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アコとエコ


「トマトソースだよ!」

「ホワイトソースだってば!」

「ぜったいトマトソースだもん!!」

「ぜったいぜったいホワイトソース!!」

静かな森中に、双子のケンカが響き渡る。

「ぜったいぜったいぜーったいトマトだよ!」

「そんなにぜったいって言っても、
 ぜったいにホワイトソースなんだもん!」

「だったらもうぜったいって言わないで!」

「言わなくてもホワイトソースだもん!」

そんな双子の声に驚いて、
鳥や、虫や、リスや、鹿も
草木や、川や、太陽すらも
みんなみんな静まり返りました。

そんな時、森の大きな木の長老が言いました。


「お嬢さん方、何をそんなに喧嘩してるんだい。
 お嬢さん方の大きな大きな声に驚いて、
 森のみんなが逃げ出してしまうじゃないか。」


普段なかなか目を覚さない森の長老の声に
ビックリした双子は、顔を見合わせました。

そしてまた、ケンカを始めます。


「だからグラタンにはトマトソース!」

「ホワイトソースだもん!ぜったい!」

「あ!またぜったいって言った!」

「ぜったいはぜったいなんだもん!」

「もうエコなんかだいっきらい!」

「わたしだってアコのことだいっきらい!」

森の大きな木の長老は、困り果ててしまいます。
この森を守ってきてから、数百年。
こんな大きな喧嘩は初めてです。

困り果てる長老のもとに、
リスが1匹登ってきました。

「なになに、
 最近この森の奥に小さなお店ができたって。
 しばらく眠っていたせいで気が付かなかった。
 『ひだまりカフェ』というのか。
 それで、そこでは新メニューを募っていると」

「おーーい、お嬢さん方。
 ワシにはその問題は解決できん。
 この少し奥にあるひだまりカフェに行って、
 お嬢さん方の喧嘩の答えを見つけておいで」

双子はまた長老の声にビックリして
顔を見合わせましたが、
すぐにプイッとしました。

「いいかい、ここから少し奥だ。
 分かったかい。
 答えが分かったらまた戻っておいで。
 ワシがまた話を聞いてやろう」

双子はプイッとしながらも、
お母さんに
"森の長老さまの言うことは聞きなさい"
と教えられていたので、
しぶしぶ2人で歩き出しました。

しばらく双子が黙って歩くと、
小さなカフェが見えてきました。

双子はまた顔を見合わせましたが、
またすぐにプイッとして、
小さなカフェの扉を開けました。

カランコロンカラン


「はーい、いらっしゃいませ!
 わぁ!可愛いお客さん!
 motohiroさーん、
 可愛いお客さんがふたりも来てくれたよ」

小さなカフェ『ひだまり』で働く黒猫さんが
キッチンでコーヒー豆を挽きながら
何か考え事をしている店主motohiroさんに
声をかけます。

「わぁ!ビックリした!
 本当だね、可愛いお客さん、
 いらっしゃいませ。
 好きな席に座ってね。
 まずは何か飲みますか?」

双子は離れたテーブルの席に着き、
同じタイミングで

「「オレンジジュース」」

を頼みました。

その様子を見たmotohiroさんと黒猫さんは
さては喧嘩しているな、と察しました。

motohiroさんはオレンジジュースを用意しに、
キッチンへと入っていきました。

その間に、黒猫さんは普段よりもさらに明るく、
ちょっぴりお姉さん気取りで話しかけます。

「ふたりの好きな食べ物はなに?
 なんでもmotohiroさんが作ってくれるよ。
 それに今は新しいメニューを募集してて、
 良いのがあれば本採用されちゃうかもっ!」

双子はすぐに答えます。


「トマトソースのグラタン!」

「ホワイトソースのグラタン!」


その小さな体から発される大きな声に
黒猫さんはビックリしました。

「はい、お待たせしました。
 オレンジジュースです🍊🍊」


黒猫さんはジュースを置いたmotohiroさんを
引っ張って、小さな声で囁くように話します。

「motohiroさん、
 あの子たち、ケンカしてるでしょ。
 それで、
 グラタンが食べたいって言ってるんだけど、
 それでね、、、」


こしょこしょ…
こしょこしょ…


「それは良い考えだね!早速取り掛かろう!」

ふたりが何か作戦を練っている間も、
双子はプイッとしたまま、
オレンジジュースを飲んでいました。

しばらくすると、
キッチンからmotohiroさんが出てきました。

「はーい、出来上がりましたよ!
 さぁ、同じテーブルに座って。
 僕はグラタンは同じテーブルにしか置けない
 魔法にかかってるんです。
 熱々のうちに、さぁ早く」

双子はしぶしぶ同じテーブルに座ります。
 
「はい、ふたりの注文通り、
 トマトソースとホワイトソースのグラタン!」

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すぐに目の前に置かれたグラタンを見て
キョトンとしながら、顔を見合わせました。

グラタンはチーズがたっぷり乗っていて、
何のソースか分かりません。


「これ、トマトソースなの?」

「これ、ホワイトソースなの?」


「そんなことは良いから、さぁ食べて食べて!」

motohiroさんと黒猫さんはワクワクしながら
双子の様子を見つめています。

どこか険しい顔をした双子は、
また同じタイミングでふーふーしながら
グラタンをパクリ。


「「わあ!!
  トマトソースだぁ!
  それでホワイトソースがきたぁ!」」


そうです。
黒猫さんとmotohiroさんは、
トマトソースとホワイトソースが
二層になっているグラタンを作ったのです。

「motohiroさん、このメニューは
 "双子ソースのあつあつグラタン"
 にしましょ♪」

motohiroさんは微笑みました。


「「ごちそうさまでしたー!!」」

双子は仲良く手を繋ぎ、
ひだまりカフェを後にしました。

「エコ、ごめんね。」

「ううん、わたしこそ。アコ、ごめんね。」

「グラタン、おいしかったね!」

「うんっ!トマトソースもおいしかった」

「ホワイトソースもおいしかったよ」

「そうだ、
 長老さまのところまでかけっこしよ!」

双子は仲良く手を繋ぎ、
長老さまのところまで駆けて行きました。

「「ねぇ!長老さま、あのね!あのね!」」


森の大きな木の長老は、
いつまでも双子の話を
微笑みながら聞いていました。



〜 おしまい 〜

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