2020年ベスト・アルバム100と今年のポップ・カルチャー



 他のベスト記事は増やしたのに、音楽のベストを増やさないのはどうなのか? と思い、2020年のベスト・アルバムは一気に100としました。とはいえ、評価基準はこれまでと同じです。質だけでなく、同時代性が感じられるか?も重要視しています。
 選考の対象になっているのは、フル・アルバム、ミニ・アルバム、EPです。作品名を〈『』〉で括っているのがフル・アルバム、〈「」〉はEPとミニ・アルバムでございます。ブログやWebメディアで評した作品は、タイトルにリンクを貼ったので、ぜひ読んでください。

 筆者から見て、2020年のポップ・カルチャーは《アジア》というキーワードを掲げたくなるものでした。たとえばファッションでは、ノース・ロンドンを拠点とするSeventyfiveがおもしろかった。このブランドを知ったのは、今年のロンドン・ファッションウィークでコレクションを見たときです。立領などを特徴とするチャイナドレスの構造に、中世ヨーロッパで発展したドレス文化から生まれたアフタヌーンドレス的シルエットを溶けあわせた服があったりと、さまざまな文化が交雑したセンスに惹かれました。

 Seventyfiveはデザイナーのジャニー・イエによって設立されたそうですが、彼女のルーツは中国とのこと。公式サイトで読めるブランドの理念にも、東アジアの美学を追求すると書かれています。
 去年のベスト・アルバム記事で、筆者は多くの文化を取りいれる融和的姿勢が目立つテベ・マググというデザイナーに言及し、文化的グローバリゼーションの流れを語りました。ジャニーの台頭は、この流れが発展を続けていることの証左かもしれません。苛烈な貧富の格差といった多くの問題があり、それに伴い対立や争いが絶えない現在の世界は、《分断》が叫ばれて久しい。それでも、ジャニーのような表現に出逢うと、この世にまだ希望はあるかもしれないなと奮いたちます。筆者にはシニカルで厭世的なところもあるので、こうした出逢いは大事な栄養のひとつです。
 他にも、タイのSmile Club Customは相変わらず興味深い服を生みだしてましたね。普段はYohji YamamotoやFred Perryなどをよく着るせいか、ド派手な柄や色使いを特徴とするSmile Club Customみたいな服を無性に着たくなるときがあります。実際、レンガ柄のズボンは購入しちゃいました。正直、文化的グローバリゼーションの流れ云々とは関係ないところで服を作ってると思いますが、そうした我が道を行く方向性も好きです。

 ファッション以外でも、《アジア》を強く意識する機会が多かった。『ハッピー・オールド・イヤー』という良質なタイ映画が日本で公開され、アラン・ヤン監督は『タイガーテール -ある家族の記憶-』で移民一世の台湾人を描いた。
 『ハッピー・オールド・イヤー』は断捨離が題材の作品です。ところが、物語が進むと哲学的思索の領域に入り、心や繋がりといった目に見えないものの有用性も問う展開になっていく。そういう意味では、断捨離を通して、人という生き物を考察した作品とも言えます。

 『タイガーテール』も、人を深く考えた作品です。愛する女性を捨ててまでアメリカンドリームに走った移民一世の台湾人が物語の中心なので、《移民とアメリカ》という構図も滲んでいます。この点は、台湾出身の両親を持つアラン・ヤンの個人史とも言える要素が濃い。
 それでも、愛を捨ててまでアメリカンドリームに走ったことで、晩年には後悔と哀しみを背負うことになったピンジュイの物語は、観る人の背景を問わない訴求力がある。時代や生いたちに翻弄される若き日のピンジュイに、貧困といった個人の努力だけではどうしようもない現代の問題を重ねることも可能でしょう。このように、過去を題材にしたアラン・ヤンの個人史的作品でありながら、現在を生きるほとんどの人々が感情移入できる側面も強いのが『タイガーテール』です。

 音楽でも、《アジア》から良質な作品が多く生まれました。なかでも紹介したいのは、ヴィオレット・ウォーティアのファースト・アルバム『Glitter And Smoke』です。ヴィオレットはタイを拠点とするアーティストで、タイとベルギーのダブル。さらに生まれは横浜だそうで、多国籍な背景を持っています。
 『Glitter And Smoke』のサウンドは、端的に言うと良質なエレ・ポップです。シンセの音色が前面に出ていて、キャッチーなメロディーが耳に残ります。影響を受けたというテイラー・スウィフトやラナ・デル・レイの要素は、そこまで濃くないように聞こえます。むしろ筆者はチャーチズを連想しました。

