愛なき世代へ 〜 Lorde『Melodrama』〜



 2013年、当時16歳のロードことエラ・マリヤ・ラニ・イェリッチ=オコナーは、デビュー・アルバム『Pure Heroine』を発表しスターになった。このアルバムの収録曲では、セレブリティー文化の虚しさを歌った「Royals」が注目されがちだが、筆者は「Team」の歌詞に惹かれた。クラブやパーティーで盛り上がれと促されることにうんざりしてる描写や、映画に出てくるような華やかな街に住んでいない者の心情が、鮮明に描かれていたからだ。「Royals」の痛烈な批判精神は素晴らしいが、抽象と具象を上手く使いわける言葉選びのセンスもロードの魅力だ。


 そのロードが、セカンド・アルバム『Melodrama』をリリースした。本作と前作の大きな違いは、スターになった後のロードが作ったということ。いじわるな言い方をすれば、「Royals」で批判していたセレブリティー文化の一部に、ロードはなってしまったわけだ。しかし、それでもロードは、前作に通じる虚しさや孤独を歌っている。相変わらずクラブやパーティー的なシチュエーションが多く、ミラーボールきらめくダンスフロアの半歩外側から見た風景を描く。そこには、スターとなり多くの人々に囲まれても満たされないロードの孤独が色濃く滲んでいる。


 そうした孤独を強調するように、サウンドもメインストリームとは距離を置いたものになっている。「Green Light」ではマッドチェスターを想起させる高揚感たっぷりのピアノ・リフが鳴り響き、「The Louvre」では、ざらっとしたインダストリアル・サウンドに乗せてロードがゴシックな歌声を聞かせてくれる。売れ線というにはあまりにもマニアックな志向だが、恋人との別れなど、本作に至るまでの道程や哀しみを描くという意味では大正解だ。メインストリームとは距離を置くこと自体が、ロードの現況を示す比喩となっている。とはいえ、テイラー・スウィフトのコラボレーターでもあるジャック・アントノフ(ファン.のギター)が全面的に助力したこともあり、プロダクション面は端正でモダンな意匠が施されている。そのおかげで本作は、ロードの個人的な心情に、多くの人がコミットできる幅広さを獲得できた。


 しかし、何よりも多くの人を感動させるのは、スターになったことやそれによる変化とロードが向き合っているからだ。愚直ともいえるその姿は、虚しさや孤独に浸る自己憐憫ではなく、それらを受け入れて前進しようという泥臭い姿勢だ。
 本作は、前作ではほとんど見られなかったほろ苦い感情で満たされているし、ニュージーランドから出てきた10代の若者がスター街道を駆け上がる!といった爽快な物語もない。そのかわり、大人になるうえでの苦味をたっぷり味わった先の成長という、前作以上に私たちがコミットできる物語が綴られている。


 本作の6曲目「Feelings/Loveless」で、ロードは〈私たちは愛なき世代〉と歌う。しかし、そう歌うロードに、本作を聴いた者たちはたくさんの愛情を注ぐだろう。そうさせるだけの普遍性と切実さが、本作にはあるのだから。

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