2017年ベスト・ブック20
研究書、小説、漫画など、私が読んだ本の中から20冊選びました。漫画については、今年連載が始まった作品だけでなく、以前から連載されていた作品も選考対象にしております。日本語で読めるものに絞ったため、洋書は入れていません。学術系が多くなったのは、仕事柄そうした本を読んでいるからでしょうね。他のジャンルがつまらなかったというわけではありません。
20
ジョン・グリーン デイヴィッド・レヴィサン
『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』
シカゴの街角で、ゲイの少年とヘテロセクシャルの高校生が出逢うところから、物語は始まる。その物語が見せるさまざまな恋の形には、未来へ進むための光が灯っている。
19
遠藤正敬
『戸籍と無戸籍 「日本人」の輪郭』
日本の戸籍制度に関する本。生き方の多様性を考えるうえでのヒントが多い。
18
林葉子
『性を管理する帝国 公娼制度下の「衛生」問題と廃娼運動』
日本における公娼制度の議論の歴史を世界史の観点から捉えなおしている。娼婦への人権侵害に関する話が勉強になった。
17
田中大介
『葬儀業のエスノグラフィ』
葬儀産業の観点から、現在の日本における“死”を考察した内容。葬儀の多元的な意味合いを浮き彫りにする。
16
大今良時
『不滅のあなたへ』
連載当初と比べて、映画的な構図が減ってしまったのは寂しいが、随所で見られる哲学的な問いは健在。
15
北田暁大+解体研
『社会にとって趣味とは何か 文化社会学の方法規準』
ポップ・カルチャーを社会学の観点から切り取った力作。分類ありきではなく、個々の趣味がどういった社会的な場を確認するのが大事と教えてくれる。
14
ポール・ギルロイ
『ユニオンジャックに黒はない 人種と国民をめぐる文化政治』
なぜ今まで邦訳されなかったのか!という怒りもあるが、英国における人種差別の歴史を辿る内容は必読。イギリスのポップ・カルチャーをより深く理解したい人もぜひ。
13
ブアレム・サンサル
『2084 世界の終わり』
新たな『1984』と言えるディストピア小説。主人公の旺盛な好奇心は、理解する努力の大切さを訴えている。
12
若尾裕
『サステナブル・ミュージック これからの持続可能な音楽のあり方』
悲観的な話も多いが、これからの音楽のあり方を考えるうえでの示唆に富んでいる。
11
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』
ナイジェリア出身の作家によるTED講演録。100ページ程度の分量で、男女平等に関することを軽やかに語っている。
10
岡田温司
『映画とキリスト』
映画と宗教の関係性を丁寧に掘りさげている。この本を読んだ後、『沈黙』や『メッセージ』といった映画を観ると、違った風景が見えてくる。
9
ファーン・マリス
『ファッション・アイコン・インタヴューズ』
ファッション業界で活躍する人たちのインタヴュー集。トム・フォードとビル・カニンガムの話が面白かった。
8
ウィル・ワイルズ
『時間のないホテル』
J・G・バラードが好きなら必読。広大なホテルを舞台にしたSF小説でありながら、ほのかにホラーの香りも漂わせる。
7
藤田昌久 ジャック・F. ティス
『集積の経済学』
空間経済学の本。インターネットが一般化したことで、“距離”や“場所”の重要性は低くなったとも言われるが、実はそうじゃないと本書は告げている。
6
オーウェン・ジョーンズ
『チャヴ 弱者を敵視する社会』
イギリスで問題になっている、低所得者層の人たちに対する差別を取り扱った本。ここ日本の状況と重なる部分もあり、思わずゾッとする。
5
康純
『性別に違和感がある子どもたち』
SOGIに関する教科書的な良書。100ページ程度ながら、専門的なポイントもしっかり押さえている。
4
梶本レイカ
『悪魔を憐れむ歌』
スリリングなクライムサスペンス漫画。時系列の使い方など、凝った仕掛けがいくつも施されている。
3
谷崎由依
『囚われの島』
養蚕業への関心を深めたことが、本書の着想になったというから面白い。端麗な文体に宿る蠱惑的な雰囲気は唯一無二。
2
平山亮
『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』
介護する息子を通して、男性性の問題を分析している。最近よく見かける“男も生きづらい”という主張にごまかされないためのヒントがたくさん。
1
温又柔
『真ん中の子どもたち』
複数の国の間で揺れ動く若者たちが、生き方を模索する物語。そこには、「他者への深い尊敬の念は自尊心から始まる」という作書の想いがしっかり刻まれている。
サポートよろしくお願いいたします。