 タイといえば、タイトサミットの『TaitosmitH』も忘れてはいけません。多彩なアレンジが光るロック・サウンドを特徴とし、良い曲もたくさんある。歌詞ではタイのイサーン地方の方言を用いるなど、自身のアイデンティティーを大切にしている姿勢も際立つ。生活の背景にある社会を滲ませた表現が大好きな筆者の琴線に触れた作品です。

 シンガポールのシャイによる『Days To Morning Glory』も素晴らしかった。自らの声をいくつも重ねた甘美なサウンドスケープが描かれる“33”、ミス・キトゥンに通じるエレクトロクラッシュな匂いが漂う“I'm Fine, No”、いなたい電子音と艶やかな歌声の組みあわせがイタロ・ディスコを彷彿させる“Don't Be Shy”など、鳴りひびく音は驚くほど多彩。さまざまな要素が繋ぎ目なく混ざっていて、強いて形容するなら《音楽》としか言いようがない作品です。
 現在18歳のシャイは、自ら作詞/作曲を手がけるなど、マルチな才能を持つ女性。まだまだ伸びしろはあると思いますし、音楽好きなら注目しておいて損はないでしょう。
 実を言うと、『Days To Morning Glory』は、ぎりぎりまでベスト100に入れようか迷ったアルバムです。それほど聴きごたえがある内容なので、ポップ・カルチャーの総評に捻じこみました。

 筆者から見た2020年のポップ・カルチャーを振りかえると、誰もが共有できるビッグトレンドはもうないのかもな、と強く感じます。ファッション界では数年前から言われていることでもありますが、そうした流れは今後さらに進みそうです。
 このような前提に立つと、《〇〇年はこれが流行る!》とか、《○○年は〇〇な年だった》みたいな大局的伝え方は、そろそろトイレで流したほうがいいのでは?とも思います。こうしたこともあって、筆者は5年ほど前から《主観》を強調するようにしました(もともと《主観》を打ちだすスタイルではありましたが、より一層という意味で)。筆者が原稿のなかで、やたら〈筆者〉を使うのはそのためです。

 一方で、多くの商業誌、ZINE、ブログをいろいろ読んでいると、時代や潮流を決めたがる人がまだまだ多いと思います。自分なりにこうだと決め、その言説が広がる様に快感を覚えるのも理解できますが、当然ながらひとつの言説がこの世のすべてを言いあらわせるはずがありません。《当事者》といってもみんなが同じ考えじゃないし、《ポップ・カルチャー》だって欧米だけにあるものではない。このことはすでに可視化されていると言っていいでしょう。
 それをわかっていながら、さも自分はすべてを理解してるかのように振るまうのは、とても虚しく滑稽に見えます。だからこそ、たとえ小さい声でも可能なかぎり耳を傾け、聞いた声を自らの言葉に反映していかなければいけない。こうした姿勢の必要性は、階級、性別、貧富など、さまざまな面で分断が進む現在において、より高まっていると強く感じています。


公開済の2020年ベスト記事

2020年ベスト・ブック50

2020年ベスト・ドラマ50

2020年ベスト映画50

2020年ベスト・トラック50



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100 Mhysa『Nevaeh』

 ニューヨークを拠点とするアーティストがHyperdubからリリースしたアルバム。トラップ、R&B、ドローンなどを撹拌したエレクトロニック・ミュージックは刺激的な実験精神が印象に残る。



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99 Loski『Music, Trial & Trauma : A Drill Story』

 UKドリル・シーンから出てきたラッパーによる本作は、自身のトラウマだけでなく、人種や暴力をもたらす世界への眼差しも目立つ。ザ・ストリーツが参加した“Blinded”は出色の出来。



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98 The HeavyTrackerz『Trkrz FM』

 多くのグライム・ラッパーのトラックを手がけてきた2人組のセカンド・アルバム。グライム以降のUKラップ史をリスペクトしたサウンドが光る。参加したラッパー陣ではライオネスとアリカのパフォーマンスが群を抜いている。



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97 Koraal『La Casa del Volcán』

 ジョン・タラボットの変名プロジェクトによる作品。ダブの要素が顕著なサウンドスケープは端正かつトリッピーだ。



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96 Tomorrow X Together(투모로우바이투게더)「Minisode1 : Blue Hour」

