目まぐるしい展開 縦横無尽に駆けまわる音 〜 Sinjin Hawke『First Opus』〜



 アメリカのニュージャージーで生まれたシンジン・ホークは、2010年代のエレクトロニック・ミュージックを語るうえで欠かせないアーティストのひとりだ。最初に注目を集めたのは、2011年リリースの「The Lights EP」だ。初期のプロディジーに通じるレイヴ・シンセで幕を開けるこのEPは、ハドソン・モホークが得意とする艶やかで人工的なサウンドを前面に打ち出し、ビートにはヒップホップの要素が色濃く滲んでいた。すべての音が瑞々しい輝きを放ち、勢いと技巧が見事に共立した作品だ。この作品以降は、世界中でDJプレイをしつつ、DJファンクやDVAのリミックスをこなすなど、着実にキャリアを重ねていった。その活躍がカニエ・ウェストの目に止まり、『The Life Of Pablo』の制作に招かれたのは多くの人が知るところだ。

 そんなシンジン・ホークは、待望のファースト・アルバム『First Opus』を発表したばかり。端的に言えば本作は、セオリーや常識に囚われない自由を高らかに鳴らしている。「The Lights EP」の頃は、ヒップホップが中心の音を特徴としていたが、本作はヒップホップのみならず、ジュークやベース・ミュージックといった要素もこれまで以上に表れている。さまざまなBPM、さまざまなリズムを縦横無尽に行き来し、展開が目まぐるしく変化する。そこに繰り返しのパターンは存在しない。ハイハットやキックといった、グルーヴを生みだすうえで欠かせないとされてきたパーツがないのもあたりまえ。それでも私たちを興奮させ、踊らせる。


 また、最先端とされる音楽をキャッチーなサウンドに変換する技も光る。たとえば、壮大なストリングスで始まる「Monolith (Overture)」では、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやホリー・ハーンドンを連想させる声の使い方が際立つ。だが、シンジン・ホークはそれをよりメロディアスな方向に傾けている。その結果「Monolith (Overture)」は、先鋭さと幅広さが共生した曲に仕上がっている。
 さらに「They Can't Love You」では、EDMを彷彿させる高揚感たっぷりのシンセ・フレーズが登場する。ひとつひとつの音は徹底的に磨かれ、必要最低限の音だけを配置するあたりはシンジン・ホークらしいが、そこにEDMの要素を散りばめるというのは驚きだ。音楽に対するシンジン・ホークの寛容な姿勢が窺える。


 強いて本作の弱点を言えば、あまりにも自由な作風のため、受け手側が戸惑うことだろうか。評論家やライターからすれば特定の文脈に置きづらいだろうし、レコード/CDショップの店員はどこの棚に並べればいいのか悩むだろう。しかし、それこそが強みでもある。誰にも作れない唯一無二のサウンドが、本作には詰まっているという証なのだから。

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