The AM「Black Majik」


The AM「Black Majik」のジャケット

 The AMことアン・マリー・ティースリーは、デトロイトを拠点としながら、長年DJ/プロデューサーとして活動を続けてきた。もともとヴァイオリニストであった彼女だが、現在はテクノ・シーンを軸にしている。ソロ活動の他にはHLX-1というユニットで作品をコンスタントにリリースするなど、活躍の場は多岐に渡る。

 そんな彼女がソロとしては初のEP「Black Majik」を発表した。端的に言えば、本作はデトロイト・テクノの文脈が濃いトラックを揃えている。スペーシーでメロディアスなシンセ・サウンドや、ゴムのような弾力性を持ちながら硬質な響きも放つTR-909のキックが想起させるのは、アンダーグラウンド・レジスタンス、ケヴィン・サンダーソン、DJミンクスといったデトロイト・テクノの偉人たちだ。

 多彩なリズム・パターンも印象深い。疾走感たっぷりのエネルギッシュなテクノに仕上がった表題曲、ドレクシアに通じるダークなエレクトロ“On Joy Road”など、曲ごとに彼女の豊富な引きだしが感じられる。スキャン7による“Shadow Werk”のリミックスを含めた全4曲という小盛りの内容でありながら、彼女の才気と制作スキルを楽しむには十分すぎるほどの質がしっかりアピールされている。

 筆者は本作を聴いて、彼女がかつて投稿したブログ記事を思いだした。この記事で彼女は、デトロイト・テクノというラベルが安易に使われすぎたせいで、大切にすべきルーツや遺産が失われることへの危機感を書いている。
 ケヴィン・サンダーソンなども主張するように、デトロイト・テクノを含めたテクノ史において、黒人アーティストは見過ごされがちだ。そこには構造的な人種差別、階級、資本主義といった要素が複雑に絡んでいる。そのため一気に問題を解消するのはおそらく難しい。

 それでも彼女は、音楽と言語を通し、自らの信念を主張しつづける。こうしたことを念頭に入れながら、本作を聴いてみてほしい。そうすれば、彼女が表題曲で〈これはブラック・マジック(This Is Black Majik)〉と繰りかえすシリアスさが理解できるだろう。



※ : 本稿執筆時点でMVがないのでSpotifyのリンクを貼っておきます。


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