 ニュー・オーダー的のポップ・ソングがあったりと、昨今のK-POPのなかでは異色度が高めなサウンド。その独自性に惹かれランクインさせた。



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95 Oscar Jerome『Breathe Deep』

 サウス・ロンドンのジャズ・ギタリストが発表したデビュー・アルバム。自身が所属するココロコのメンバーなど多くのゲストを迎え、多面的なサウンドを鳴らしている。ネクスト・トム・ミッシュなんていう言葉を振りかざす者の狭隘な感性には収まらない才能の大きさが際立つ。



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94 Mammal Hands『Captured Spirits』

 イギリスのジャズ・トリオが発表した4枚目のアルバム。ジャズはもちろんアンビエントやポスト・ロックの視点から聴いてもおもしろいサウンドだ。



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93 Flohio『No Panic No Pain』

 サウス・ロンドンのラッパーのデビュー・ミックステープ。ダークなサウンドをバックに、鋭い言葉を連発する彼女の高い表現力にあらためて感嘆。



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92 Suzie True『Saddest Girl At The Party』

 LAが拠点のガレージ・バンドが発表したデビュー・アルバムは、ライオット・ガールの文脈を感じさせる。L.A.ウィッチ、ザ・パラノイズ、ザ・コモンズといった良質なバンドを輩出してきた近年のLAロック・シーンの流れにも位置づけられる。



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91 Beabadoobee『Fake It Flowers』

 イギリスのシンガーソングライターのデビュー・アルバム。ソニック・ユースといったアメリカのオルタナティヴ・ロック色がこれまで以上に鮮明だが、プロデューサーに元ザ・ヴァクシーンズのピート・ロバートソンを迎えていると知り、なるほどと思った。以前ピートにインタヴューしたとき、彼は「アメリカの映画や音楽に親しんできた」と言っていた。



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90 Shygirl「Alias」

 「Cruel Practice」も素晴らしかったサウス・ロンドンのアーティストがリリースしたEP。自身が抱える4つの人格を表現するというコンセプトに、ダーティーなエレクトロニック・ミュージックを添えている。



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89 Sega Bodega『Salvador』

 レーベルNUXXEの主宰としても活躍する男のデビュー・アルバムは、ヘヴィーなベースが際立つサウンドで筆者の心を震わせた。メンタルヘルスや生死などがテーマの歌詞も聴きどころ。



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88 Dan Kye『Small Moments』

 ジョーダン・ラカイが変名で発表したアルバム。ジャズ、ファンク、ソウルのスパイスを巧みに織りまぜたハウスが欲しい方はぜひ。



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87 Hwa Sa(화사)「Maria」

 ファサ(ママム)のファースト・ミニ・アルバム。タイトルは自身のクリスチャン・ネームから。モンスター級の表現力を通し、これまでの歩みを振りかえるような作品に聞こえた。



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86 RAMZi『Cocon』

 モントリオールを拠点とするアーティストが作りあげた本作に触れると、意識が解きほぐされるような気持ちよさに包まれる。匠の技から生まれる立体的音像に拍手。



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85 Pa Salieu『Send Them To Coventry』

 コヴェントリー出身のラッパーが発表したデビュー・ミックステープ。ガンビアをルーツとする自身の背景が多分に反映された歌詞の語彙、アフロスウィングやグライムなどさまざまな要素が散りばめられたサウンドなど、魅力は実に多い。



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84 Mercston『Top Tier

 2000年代初頭からグライム・シーンで活躍してきたラッパーのデビュー・スタジオ・アルバム。グライム一辺倒ではないバランスのいいサウンドが光る。



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83 Tina『Positive Mental Health Music』

 サウス・ロンドンのバンドがリリースしたデビュー・アルバム。レトロな雰囲気を醸すサイケ・ポップ・サウンドに乗せて歌われるのは、現代の問題とも直結する感情だ。



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82 The Streets『None Of Us Are Getting Out Of This Life Alive

 2000年代のUKラップに多大な影響をあたえた男による最新ミックステープ。若いふりをせず、誠実に自らの心情と向きあった言葉に涙がほろり。



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81 fromis_9(프로미스나인)「My Little Society

 過去と現在を上手く混ぜた作品。K-POPにおけるガールクラッシュの多彩さを教えてくれる。



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80 SF9(에스에프나인)『First Collection

