帰ってきたパワフルな歌声 〜 Beth Ditto『Fake Sugar』〜



 2006年に発表されたゴシップの「Standing In The Way Of Control」は、当時のアメリカ大統領だったブッシュが同性婚に否定的なことを批判した歌だ。フロントマンのベス・ディットーはレズビアンであることを公言しており、その立場から彼女は、ソウルフルかつパワフルな歌声で怒りを表現した。さらにこの歌は、ソウルワックスにリミックスされると、これまた当時のニュー・エレクトロ・ブームに乗り、さまざまなダンス・フロアでそのリミックスが流れた。現在ゴシップは活動停止状態だが、一時代を築いたバンドとして、多くの人々の心に刻まれている。


 そして今年、ベス・ディットーはソロ・アーティストとして帰還した。『Fake Sugar』と名付けられたソロ・デビュー・アルバムは、サザン・ロックの色合いが強い作品に仕上がっている。ダンス・パンクとも称されたゴシップ時代の激しさはないが、たおやかで心地よいサウンドには、人生経験を積んだからこそ生みだせる滋味が漂う。ベス・ディットーのヴォーカルも、繊細に言葉を紡いでいく表題曲から、持ち前のパワフルな声量が際立つ「Fire」など、非常に多彩だ。


 その多彩さはサウンド面でも見られる。先述したサザン・ロックの要素を基調にしながらも、表題曲のリズムはハウス・ミュージックに通じ、「Oo La La」ではエレクトロクラッシュを彷彿させるダンサブルなサウンドが鳴り響く。正直、革新性や先鋭性とは無縁の作品だが、さまざまな感情を上手く描写した歌詞も含め、ベス・ディットーの成長を楽しめる良盤なのは間違いない。

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