New Order“Be A Rebel”は反逆者であるための指南書だ


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 ニュー・オーダーが新曲“Be A Rebel”をリリースした。新型コロナの影響で人との接触が制限されるなか、リモート作業を重ねて完成にこぎつけたそうだ。

 イギリスのマンチェスターで結成されたニュー・オーダーは、筆者にとって特別なバンドでありつづけている。
 4歳のとき、両親に連れていかれたレコード店で買った作品の中に、“Confusion”(1983)のシングルがあった。ドアーズの『The Doors』(1967)と共に選んだそれは、初めて自分の意思で購入した音楽である。当時はニュー・オーダーの背景や歴史を知らなかったが、ドットグラフィックをフィーチャーしたジャケット、メロディアスかつダンサブルなサウンドといった魅力に好奇心が抗えなかった。

 筆者はニュー・オーダーの作品と向きあう機会に恵まれてきたほうだろう。アルバムのレヴューは何度か書いたし、ニュー・オーダーのベーシストだった(だったと言わなければいけないのは本当に哀しい)ピーター・フックが発表した自伝『ハシエンダ マンチェスター・ムーヴメントの裏側』(2012)にも編集協力として関わった。
 2012年のThe Hacienda Oiso Festivalでピーターが来日したときも、『ハシエンダ マンチェスター・ムーヴメントの裏側』のサイン会を手伝い、一緒に写真まで撮った。あなたとニュー・オーダーとハシエンダがこの世になければ、両親は結ばれず私は生まれなかったかもしれないと直接伝えられたのは、ライター活動におけるハイライトのひとつだ。

 そんな筆者にとって、“Be A Rebel”は琴線を大きく揺らしてくれる曲だった。ほのかにメランコリックな雰囲気を滲ませたシンセのフレーズに、体を動かさずにはいられないダンス・ビートが交わる。強いて言えば『Music Complete』(2015)の延長線上にある音にも聞こえる。
 歌詞に耳を傾けると、ヴォーカルのバーナード・サムナーは現代的なメッセージを紡いでることに気づくはずだ。そのメッセージとは、破壊者ではなく反逆者であろう、である。
 wezzyに寄稿した映画『ブルー・ストーリー』評でも書いたように、イギリスは緊縮財政によって多くの人を苦しめている。公共サービスや福祉の予算は削られ、そのせいで助けを必要とする人たちに支援の手が届かない。それに伴い犯罪率が上昇し、ナイフクライムという社会問題も生じてしまった。他にもブレグジット後の混乱や経済格差など、いまのイギリスにはさまざまな問題が山積している。このような背景を“Be A Rebel”には見いだせるのだ。

 そうした聴き方に疑問を感じる者もいるだろう。ニュー・オーダーは明確な政治的スローガンを掲げたことはなく、社会問題に関する発言も積極的ではないからだ。
 しかし、ニュー・オーダーには時代の空気を滲ませた曲が少なくない。たとえば、大量の失業者と困窮者を生んだサッチャリズムがイギリスで吹き荒れる1986年、ニュー・オーダーは“State Of The Nation”を発表した。直訳すれば〈国家の様子〉となるタイトルを掲げた曲で歌われるのは、国家の無慈悲な仕打ちに対する怒り混じりの狼狽だ。さらには“State Of The Nation”の別ヴァージョンに“Shame Of The Nation(国家の恥)”と名づけるセンス。これらに刻まれているのは、労働者階級を出自とするニュー・オーダーの背景だ。

 その背景は“Be A Rebel”にも表れている。象徴的なのが、破壊ではなく反逆を選ぶところだ。時に破壊行為は、強者や権力者に弾圧の口実をあたえる。そうなってしまったら、社会的立場が強くない者は瞬く間に一掃され、輝かしい未来に続く灯火は消えてしまう。労働者に対するサッチャーの凄惨な仕打ちを振りかえっても、それは明らかだ。だからこそ、ジョン・ボイエガはブラック・ライヴズ・マターの集会で、平和的に行動しようと主張した。

 “Be A Rebel”は、不条理に抗う者たちへの寄り添いであると同時に、未来を作るための戦い方も示唆する警句的なポップ・ソングだ。


※ 本稿執筆時点ではMVがないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。


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