 ファンクやディスコなど多くの要素が漂う上質なポップ・ソング集。UKガラージな“Good Guy”にやられた。



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79 Tygapaw『Get Free』

 ニューヨークを拠点とするジャマイカ人アーティストのデビュー・アルバム。《個人の自由》をテーマの据え、良質なテクノを鳴りひびかせる。



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78 Planet Battagon『Trans-Neptunia』

 イギリスのジャズ・シーンからおもしろいアルバムがまたひとつ。ジャズ要素が濃い一方で、ジャングルの匂いも醸すところはクラブ・カルチャーの文脈を感じさせる。



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77 Mez『Tyrone 3』

 グライムやラガが交雑したアルバム。こういう作品がどんどん出てくるイギリスのラップ・シーンは、他国のラップ・シーンと比べても格別におもしろいと思う。



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76 Magik Deep『Views From Within

 南アフリカのハウス・シーンが生んだ良作。艶かしいサウンドスケープと肉感的グルーヴに、筆者の心は躍った。



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75 Weki Meki(위키미키)「New Rules

 グループの成長が滲む作品。現在の潮流など知らんとばかりにユーロ・ダンスを取りいれた“Cool”が出色の曲。



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74 Footsie『No Favours

 グライム・レジェンドの最新作。ロンドンで生まれたダブステップのサウンドを軸に、トラップといったアメリカのヒップホップも取りこむ上手さが際立つ。



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73 Andras『Joyful

 アシッド・フォークやアシッド・ハウスにインスパイアされた作品。DJコーツェやスーパーピッチャーなどが脳裏に浮かぶダンス・ミュージックに惚れた。



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72 Cuushe『Waken』

 京都出身のアーティストによるアルバム。UKガラージやドラムンベースなど多くのダンス・ミュージックを消化したサウンドに、神々しさを感じる音像。これらに触れたときの聴感覚を強いて形容するなら、《浄化》だろうか。



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71 Dizzee Rascal『E3 AF』

 『Boy In Da Corner』で衝撃をあたえたグライム・ラッパーも、いまやベテランの域に入る存在になった。初期の作品群を想起させるところも多い内容は、風格と余裕で溢れている。



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70 Elysia Crampton『Orcorara 2010』

 ボリビア系アメリカ人アーティストの最新アルバム。厳しさが増す世界情勢に切りこむエレクトロニック・ミュージックの鋭さに惹かれた。



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69 Georgia『Seeking Thrills

 ロンドン生まれのアーティストが発表したデビュー・アルバムは、驚くほど隙がない。グライム、ダブ、ラガといった要素をそつなくまとめた手腕は絶品。



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68 Moonbyul(문별)「Dark Side Of The Moon」

 ママムのメンバーがソロ2作目をリリース。ヒップホップを軸にしながら、ボサノヴァも混ぜる遊び心がおもしろい。



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67 BoA(보아)『Better』

 彼女がいなければ、日本におけるK-POP人気はなかったかもしれない。あらためてそう思わせる風格が光るフル・アルバムだ。ジャズやファンクの要素も滲むサウンドは『WOMAN』と地続きに聞こえる。



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66 Demae「Life Works Out... Usually」

 『A Handshake To The Brain』でロンドンの暗部を描いたホーク・ハウスのメンバーによるEP。ネオ・ソウルが軸のサウンドに、パーソナルな心情を込めた言葉が重なる。エゴ・エラ・メイ、ファティマ、ジョー・アーモン・ジョーンズなど多くの素晴らしいアーティストが参加しているのは、UK音楽シーンにおけるホーク・ハウスの無視できない影響力の表れだろう。



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65 Knucks「London Class」

 タイトルどおりの作品だ。ロンドンのさまざまな面を音楽で表現している。ヒップホップとジャズの要素が濃いサウンドと、階級の視点が滲む歌詞に惹かれた。韓国のドラマ『梨泰院クラス』にインスパイアされたというエピソードもおもしろい。 



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64 Twice(트와이스)『Eyes Wide Open』

 溌剌としたグループという従来のイメージをさらに塗りかえた作品。《明るいだけじゃない私たち》を上手くアピールする戦略的視点が印象に残る。サナが作詞を手がけたハウシーな“Do What We Like”は必聴。



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63 Unknown T『Rise Above Hate』

