Hayley Williams『Flowers For Vases / Descansos』は私たちの痛みを浄化する


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 アメリカのロック・バンド、パラモアでフロントウーマンを務めるヘイリー・ウィリアムスが昨年リリースしたファースト・ソロ・アルバム『Petals For Armor』は、とても素晴らしかった。ファンク、ディスコ、ジャズ、ヒップホップ、ブレイクビーツなど多くの要素を用いて、自らの音楽性を拡張しようとするチャレンジ精神に惹かれた。そのサウンドを聴いているとウォーペイントやハイムといったバンドも脳裏に浮かぶが、これらのバンドよりもシンセサイザーによる音の質感を際立たせるところは、紛れもなくヘイリーの個性だ。これはもしかすると、マッシヴ・アタック“Teardrop”(1998)のカヴァーを披露するなど、エレクトロニック・ミュージック寄りのアーティストも愛聴してきたヘイリーの嗜好が表れた結果かもしれない。

 そんな『Petals For Armor』に続くセカンド・ソロ・アルバムが早くもリリースされた。『Flowers For Vases / Descansos』というタイトルのそれは、前作よりもシンプルなプロダクションが目立つ作品に仕上がっている。ヘイリーのヴォーカルは静謐さを醸し、声を大きく張りあげる場面はほとんどない。想起させる音楽は、2000年代半ばごろからフォークを更新しつづけるブラインド・パイロットやザ・ケイヴ・シンガーズあたりのバンド、あるいはカントリーといったもので、この点も前作とはだいぶ異なる。
 こうした作風を象徴するのがオープニングの“First Thing To Go”だ。アコースティック・ギターとピアノの音色が前面に出たフォーキーな曲で、ヘイリーの声が近いミキシングは、リスナーとの間に《あなたと私》という親密な関係性を築く。
 ちなみにこの関係性は“Asystole”や“Trigger”でも表れる。全体を通して、『Flowers For Vases / Descansos』はヘイリーを近くに感じられる作品と言えるだろう。

 そう感じられるのは、歌詞の影響も少なからずある。前作以上にパーソナルな情感が滲み、《弱さ》《切なさ》《哀しみ》といったものが耳に染みこんでくる。
 このような言葉を聴いて、筆者も含めたヘイリーを熱心に追いかける者たちは、彼女にまつわる出来事を連想するはずだ。うつ病自殺願望など、これまでヘイリーは多くのことに悩まされてきた。それでも、自分なりに対処をし、現在まで精力的に表現活動を続けている。

 その歩みを経たからこそ、ヘイリーは『Flowers For Vases / Descansos』を生みだせたのではないか。自らと向きあいながら、丁寧にひとつひとつの言葉と音を積みあげていくヘイリーの姿は、数多くの苦痛で詰まった心の回路を修復しているようにも見える。そういう意味では極めて個人的な作品であり、万人向けの内容ではない。
 だが、心の回路を修復する様に触れることで、淀みが浄化され、痛みと折りあうコツを得られる者もいるだろう。少なくとも筆者はそうだ。
 筆者のような者たちにとって、『Flowers For Vases / Descansos』は人生のホームになり得る、非常に大切な作品として鳴り響く。


※ : 本稿執筆時点ではMVがないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。


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