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アコとエコと、アキ

ある秋の雨の夜。

「お母さん、あのね、あのね、
 明日森でパーティーがあるの」

「お母さん、それでね、それでね、
 わたしたち、まっしろのが着たいの」


夕食の片付けをしているお母さんの周りを
いつものようにアコとエコは取り囲んでいます。


「ね、まっしろのがいいよね」

「うん、まっしろのがぜったいいいよね」


お母さんは困っています。

アコとエコは森一番のおてんばな双子。

新しいお洋服をいくら作っても、
すぐに汚してしまうのです。


「「お母さん、おねがーい!!」」


お母さんはひとつだけ双子に約束を言いました。


"パーティーの時まで、お洋服を汚さないこと"


「うん!分かった!まっしろいのー!」

「まっしろ!まっしろ!うれしいなー!」


双子はもう大はしゃぎです。


双子はお母さんとの約束を守れるのでしょうか。



次の日は綺麗な秋晴れ。
森のパーティーにはぴったりの空です。

双子がベッドから起き上がると、
目の前にはお揃いのまっしろなワンピースが
かけられていました。


「「わぁーーー」」


アコとエコは目を輝かせて、大はしゃぎ。


「ねぇ、エコ!お空の香りがするよ!」

「本当だね!いい香りー!」


双子はお母さんの作ってくれた
真新しいまっしろなワンピースに
むぎゅっと顔を押し当てます。


「「お母さん、ありがとう!!」」


お母さんは微笑みながら双子を見つめています。


「アコ、エコ、昨日の約束覚えてる?」


「もちろんだよ!お母さん!ね、エコ?」

「もっちろん!ね、アコ?せーのっ!」

「「パーティーまでお洋服を汚さないこと!」」



きゃははははっ

まっしろー!まっしろー!

双子は早速まっしろなワンピースを着て、
森のパーティー会場まで出かけて行きました。



「ねぇ、エコ、
 せっかくだからどんぐりひろって行こうよ」

「アコ、めいあんだね!リスさんたち喜ぶね!」


双子は昨日の雨で落ちたどんぐりを集めながら、
ワンピースのポケットに詰めました。


「エコ!こっちー!こっちにいっぱいある!」

「待ってよ!アコ、早いよー!」

「早くー!エコー!こっちすごーい!」

「アコ!待ってってばー!」


ずんずんと森を先に進んでいくアコを、
エコは走って走って追いかけます。

走って、走って、



ドスン!



「うわーーーーーん!!!!」


静かな森に
エコの転ぶ音と大きな泣き声が響きます。

アコはびっくりして、エコに近寄ります。


「アコがいけないんだよ!
 待ってって言ったのに!
 待ってって言ったのにー!!」

「エコが自分でころんだんだよ」

「お母さんと約束したのに、
 こんなにどろんこになっちゃった…

 うわーーーーーん!!!!」


またエコの泣き声が響きます。


「アコのせいじゃないもん
 アコのはきれいだもん」


それを聞いてエコはアコに飛びかかりました。


「アコがどんどん行っちゃうからだよ!
 アコのばかー!」

「どろがくっついちゃうよ!
 エコのばかー!」



ドスン!

ドスン!


双子は一緒に転びました。


「「うわーーーーーん!!!!」」


双子はお母さんとの約束を
守ることができませんでした。



その様子を見ていた一匹のキツネが
あきれた顔をして、
双子にスタッと近づきました。


「おい、ふたりとも、何してるんだ
 森中に泣き声が響いて、
 長老もびっくりしてたぞ
 今日はパーティーの準備で忙しいってのに、
 長老に言われて、おれが様子を見に来ることに
 なったじゃないか」


突然目の前にやって来たキツネを見て、
双子は顔を見合わせます。


「「うわーーーーーん!!!!」」


「あーもうわかった、わかった
 泣くのはやめろ
 泣くのはうちのチビだけで十分だ」


「だってね、お母さんと約束したの…」

「パーティーまで汚さないって…」


キツネはどろんこになった双子を見て、
しばらく何かを考えます。


「そうだ!ふたりとも、ついて来い!」


双子はキョトンとして顔を見合わせました。


「いいから!さあ!ついて来い!
 いいこと思いついたぞ!」



キツネは森の奥へ走って行きます。

双子は泣き止み、キツネを追いかけます。


「待ってー、ねぇどこ行くのー?」

「どこ行くのー?」


キツネは走って、走って、
大きなどろんこの中にひとっ飛び。


「さぁ、おまえらもやってみな」


「えーやだよ、また汚れちゃう」

「お母さんにどんどんおこられちゃう」


「いいから!さぁ!」


双子は顔を見合わせて、ウンとうなずき、
一緒にどろんこに飛び込みました。



ボッチャーーン


「さぁ、それからこうだっ!!
 アコはこっちで、エコはそっちだ!
 さぁ、もうひとっ飛びして転がれー!」


双子はキツネに言われるがままに、
こっちとそっちに飛び込み、
転がりました。



ザッ

ゴロゴロ〜 ゴロゴロ〜



双子は寝転んで秋の空を見上げました。


「あーあ、せっかくのパーティー、
 どろんこだから行けないよ」

「あーあ、森のみんなに自慢したかったな、
 まっしろなワンピース」


キツネは双子の顔を覗き込み、言いました。


「まっしろより、かわいいぞ」


双子は顔を見合わせて、驚きました。


「わぁーーエコ、真っ黄色だーー」

「わぁーーアコ、真っ赤だーー」


アコのワンピースにはモミジが、
エコのワンピースにはイチョウが、
たくさんたくさんついていました。


そうです。
キツネは双子にモミジとイチョウ、
それぞれの葉の山に飛び込むように
言ったのです。


どろんこだったワンピースは、
きれいな赤色と黄色のワンピースになりました。


「エコのきれい!かわいいね!」

「アコのもきれい!似合ってるね!」

「エコ、おいて行ってごめんね」

「ううん、私も飛びついてごめんね」


双子はニッコリ笑います。


「ふたりとも、そろそろパーティーの時間だぞ」


双子はキツネを間に挟んで手を繋ぎ、
色鮮やかなワンピースを揺らしながら
森の奥のパーティーへと向かって行きました。


〜 おしまい 〜

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