私たちは何世代?〜エコースミスとムラ・マサの緩やかな共鳴


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 ロサンゼルスの3人組バンド、エコースミスが最新アルバムを発表した。タイトルは『Lonely Generation』。日本語でいえば、《孤独な世代》という意味あいだ。
 このアルバムのオープニングを飾る表題曲で、ヴォーカルのシドニーはこう叫ぶ。

 〈We're the lonely generation(私たちは孤独な世代)〉

 なんともド直球なフレーズだ。ビルボードのインタヴューで3人も語るように、表題曲はソーシャルメディア以外での深い繋がりを持つことの大切さが歌われている。サウンドはドリーミーでパワフルなエレ・ポップだが、孤独感や寂しさが滲む歌詞は少々ダークだ。
 そうした表題曲と対比させるためか、他の曲は誰かとの繋がりを求める歌詞が目立つ。“Shut Up And Kiss Me”なんて、とてもわかりやすい歌だ。恋愛関係のもどかしさを歌ったような歌詞は、捻くれが過ぎる筆者からするとあまりにストレートすぎて、聴いてると心がむず痒くなる。

 とはいえ、作品全体で見れば、『Lonely Generation』は良作だと思う。現代社会に対する批評性を入れつつ、多くの人が共感できるであろうトピックも巧みに混ぜている。U2やキラーズといったバンドが脳裏に浮かぶサウンドも悪くない。スタジアムでも映えるニュー・ウェイヴと形容したくなる音楽性は、グッド・メロディーや多彩なアレンジなど聴きどころが多い。


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 『Lonely Generation』のリリースから1週間後、ムラ・マサがセカンド・アルバム『R.Y.C』を世に放った。ムラ・マサことアレックス・クロッサンは、イギリスのガーンジーで生まれた男。2017年のデビュー・アルバム『MURA MASA』で高い評価を得た後、2019年にはBTSとザラ・ラーソンのコラボ曲“A Brand New Day”でプロデュースを務めるなど、世界的なスターに駆けあがった。
 クロッサンの音楽を一言で表すのは難しい。大雑把にエレクトロニック・ミュージックと括ることもできなくはないが、そこにはヒップホップ、ダブステップ、ディスコ、ハウス、ファンクなど多くのジャンルを見いだせるからだ。強いて言えば、聴く人の音楽的背景によって姿を変える、映し鏡のようなポップ・ミュージックだろうか。

 しかし、『R.Y.C』でのムラ・マサは、従来の方向性とは異なるサウンドを鳴らしている。ギターが大々的にフィーチャーされ、パンク的なざらついた音色が際立つのだ。
 なかでも筆者の興味を強く引いたのは、2曲目の“No Hope Generation”。《希望なき世代》と名づけられた曲に耳をやると、ノイ!の“Hero”といったクラウトロックを彷彿させるサウンドで、とても驚かされた。歪な社会に対する諦念が滲む歌詞もおもしろい。庶民の生活を壊す緊縮財政や経済格差など、さまざまな問題を抱えるイギリスの状況が反映されている。実際、『R.Y.C』を作るにあたり、現在の世情がインスピレーションのひとつになったようだ。

 『MURA MASA』の次がこのようなアルバムになることは、なんとなく予想がついていた。2018年にスロウタイが発表した“Doorman”を聴いたことがある人なら、筆者と同じ予感を抱いたと思う。この曲でプロデュースを務めたクロッサンは、ロンドンのパンク・シーンが題材のドキュメンタリー『London Punk Entrepreneurs』(1985)からサンプリングしていた。“Doorman”自体も、ガレージ・ロック的な粗々しい音色も目立つインダストリアル・トラックだ。そうした流れをふまえると、『R.Y.C』にスロウタイが参加したのも自然なことだとわかるだろう。



 “Lonely Generation(孤独な世代)”と“No Hope Generation(希望なき世代)”。いまの若者がどんな世代なのか、筆者にはわからない。ただ、エコースミスとクロッサンには共通点が多い。たとえばエコースミスのメンバーは、それぞれ22歳(シドニー)、24歳(ノア)、19歳(グレアム)なのに対し、クロッサンは現在23歳と、ほぼ同世代と言っていい。
 ソーシャルメディアに浸かっていないのも同じだ。エコースミスは先述した通りだが、クロッサンもソーシャルメディアでプライベートな部分をあまり明かさないなど、距離を置いている。

 両者の視点やサウンドはだいぶ異なる。だが、ポップ・ミュージックのフィールドにおいて、同世代の若者たちが現在への批判精神を見せたのは、非常に重要な動きに思える。これをきっかけに、交わらないと思われていた人たちが交わり、現在への問題意識を共通点に緩やかな連帯が作られるなら、それを筆者は希望と呼びたい。



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