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『月の立つ林で』

”悩んでるときって、自分を見失ったりするじゃない。私がいるよっていうのは、あなたがいるよって伝えるのと同じことだと思うの。彼女を想ってる私の存在が、彼女の存在の証しになるんじゃないかなって”


『月の立つ林で』 青山美智子

▶︎あらすじ

長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家――。
つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。
月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの想いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいく――。
最後に仕掛けられた驚きの事実と読後に気づく見えない繋がりが胸を打つ、心震える傑作小説。(Amazonより)


▶︎感想

作品読むたびに思うけど、繋がり方と収束の仕方が本当に見事としか言いようがない。

「新月」と「ポッドキャスト」という要素を中心に、近づいたり遠ざかったりしながら織りなす人間模様の描写が素敵だった。

深夜ラジオのような時間の共有とはまた違った、わずか10分のポッドキャストで繋がるというのが新感覚だったしとても現代的。

なんとなくこういうテーマだと、各エピソードに合ったさまざまな形の月を出してきそうな気がするんだけど、徹底して新月という一つの形でそれぞれの始まりを描き切るところに、物語の力強さと作者からのメッセージを感じた。

またこれは個人的な意見だけど、あまりにも帯で伏線回収のすごさみたいなものが書かれていると、余計にハードルを高くしてしまうので、こういう物語こそ静かに穏やかに、自分の心のうちだけでワクワクしながら読みたいなって思う。もちろんそこを抜きにしても、気づいていない仕掛けや繋がりがあるんじゃないかと読んだ後も楽しさが残る作品だった。

ストーリーも表紙のデザインも、全てが優しさに満ち溢れている作品だった。

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