見出し画像

式日

春は別れと出会の季節である。
思い出には香りや音が紐付いていて、春の香りが充満した今日はACIDMANを思い出したのだった。

彼は「雨の日にはスロウレインが聴きたくなる」と言ってわたしにとある音楽を教えてくれた。
ACIDMANというバンドの曲だった。

彼は宇宙や生命の神秘みたいなジャンルが好きだった気がする。だからACIDMANの作るメロディや歌詞は好みドストライクだったと思う。

彼が好む音楽をわたしは溺愛した。
当時は彼の好みに合わせているつもりはなく、単に好みが合うと思っていた。
実際にわたしもACIDMANの曲は好きだった。

高校卒業するころに「式日」という曲を知った。
これまでのACIDMANの曲の中でも希望を感じる明るい曲だった。わたしはこの曲が一番好きだ。

高校を卒業するとわたしと彼は疎遠になった。
わたしは大学生、彼は浪人生。恋愛を続ける理由が見つからなかった。

彼が一年遅れで大学生になったことも何となく風の噂で知っていたが、特に連絡はしなかった。
成人式もエリアが違うので顔を合わせることは無かった。

ACIDMANを聴くと彼を思い出すなんてこともいつのまにか無くなり、わたしは19歳20歳と学生生活を謳歌した。

そんなある日、同じ地元の友人が大学の学園祭に来ないか?と誘ってきた。面白そうなのでわたしは他校の学園祭に行ってみることにした。

友人と学園祭を回る。
様々なサークルの模擬店を練り歩き、展示やステージを見て次は何をしようかととある棟をうろうろしていた。

すると階段からACIDMANを教えてくれた彼がサークル仲間と一緒に降りてきた。
頭の中で式日が鳴り響いていたのを思い出す。

彼は友人と同じ大学に一年遅れて入学した。
友人は接点が無いので彼に全く気付かなかった。

わたしは舞い上がってしまった。
彼もまた少し舞い上がっているように見えた。

わたしたちはまた連絡を取り合うようになった。高校時代に行けなかったACIDMANのライブに行こうという話で盛り上がった。

しかし、彼とライブに行くことは無かった。
わたしにも彼にも新しい恋人がいたのだ。

彼とは音楽の趣味の合う友達にはなれなかった。
わたしたちの関係は恋人か知人しか選択肢が無かった。友情が成立しないタイプの男女だった。
わたしと彼の恋愛は今度こそはっきりと終わりを告げた。

麗らかな春の日、不意にACIDMANの式日を聴きたくなった。
青春の彼を思い出して、少しふふっと頬が緩んだ。

彼は元気にしているだろうか。
きっともう会うことはないけれど、彼の幸せを願っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?