見出し画像

最後のおっさん

ヘルメットのつばで前がみえなくなって空振りした。

好きな女の子にたった一言が言えなかった。

3年間一度もレギュラーになれなかった。

大人になったのに面接官から鼻でわらわれた。

せっかく入った会社で成果をだせなかった。

どんどん世界の隅へと追いやられていく感覚。

いつしかそんな暗くて陽の当たらない場所に
慣れてしまっていた。

情けなくなった。
他人を妬んだりもした。

そんなどうしようもない思い出ばかりが頭に浮かぶ。
走馬灯なんていいもんじゃねェな。

そんな腐りきった命のつなも、
どうやらあと数ヶ月で朽ちるらしい。

もしかしたら、いい思い出があったのかもしれない。だけど悲しいことが多すぎて、もう思い出せやしない。

なぁ、生きるって大変だよな。
なんでだろうな。

でもな、この朽ちた命の綱、一本一本に俺が編み込まれていたんだ。
もう太いのか細いのかわからん。

最後の一本、ほんとの最後の一本が切れる瞬間、
俺の人生に暗い影を落としたとしても、

"それでも"って言うんだ、おれは。

死ぬ時、後悔したくないとか言ってる奴もいるが、
そうじゃねェ、そうじゃねェンだ。

俺は死ぬ時に後悔しないって、
ただそう決めてるだけなんだよ。


それまでどんなことがあろうが、
死ぬ瞬間、てめェにいい人生だったって言うって決めてンだ。

それだけでいいのさ。 


なぁぼうず。

死ぬ瞬間、俺は後悔しないって決めてみろよ。

そうすりゃ途中のことなんてどうでも思えるからよ。




立派な人生とか良い人生とか、
そんなもん生きてるヤツが好き勝手にぴーちくぱーちく言ってればいい。

結局のところ、いっさいがっさい含めて、
それでもおれの人生はって言えたらいいんじゃねェかな。

まだ未来があるって思っているヤツらからしてみたら、人生を諦めた負けおしみに聞こえるかもしれねェな。

ははは、ちげぇねェ。

たしかにおれはもう死ぬからよ、生きてるやつにはかてねーんだわ。

だけど、ここまで生き残れたのは誇りに思ってる。

いつ死んでもおかしくなかったんだ。
死にたくなる時だってなんどもあった。
死んだなって思ったときもあった。

それでも、ここまで生き残れた。

だからよ、ぼうず。

生きてるうちに人生の価値なんて決めるんンじゃねぇぞ。

そんなバカなことしないでくれ。
そんな悲しいことしないでくれ。

もうダメだと思ったら、それでもって口にするんだ。
あとの言葉が続かなくてもいい。

それでもって口にするんだ。

そうやってれば、本当に大事なモノだけが残るはずだからよ。

積み重ねるだけが人生じゃないのさ。
もっと身軽になっていい。

なぁ、ぼうず。


こんなヤツの話を聞いてくれてありがとな。

結局はよ、ヒトが求めてるものなんて、こういうことなんだよ。

こんな単純でカンタンなことなんだよ。

忘れてんだよな、みんな。

俺も。


じゃあな、ぼうず。

またな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?