BIBI(비비)「Life is a Bi…(인생은 나쁜X)」は優しい悪魔のつま先


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 筆者からすると、韓国のアーティストBIBI(ビビ)はアウトサイダー的な視点が強い女性に見える。2019年に公式デビューを果たした彼女は、愛や恋人関係を歌うことが多い。それ自体は珍しいことではなく、むしろポップ・ソングにおいて普遍的と言っていい。

 BIBIがおもしろいのは、そういった題材を歌う際、自己破壊的姿勢が目立つところだ。たとえば“쉬가릿 (cigarette and condom)”(2020)では、恋か知る前に体を重ねようとでも言いたげな情動が歌われている。BIBIが手がけた歌詞も挑発的な言葉が多く、優等生的なかしこまった態度とは正反対の奔放さが目立つ。その姿は、多士済々のK-POPシーンにおいて明確なオルタナティヴであり、際立った個性として輝いている。

 そんなBIBIの最新ミニ・アルバムが「인생은 나쁜X (Life is a Bi…)」だ。本作での彼女は持ち前の奔放さに加えて、社会やそれが求める規範に馴染めない者たちに寄り添うような言葉を歌う。
 この側面がもっとも顕著なのは表題曲だ。世界の端っこに佇む人の視点から、生きることの大変さを綴っている。セックスやお金に毒されるストレートな描写があるなど、辛辣な言葉選びが印象に残る。

 “BAD SAD AND MAD”も興味深い曲だ。何かにハマった中毒状態を歌った歌詞は、文字面だけ見れば共依存的な関係性を描いた歌に思えるだろう。だが、そこから推察を進めていけば、“BAD SAD AND MAD”で歌われる中毒状態は多くの事柄が当てはまるのに気づくはずだ。セックス、ドラッグ、ボンデージ...。これらがはっきりと示されるわけではないが、少なくとも世間一般では刺激的とされているであろう光景や行為を容易に連想させる。

 本作の歌詞は、他のK-POPと比べたら過激で、セクシュアルも直接的に描かれている。もしかすると、人によっては目を背けたくなるかもしれない。
 一方で、R&Bが軸のサウンドはとても人懐っこい。甘美さと艶やかさという魅力が光り、メロディーも親しみやすい。一度に耳に入れてしまえば、頭から離れない中毒性を持っている。

 辛めの言葉たちを、甘いサウンドでコーティング。「인생은 나쁜X (Life is a Bi…)」はそう言える作品かもしれない。それはまるで、世界一辛いキャンディーとして有名なThe Toe Of Satan(悪魔のつま先)である。
 しかし、彼女が紡ぐ言葉は悪魔的ではない。生きるうえでの哀愁やどうしようもなさを滲ませた歌からは、天使のような優しい眼差しがうかがえる。BIBIは社会の外側で生きる人々を想像できるアーティストなのだ。



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