 ハックニーのラッパーによるミックステープ。言葉数の多いラップは高い表現力を誇り、自身のハードな人生を反映した歌詞は豊富な語彙が際立つ。



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62 Al Wootton『Witness

 良質なダンス・ミュージックを鳴らしてきたイギリスのアーティストによるアルバム。トリッピーなサウンドに見いだせるのは、2562『Aerial』といった2000年代ダブステップの遺産だ。



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61 Moses Sumney『græ』

 実に多くの要素で彩られている。フォークやジャズが顔を覗かせたかと思えば、クラシックの表情も飛びだす。



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60 Everglow(에버글로우)「-77.82x-78.29

 まとまったひとつの作品とした聴いたら粗もなくはないが、女性讃歌の言葉が紡がれる“Untouchable”はとても魅力的だ。ユーロビートやハイ・エナジーが脳裏に浮かぶ“La Di Da”も悪くない。



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59 Earth Boys『Earth Tones

 ニューヨークの2人組によるアルバム。808ステイトのテクノ・クラシック“Pacific State”がちらつく“Earth Tones”を筆頭に、秀逸なダンス・ミュージックが並んでいる。



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58 Charli XCX『How I'm Feeling Now』

 イギリスのポップ・スターが発表した最新作は、新型コロナの影響で厳しい状況にある人たちを応援するために作られた。ファンも巻きこんで制作したりと、制作面で多くの試みが用いられている。



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57 Hayley Williams『Petals For Armor』

 パラモアのヴォーカルがデビュー・ソロ・アルバムをリリース。自身の心を深く掘りさげた言葉が光る歌詞は必聴だ。



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56 SUMIN(수민)「XX,

 綿密に計算されたカオスと言えるEP。キャッチーでありながら、音数を絞ったプロダクションは先鋭性が滲む。



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55 Yaeji『What We Drew 우리가 그려왔던

 「Yaeji」「EP2」という2枚のEPで一気に知名度を高めたアーティストのミックステープ。エジプシャン・ラヴァーあたりの80年代エレクトロが脳裏に浮かぶ“Spell 주문”など、多面的なサウンドは聴きごたえ十分。パーソナルな言葉が並ぶ歌詞も心に刺さった。



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54 Kelly Lee Owens『Inner Song』

 ウェールズ出身のアーティストによる最新作は、前作『Kelly Lee Owens』よりもフロアライクなテクノが多い。その代表例と言える“Melt!”は硬質なキックとハイハットが映える素晴らしいダンス・ミュージックだ。



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53 Haim『Women In Music Pt. III

 ハイムの最高傑作。3拍目のスネアを強調したビートがもろにUKガラージな“I Know Alone”、ウォーレン・GあたりのGファンクを連想させるメロウな良曲“3am”など、多彩を極めたサウンドが魅力だ。



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52 Tiwa Savage『Celia』

 ナイジェリアのシンガーにとって3枚目となるアルバム。アフロビーツ に根ざしたサウンドに合わせ、男性優位な社会構造が蔓延る現在を女性の視点から批評した作品だ。



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51 Shamir『Shamir』

 痛みから喜びまで、さまざまな感情の機微を描けるセンスが素晴らしい。ひとつひとつの言葉と音を噛みしめるように繰りかえし聴いた。



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50 Will Bates『Depraved(Original Motion Picture Soundtrack)』

 映画『デプレイヴド』のサントラ。重厚で綿密なドローンもあれば、バーナード・ハーマンといった映画音楽の古典に通じる“Risen, Pt. 1”も楽しめる。



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49 Mealtime「Aperitif」

 マンチェスターで結成されたバンドのデビューEP。UKガラージやハウスの要素が滲むダンサブルなサウンドはもちろん、シニカルな言葉選びが目立つ歌詞にも惹かれた。



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48 Jo Bisso『African Disco Experimentals (1974 To 1978)』

 カメルーンで生まれた男の楽曲集。肉感的グルーヴの洪水を起こすディスコが欲しいなら聴こう。



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47 Ben Frost『Dark : Cycle 3(Original Music From The Netflix Series)』

 ドイツ産ドラマのサントラ。端正な立体的音像を構成するひとつひとつの音が洗練の極み。



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46 Pillow Queens『In Waiting』

 アイルランドの4人組バンドが放ったデビュー・アルバム。抜群のコーラス・ワークやキャッチーな歌メロなど、随所で高いポテンシャルをうかがわせる。同性同士のロマンスを歌った“Handsome Wife”、セックスのリアルが滲む"Holy Show"など、輝かしい曲の数々に心がときめいた。



