで身体を動かす筋肉と、血管や消化器に分布する不随筋(平滑筋)=意図しては動かせないがある。そのうちの「随意筋組織(運動で使われる)」の方がインスリンの許可がないとブドウ糖を取り込めない(心臓の筋肉を除く)。

この筋肉組織は毎日5%〜20%を分解して体液に放出して、同様の分を取り込んだブドウ糖を利用してもう一度作る。人の生命活動に欠かせない「アミノ酸」をプールしている。すべての細胞は体液からアミノ酸を受け取り、自分の中で使い、不要のものを外付に放出する。タンパク質の寿命は数分から数日なのです。

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I型糖尿病の患者がやせ細っていくのは、インスリンが体液の中に流れていないために、ブドウ糖を取り込む許可が出ない。そのために、筋肉の組織はタンパク質の再構築が出来ない。ミトコンドリアでのADP<->ATPサイクルにおいてはケトン体が使われる場合もあるがあくまで補助的なものだということはこの記事の写真を見ればわかる。

もちろん激しい運動をするときのためにブドウ糖はグリコーゲンという形で筋組織内にも保存される。そして、もう一つ、筋組織は運動をするとインスリンの許可がなくともブドウ糖を吸い込む。僕の体で実験した。

脂肪組織は何をする?

細胞は脂質の膜にタンパク質が埋め込まれている。また、細胞同士もタンパク質を縫い糸に強く繋がり(タイトジャンクション)皮膚や組織を隔離するシートになる。また、細胞は他の細胞に自分を伝えるための言葉としても脂質を使う。細胞は「脂肪滴」と言われる脂質の倉庫を持っている。異所性脂肪という言葉で恐れる人もいるが、そもそも身体の当たり前の機能だ。

脂肪組織はブドウ糖を取り込んで脂質を作る代謝系を持っている。肝臓でもブドウ糖から脂質は作られ、血液中に放出される。つまり、炭水化物は脂肪と同じ扱いが出来る。

70兆とも言われる細胞はそれぞれに自分の細胞膜をメンテするために脂質を取り込む。同時に組み替えられた脂質を体液に放出する。

生活習慣病は症状のない検査値の異常

1996年厚生省は「生活習慣病」と言う名称を定めた。「生活習慣病」とは行政用語なのだ。特定の「原因」があり、一般的な進行をするのが「病気」である。「検査値の異常」が「疾患の原因」であるという仮説のもとに、この名前はつけられた。しかし、分子生物学的な機序は見つかっていない。

2010年位まで、専門書には『「高血糖が毛細血管をボロボロにする」機序が見つかるだろう』という予測がなされていたが、全く見つかる気配もない。「最終糖化物質」が血管をボロボロにするというが、もう何十年も多くの研究者が探しても見つからない。もし見つかったら製薬会社は大金を得ることになるが、いつまでも最新の知見では「あと一歩」のままだ。

調べれば調べるほど、最初の仮説が間違えているのではないかと思えてきた。つまり、検査値と疾患は相関関係はあるが因果関係はないと思えてきたのだ。これは『50年の社会の変化=食事の商品化=両者に対しての原因』というものとも整合性が有る。

可愛そうな「I型」と自己責任の「II型」とは何が違う?

「I型」とは膵臓が自己免疫疾患(など)でインスリンを作り出す細胞が完全に失われインスリンが分泌されなくなった人を指します。小学校〜高校くらいで発症することが多いが、40代くらいでも発症す場合もああります。この場合を「劇症型I型糖尿病」と呼ぶこともあります。朝熱っぽくって、夜にはなくなっていたとか有るといいます。また逆に、膵臓炎が少しずつ進行して、II型の状態になり、10数年でI型になってしまう場合もあります。

ちなみに糖尿病は「遺伝病=DNAにおける遺伝子の欠損」で起こる病気ではありません。母体から離れた瞬間から死ぬまでインスリンは分泌され続けるのです。インスリンの遺伝子の欠損が有る子供はインスリンは作れないので、「高血糖ー>アシドーシス」となり数日の内に亡くなります。

血友病のような病気は遺伝することが確認されていますが、そういう意味では糖尿病は遺伝病ではないのです。

とは言っても、同じ家族に糖尿病が現れる事が知られています。このために、「家系に糖尿病患者が居ると結婚できない」ともいわれます。この問題はまた今度。


「境界線型」ってなんだ?

