たおやかなサウンドに乗って現れた詩人 〜 Cosmo Pyke「Just Cosmo」〜



 「Chronic Sunshine」のMVを観る(※1)。サウスロンドン出身のアーティスト、コスモ・パイクによるそれは、筆者を夢中にさせる要素でいっぱいだった。なかでも、フレッド・ペリーのポロシャツにテーラードジャケットを羽織るコスモ・パイクの姿には、これぞイギリス!と叫びたくなった...というか心の中では叫んだ。ゆったりとしたサウンドに乗る歌声にも惹かれた。10代とは思えない色気を漂わせ、コスモ・パイクというアーティストの可能性を筆者に教えてくれた。


 もちろん、今年2月に発表されたデビューEP「Just Cosmo」も入手し、愛聴している。レゲエ、スカ、2トーン、ヒップホップといった音楽が混ざり合い織りなすのは、たおやかで風通しの良いサウンドだ。アレンジは多彩で、突如ラップが始まる「Great Dane」など、遊び心も随所で見られる。アーティストでいえば、スペシャルズやジミー・クリフあたりが思い浮かぶ、そんな内容だ。


 歌詞も見逃せない。楽しいひとときだけでなく、生活するなかで頭によぎる不安や恐怖も曝け出す歌詞は、コスモ・パイクの日常にある匂いや呼気を描いている。変に背伸びしない等身大の言葉を紡いでいるが、その言葉が生み出す空気は、驚くほどのリアリティーを纏っている。フィクションを築き上げる創造的言葉以上に、目の前の風景をユーモアたっぷりに描く写実的言葉が得意なのかもしれない。こうした点はザ・ストリーツ、最近だとロイル・カーナーやケイト・テンペストを連想させる。


 コスモ・パイクは、政治/社会に関しても明確な意見を持ち、インタヴューでも積極的に意見を述べている(※2)。その側面は作品でも窺えるが、インタヴューのときみたいにハッキリ主張するわけではない。目の前のことを歌えば自然と滲み出てしまう、と言ったほうがしっくりくる。音楽も政治も社会も、コスモ・パイクにとっては日常を形作る一要素であり、だからこそ政治/社会についてもフランクに話すのではないか。そんなコスモ・パイクを見ていると、第2波フェミニズム運動のスローガン、「個人的なことは政治的なこと」を思い出してしまう。ちなみにコスモ・パイクの母親は昔、フェミニストのコレクティヴにいたそうだ。



※1 : そのMVです。


※2 : ガーディアンの記事『Cosmo Pyke : ‘You don't have to be some working-class rapper'』(2017年5月11日)を参照。https://www.theguardian.com/music/2017/may/11/cosmo-pyke-im-this-peckham-guy-who-wants-to-take-up-all-opportunities

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