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45 Phoebe Bridgers『Punisher』

 アメリカのシンガーソングライターによる深化作。哀しみのなかに宿る凛々しさは魅力が増す一方だ。



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44 Mamamoo(마마무)「Travel」

 スキル、サウンド、メッセージ。どこをとっても申し分なし。4人の生き様が多くの人々を支えてるんだなとあらためて実感。



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43 Taylor Swift『folklore

 世界的なポップ・スターの最新作は、ひとりヘッドフォンで聴きこみたくなるほどの親近感がある。“Mirrorball”は文字どおり名曲。



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42 Yutie Lee『Flower Protocol』

 台湾のアーティストによるアルバムで、花にまつわる中国民謡のカヴァー集。“声”の表現を突きつめた実験精神はもっと多くの人に知られてほしい。



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41 Cherry Coke(체리콕)『Every Flower You Gave Me

 韓国のアーティストが放ったファースト・フル・アルバムは、多くの要素が滲むポップ・ソング集に仕上がった。リズミカルなシンセ・ベースが印象的なハウス“We’re Dying”、優れたヴォーカリゼーションが光る“Tsunami”など、表現者としての成長を感じさせる曲ばかりだ。



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40 Angel Bat Dawid & Tha Brothahood『Live』

 魂の叫びとは本作のことを言うのだろう。人種差別や性差別への怒りが顕著なジャズ・サウンドは、筆者の心を掴んで離さない。



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39 Rina Sawayama『Sawayama』

 ロンドンが拠点のアーティストによるファースト・アルバム。リナ・サウンドとしか言いようがない音楽性は多くの要素で構成され、無粋なジャンル分けを拒む。



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38 Trillary Banks「The Dark Horse

 レスターで生まれ育ったラッパーのEP。言葉選びの上手さや秀逸な描写力が耳に残る。



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37 ACE COOL『GUNJO』

 広島県呉市出身のラッパーによるアルバム。自身の半生が背景にあるという曲群は、手からこぼれがちな機微や情動を上手く紡いでいる。



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36 Zebra Katz『Less Is Moor

 ニューヨークを拠点とするラッパーの最新作。インダストリアルやベース・ミュージックが軸のサウンドは中毒性高し。



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35 Moses Boyd『Dark Matter』

 UKジャズ・シーンで活躍するドラマーのアルバム。グライムやトリップ・ホップと共振する瞬間も多いサウンドを聴いて、これぞイギリスのポップ・ミュージック!と快哉を叫んでしまった。



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34 Amaarae『The Angel You Don't Know』

 ガーナ系アメリカ人のアーティストがリリースしたデビュー・アルバム。ルーツと現代の音楽を巡る旅に触れた時間はとても楽しかった。



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33 Sault『Untitled (Rise)』

 リトル・シムズなどの作品をプロデュースしてきたインフローが中心となって結成されたバンドの最新作。ハウスやディスコの要素が顔を覗かせるサウンドは、体を揺らさずにはいられないグルーヴで満たされている。



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32 Park Hye Jin(박혜진)「How Can I

 ハウス・ミュージックを軸に、多くの要素を取りこんだ秀作。ジューク/フットワークやゲットー・ハウスといったシカゴ生まれのダンス・ミュージック色が目立つ。



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31 Idles『Ultra Mono』

 ブリストルのバンドが放った最新アルバム。これまでのハードコア要素が濃いサウンドに、ヒップホップのスパイスを加えるアイディアがおもしろい。



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30 Perfume Genius『Set My Heart On Fire Immediately』

 シアトルで育ったシンガーソングライターのアルバム。男性の概念や伝統的役割の探求がテーマのサウンドは、旧態依然とした社会的性役割(ジェンダー)を解体していく。



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29 Desire Marea 『Desire』

 南アフリカを拠点とするアーティストのアルバム。EBMが脳裏に浮かぶ4曲目など、ダンスフロアが似合う曲が揃っている。



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28 James Dean Bradfield『Even In Exile

 マニック・ストリート・プリーチャーズのヴォーカルによる本作は、分断が叫ばれて久しい現在を憂いている。ブラインド・パイロットやグレイト・レイク・スイマーズといった2000年代半ば以降のインディー・フォークもちらつくサウンドは哀愁と滋味を醸す。



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27 Kisewa(키세와)『Bullet Ballet