境界線型というのは、血糖値を下げる薬を処方すると低血糖が起こる可能性がある程度の糖尿病なのです。「境界線型」と聞くとまだ大丈夫などと思いがちですが、実際には何らかの問題があります。僕はこの言葉に欺瞞を感じます。ベッカーさんの「糖尿病最初の一年」を読んで大変感銘を受けました。



糖尿病の治療:インスリン治療

インスリンは、(上記の機序により)血糖値を下げます。やせ細り亡くなるほかなかった子供が、インスリンの注射で元気にのは「ミラクル」でした。

食事の内容によって注射する量は決まります。インスリンは脂肪組織に注射され少しずつ静脈流に放たれて身体に満ちて許可を与え続けます。

許可を与えられながら、食事からのブドウ糖が少ないと低血糖とります。頭クラクラしたりするのですぐにアメを舐めたりブドウ糖を服用しないと問題が青こります。重篤な場合は入院が必要になります(年間4万人)。

風邪などで食欲のないときには「シックディルール」に従い飴などを舐めながらインスリンを打つ事になります。

老人になると自分で打ったかどうかわからなくなるので他人に打ってもらわ無ければならのですが、医師免許・看護師の資格がない人間が打つと違法でとなります。インスリン治療をしている高齢者が自分で打てなくなった場合は資格のある医師、看護師の居る施設に入る必要があります。

糖尿病の治療:インスリン以外の治療

インスリンは常に分泌されていなければなりません。「筋肉・脂肪組織」もエネルギーを使うので、最低限のブドウ糖が必要なのです。食事の時以外も少しずつ取り込まねばなりません。これを基礎分泌と言います。

私はII型で少しだけインスリンの基礎分泌があります。運動をしないと一時間で10mg/dl程度の血糖値が下がります。

食事をすると食事の量に合わせて必要以上の分を「筋肉・脂肪組織」にしまい込みます。これを追加分泌と言います。

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私は、満腹になるような「商品化された食事(カレーやラーメン)」を取ると一時間後でおおよそ350mg/dlまであがります。

インスリン以外の治療薬は3種類に類型化されます。

1)入ってこないようにする

これは、「糖質のブロッカー」と言われます。機能性食品やサプリメントでも多く見られます。それなりの効果はあるようです。また、「フェイクフード(私命名)」と言われる食品もあります。蒟蒻麺(糖質の多い素材を使わないで食感が同じように食べる)等が挙げられます。一時期は随分食べましたが今は全く食べません。やはり満足できないのです。鳥の胸肉を茹でて食べるような方法もあります。「満足・満腹」が食事には必要だと感じます。

まあ、この話題はまた今度、レシピの方で取り扱います。

2)膵臓にもっと出せと「ムチ」を入れる

一番古い薬剤は「SU剤」と呼ばれます。そもそもが別な薬として開発されたものが低血糖をもたらせたために糖尿病治療薬として使われだしました。

多用すると膵臓が疲弊するのでインスリンの分泌が少なくなるということを言う人も居ます。僕も随分この薬を処方されていたようです。

これに類する薬剤は多く、膵臓に力が残っている間は有効です。しかし膵臓がインスリンを作れなくなったら効果は望めません。

3)多いブドウ糖を腎臓から吐き出させる

これは、腎臓に働きかけて、尿から糖を外に捨てさせるものです。大変有望だと言われましたが、大きな問題を起こしました。そのために現在では注意深く処方されています。

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インスリン、ちょっと詳しいお話

世界でインスリンを作っているのは3社です。日本には注射器のメーカーとして有名な会社が何社もあります。

インスリン関係の特許が切れるためにサノフィ社は撤退するという報道がなされました。

インスリンは51個のアミノ酸が結びついて出来ています。A鎖とB鎖は膵臓のβ細胞内では結びついています。放出される際に両鎖は離れ活性を持ちます。

このアミノ酸配列は数多くありタンパク質の中でも短い方です。また最初にアミノ酸配列が特定されたタンパク質でもあります。赤い部分は必須アミノ酸。

当初は豚のインスリンと牛のインスリンを使っていましたが牛の方は副作用が強く、豚の方た使われていました。

インスリン

1980年代に大腸菌の遺伝子操作でつくられるようになりました。確か左が豚のインスリン(笑)

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効果のありすぎる薬は病の本質を見えなくする

「インスリンの発見」1993年 マイケルプリスの中で著者は『インスリンという特効薬は、多くの1型糖尿病患者にとっては福音であったかもしれないが、効果の有り過ぎる特効薬は時に間違いを犯す。』と語っています。インスリンの歴史を顧みた時わたしたちはこの言葉を忘れてはならないのです。

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厨房研究に使います。世界の人々の食事の価値を変えたいのです。