2000年代のポップ・ミュージック・シーンが生みだした 〜 映画『We Are Your Friends』〜



 「#仲間 #最高かよ

 おそらく、ツイッターのハッシュタグを意識したのであろうコピーが印象的な、『We Are Your Friends』。いまや音楽業界のドル箱となったEDMシーンを舞台に、若者たちの友情と恋を描いた青春映画だ。
 筆者の生活とはあまりにもかけ離れた華やかな世界は、観ていて目眩がしてくる。でも、コール(ザック・エフロン)とソフィー(エミリー・ラタコウスキー)がパーティーを抜けだしてデートするシーンなどは、いまもクラブ遊びに耽る筆者あるあるだったりして、思わずにやけてしまった。さすがに、いきなりセックスとかはないですけどね。せいぜい勝手にビルの屋上へ登ったり、ケバケバしいナイトライフの喧騒から取り残された静かなバーに行ったりする程度。そのなかで、「これからも頻繁に会いそうだなあ」と感じるくらいに仲良くなれたら、LINEのアカウントを交換したり。これが現実です。なかなか映画のようにはいきません。

 とはいえ、そんな夜遊びをしていなくても、この映画は楽しめると思います。さまざまな喜び、哀しみ、葛藤など、それなりに生きていれば誰しもが味わうであろうことも描いているので。正直、どこか学生ノリのワイワイ感は観ていて恥ずかしくなるのだけど、「自分にもこんな青臭い時代があったなあ」と思いふけてしまう筆者もいる。まだ穢れも知らず、ただ何かを夢中に追いかけていればよかった、そんな日々。
 いまは筆者も、社会人としてそれなりに多くの人たちと関わるなかで、“責任”を背負う場面がたくさんある。これが“大人になる”ということなんでしょうけど、そうした“大人になる”直前の人だからこそ出せる輝きと感情の機微が、『We Are Your Frends』にはある。

 この映画を語るうえでは欠かせない“音楽”についても書きましょう。先に書いたとおりEDMが題材の映画ですので、基本的にはEDMばかり流れます。
 ただ、そのなかでも一際興味深いのは、「We Are Your Frends」が使われていること。映画タイトルの元ネタになったこの曲は、ジャスティスがシミアンの「Never Be Alone」をリミックスしたもの。オリジナルは〈ジャスティス VS シミアン「Never Be Alone」〉として2003年にエド・バンガーから発表されており、翌年にはインターナショナル・ディージェイ・ジゴロからもリリース。この頃から徐々に口コミで広がりはじめ、ついには2006年、メジャー・レーベルのヴァージンから「We Are Your Frends」としてリリースされました。大ヒットは、メジャー・レーベルの大々的なプロモーションを経てというのが、おそらく一般的でしょう。しかし「We Are Your Frends」はその逆、ダンスフロアを中心にリスナーたちの間で大ヒットしてからメジャーがピックアップするという流れでした。
 これらの動きから筆者は、「これからの音楽業界はリスナー主導になっていくんだろうなあ」と思ったものです。当時はマイスペース全盛でしたが、その影響でアーティストとリスナー間の距離が近くなるという事象もあった。言ってみれば、レーベルやマスメディアを介さずとも、アーティストはリスナーに作品のアピールができ、リスナーはアーティストと直接コミュニケーションができる。そうした動きの象徴的存在は、正式に音源がリリースされていないにもかかわらず、ライヴで観客全員が大合唱したという伝説を持つアークティック・モンキーズでしょう。こうした2000年代のポップ・ミュージック・シーンを巡る動きが、『We Are Your Frends』という映画を生みだした。つまり、この映画にとってのルーツは2000年代のポップ・ミュージック・シーンにあるということ。このことを映画タイトルは雄弁に語っています。

 サントラにも、2000年代に巻きおこったディスコ・パンク・ブームを牽引した、ザ・ラプチャーの「Sister Saviour(DFA Dub)」が収録されています。この選曲、マックス・ジョセフが『We Are Your Frends』の監督であることをふまえると、一種の運命を感じてしまう。マックス・ジョセフは、ザ・ラプチャーを世に知らしめたレーベルDFAのドキュメンタリー、『Too Old To Be New Too New To Be Classic』を制作した人だからです。いわばこの映画、EDMシーンの人だけでなく、そのシーンができるまでの礎を築いた動きと関係ある人も集まっている。シミアンのメンバーだったジェイムス・フォードも、アークティック・モンキーズやクラクソンズといった、2000年代を代表するバンドの作品でプロデュースを務めてますからね。ただのEDM映画と言えるほど、『We Are Your Frends』は浅くありません。

 エレクトロクラッシュ、ディスコ・パンク、ニュー・レイヴ、エレクトロ・ハウスなどなど、筆者にとって2000年代のポップ・ミュージックはとても素晴らしいものでした。そんな筆者にとって、これらの要素が細切れに撹拌された形で表れる『We Are Your Frends』は、いろいろ変わりすぎてしまったことへの複雑な感情と同時に、旧友と久々に再会したような嬉しい懐かしみを感じられる映画なのです。

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