 韓国のダンス・ミュージック・シーンで活躍するDJ/プロデューサーによるアルバム。インダストリアル・ミュージックの要素を打ちだしつつ、メタル的なギター・サウンドやヒップホップのスパイスをまぶす軽やかな折衷性が素晴らしい。



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26 J Hus『Big Conspiracy

 イースト・ロンドンのラッパーによるアルバム。ロンドンで生きるストリートギャングの視点が濃い歌詞は、パーソナルでありながら現在の世情とも共振する。



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25 Jessie Ware『What's Your Pleasure?』

 2020年はディスコな作品が目立ったが、そのなかでも本作は出色のサウンドだ。ロマンティックな情動を歌うジェシーの甘美な歌声に、私たちの腰を心地よく揺らすディスコ・ビート。これらの魅力にハマるまで時間はかからなかった。



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24 Red Velvet - Irene & Seulgi(레드벨벳-아이린&슬기)「Monster

 サウンド、ヴィジュアル、コンセプトなどあらゆる面が洗練の極みにある。『Recess』期のスクリレックスやラスコ『O.M.G.!』に通じるブロステップ的な音をチョイスする制作側のセンスに微笑。



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23 Headie One『Edna』

 UKドリルの代表的ラッパーがようやくデビュー・スタジオ・アルバムをリリース。これまで築きあげてきたファン層を意識したのか、本作の前に発表したフレッド・アゲイン..との『Gang』ほど攻めた音作りではない。それでも、アレンジやビートなど多くの面でUKドリルを拡張する姿勢は素晴らしい。



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22 Taemin(태민)『Never Gonna Dance Again : Act 1&2』

 9月リリースの『Act 1』と11月リリースの『Act 2』でひとつのアルバムになるという変則的作品。従来の社会的性役割(ジェンダー)や男性性から逸脱したヴィジュアル表現を筆頭に、さまざまな面で優れた創造性が際立つ。本作は音楽というより、音楽も含めた総合的アートと言ったほうがしっくりくる。



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21 Kylie Minogue『Disco

 タイトル通りディスコなアルバム。オーストラリアが生んだポップ・スターは、いまも私たちを踊らせるダンス・クイーンだ。



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20 ITZY(있지)「IT'z ME

 前作以上にハウスの要素が濃い。それでいて、“Nobody Like You”ではロック色を打ちだしたりと、音楽性の幅も着実に広げている。主体的で強い女性像をアピールするガールクラッシュな魅力も増し増し。



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19 Grimes『Miss Anthropocene

 擬人化された気候変動の女神についてのコンセプト・アルバム。シニカルかつ厭世的な言葉選びが目立つ一方で、世界に蔓延する多くの問題と向きあう泥臭さも滲ませる。こうした多面性はグライムスという表現者の魅力でありつづけている。



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18 NSG『Roots

 ハックニーで結成された6人組のデビュー・ミックステープ。アフロビート、ヒップホップ、ダンスホールが絶妙に調合されたサウンドに乗る言葉は、人という生き物が持つ複雑な心を上手く表している。人種差別が増えたイギリスへの皮肉に思えるジャケットも見逃せない。



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17 Rebel Yell『Fall From Grace

 主流のポップ・ミュージックとアンダーグラウンドなポップ・ミュージック、どちらかだけを聴いてきた者には作れないダンス・ミュージックだ。硬質なインダストリアル・テクノを軸に、多くの要素を消化したサウンドが光る。



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16 Busiswa『My Side Of The Story』

 南アフリカのアーティストはジャンルという制限を巧みに打ちやぶる。ヒップホップやアマピアノなど多くの要素が複雑に絡みあい、ひとつの作品を構成している。女性たちの連帯を促す姿勢も素晴らしい。



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15 Fontaines D.C.『A Hero’s Death

 アイルランドのポスト・パンクと呼ばれがちだったバンドは、本作でそのレッテルを破り捨てている。その象徴と言えるのが“Oh Such A Spring”だ。ビートルズを連想させるキャッチーなコード進行が耳に残る。



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14 Nijuu(니쥬)「Nijuu In The Sea

 ロンドンの音楽シーンとも繋がりが深いシンガーソングライターのデビューEP。物悲しいマイナーコードや深いリヴァーブを多用したサウンドは、ジョー・ミーク&ザ・ブルー・メン『I Hear A New World』を連想させる。



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13 The 1975『Notes On A Conditional Form

 マンチェスターのバンドは時代に愛されている。そう思わずにはいられないアルバムだ。特に惹かれた曲は“Jesus Christ 2005 God Bless America”。ヴォーカルのマシューが男性に恋する男性の視点を歌い、ゲストのフィービー・ブリジャーズが女性に恋する女性の視点を歌うフォーク・ナンバーである。



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12 Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』

 アメリカのフロリダに生まれ、テネシーで育ったアーティストの最新アルバム。韓国歌謡を引用するなど、奔放な音作りが印象的だ。そうして生まれるサウンドに宿る才気は驚くほど刺激的で、オリジナリティーを備えている。



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11 Headie One x Fred Again..『Gang

 UKドリルの旗頭であるヘッディー・ワンとフレッド・アゲイン..のコラボミックステープ。“Judge Me”は立体的音像を描いたアンビエントに仕上がるなど、自らの音楽性を貪欲に拡張していくヘッディー・ワンの姿勢が随所で楽しめる。



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10 Riz Ahmed『The Long Goodbye

 役者としても大きな成功を収めている男のアルバム。パキスタン系イギリス人の視点から、イギリスへの愛憎を綴っている。さまざまな不公平があっても、前に進まなきゃ始まらないと言わんばかりの姿勢には切実な想いが滲む。



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9 (G)I-DLE((여자)아이들)「I Trust

 K-POPのなかでも、彼女たちのサウンドは特に興味深いとあらためて感じた作品。リタルダンドが施された“Oh My God”など、おもしろいアレンジの宝庫だ。この曲は挑発的なMVも素晴らしかった。



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8 Off The Meds『Off The Meds』

 スウェーデンからとても素晴らしいダンス・ミュージックが届いた。強いて形容するなら、アフリカ音楽を消化したベース・ミュージック、だろうか。“Factory Workers”を筆頭に、庶民の視点が鮮明な歌詞も良い。



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7 Bawal Clan & Owfuck『Ligtas』

 フィリピンを拠点とする2つのヒップホップ集団によるコラボ作。太いキックが耳に残るブレイクビーツはイージー・モー・ビーを連想させる。流麗なフロウは筆者の心をわし摑みにした。



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6 Debris Stevenson Ft. Jammz『Poet In Da Corner

 ディジー・ラスカルのグライム・クラシック『Boy In Da Corner』をもとにしたアルバム。労働者階級で白人女性という出自を強く意識したデブリスの言葉は、ポップ・カルチャーに救われたことがある者なら共鳴できるフレーズばかりだ。



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5 Yerin Baek(백예린)『tellusboutyourself』

 前作『Every Letter I Sent You.』以上に音楽性が多彩だ。彼女のヴォーカルも表現力が飛躍的に増し、繊細な情感や力強さといった多くの表情を見せてくれる。スウィートなUKガラージ“Bubbles&Mushrooms”やハウス色が際立つ“0415”など、ダンス・ミュージックの要素が多いところも気に入った。



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4 Nubya Garcia『Source』

 UKジャズ・シーンを牽引するサックス奏者のデビュー・アルバム。ジャズのみならず、ダブステップ、クンビア、カリプソ、ブレイクビーツなど多くの要素が見いだせるサウンドは、彼女の深い音楽知識をうかがわせる。自身のアイデンティティーを掘りさげたコンセプトもグッド。



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3 Fiona Apple『Fetch The Bolt Cutters

 フィオナ・アップルは常に自分を持っており、そうあるために多くの戦いを経てきた。そのことをあらためて実感させるアルバムだ。アレンジや曲展開における多くの試みは、定型や規範にとらわれまいとする彼女の姿勢ゆえだろうか。



2 Awich『孔雀』

2 Awich『孔雀』

 とても素晴らしい。毒々しい情動が浄化されていくような作品のコンセプトに、弱さを受けいれられるのも強さだと示す凛々しさ。人という生き物の可能性を信じたくなるヒップホップだ。



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1 Dua Lipa『Future Nostalgia

 2020年のベストは、過去と現在の音楽を巧みに折りかさねたポップ・アルバムである本作だ。オープニングの“Future Nostalgia”で男性優位社会への抵抗を歌い、多くの女性が抱えてきたであろう不安と苦悩を綴った“Boys Will Be Boys”で締める構成は何度聴いても感嘆する。《この歌で苛立ちを覚えたなら あなたはきっと何か間違ったことをしている(If you're offended by this song You're clearly doing something wrong)》(“Boys Will Be Boys”)という一節の切実さは全人類が心に留めておくべき。






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