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本日のヤフーの自社株買いについて

ども、雑な議論と丁寧さを欠く説明と低い文章力とアップデートされてない知識に定評のあるmassinaです。今日は本日発表のヤフー株式会社(以下ヤフージャパン)の自社株買いについてポイントを整理して、その意味するところを少し考えてみたいと思います。
ただし、以下は関係者に確認を取っていない憶測と妄想ですので、あくまで論点を整理するためのものとしてお取り扱いください。

■今日起きたこと
本日発表されたヤフージャパンによる自社株買いのスキームを大雑把にまとめると
・ソフトバンク(国内の通信事業など国内事業会社、以下SBKK)がAltabaが保有するヤフージャパン株を取得(10.78%)
・ヤフージャパンがソフトバンクグループ(以下SBGJ)が保有するヤフージャパン株を取得(10.73%)
・SBGJがSBGJ、SBBM、SBKKを通じて保有するヤフージャパン株の持分がディール前42.95%から48.17%に
・SBKK自体はヤフージャパンの12.08%の保有
という格好だと思います。

■本質的な意味
上記をより簡単にするとというかエッセンスとしては
・Altabaはヤフージャパンの売却益を得る
・SBKKは競合上必要なサービス機能を強化する
・ヤフージャパンのROEが上がる(かも)
という結論になるかと思います。

■背景について
今回、なぜ今こういう形でこういうディールが起きた理由というか背景というか条件というか理由を以下簡単にまとめてみたいと思います。

■ヤフージャパンの余資とROEの低下
ヤフージャパンについては、長らく高い利益率からくる潤沢なキャッシュフロー、その結果として積み上がる利益剰余金と現預金、そしてその結果としてROEの低下が指摘され、しばしばその現預金の使途として買収や自社株買いについて取り沙汰されていました。
買収に関しては例えば2009年のソフトバンクIDCのソフトバンクからの買収も当時の金融危機下ではソフトバンクグループ内での資金移動だとかヤフー自体のガバナンスはどうなってるとか色々批判めいた評価があったこともありました。
# 本件は税務当局との争いもあったことは皆さん覚えているかと思います。

ともあれ、直近年度で2兆5,166億円の総資産のうち、現預金と金融資産(銀行・カード事業など金融事業の金融資産を除く)は1兆317億円と、総資産の41%、ROEも14%という昔に比べると資本効率が落ちてきていることは否めない上、新経営陣の元で「新たな挑戦」を掲げてお金を使っていくことも打ち出しているわけで、資本効率の改善やら株価やら色々思うところやプレッシャーがあるんだろうなという印象を受ける次第です。

■Yahoo! IncとAltaba
2000年代半ば以降のYahoo! Incのネット業界における地位の低下については今更言うまでもないことと思いますが、一方でYahoo! Incの株価評価については、本業の収益力が低下する一方で保有するAlibaba株の評価がAlibaba上場前から高まり、ヤフージャパン株と併せて本業の収益力の評価よりも資産価値を主とした評価へと軸が移っていった経緯があります。関連して、あまりに収益力が落ちて投資先の評価益・配当益が高まると税の区分がRICs (Regulated Investment Company)になる可能性も指摘され、それを避けるためにAlibaba株やヤフージャパン株を売却する可能性が折々言及されていたかと思います。過去に見られたヤフージャパンの業績や日本の株式市場に関係ない急落はこうした思惑が働いていたのかも知れませんね。

で、そうこうしているうちに、Yahoo! Incの事業自体はVerizonに売却してYahoo! Incの存続している法人は純粋な投資会社、すなわちAlibaba株とヤフージャパン株を保有している企業となり、Alibaba株がほぼ残存した企業価値を代弁する格好になったのでAlternative Alibaba(BABA)でALTABA(AABA)と名付けられたわけです。(この辺の詳細は省く)

■トランプ税制
このAltaba、税制区分は一応RICsではなくC Companyとなったわけで(多分)、トランプ減税の恩恵を受ける話になり、そこで一気にヤフージャパン株の売却観測が出てきます。もう1年以上前の話ですかね。
この段階で、ヤフージャパン株についてはいつ何があるかわからないという感じになり、株式市場ではどういうスキームがありうるかという議論が再度活発になったように思います。スキームに関しては従前からYahoo! Inc/Altabaにとっては「もっとも税金がかからないスキーム」、SBGJとっては「もっとも税金がかからずに本体に現金を移せるスキーム」が検討されるだろうと推測されていたというか、推測も何も当たり前の話でそうなるよねって感じだったように思います。

■株主間契約
もともとYahoo! Inc/Altabaがどういう形でヤフージャパン株を処理するかについては様々な憶測がありましたが、これについては今を去ること20年以上前、ソフトバンクがYahoo! Incに出資する際にヤフー事業を日本で展開するにあたってJV(ヤフージャパン)を形成する際に結んだ株主間契約、すなわち先買権があることは明に暗に言われていたことで、これを前提に考えるべきです。
これが投資家やアナリストがソフトバンクに対して「もしAltabaがソフトバンクの競合に、それこそ某Dや某Kや某Rが買いたいと言ってきてそれに応じたらどうなるのか」という質問を普通にしてきたはずですけど、それに対して「そうはならない(その前にわかるので)」という返答をする根拠になっていたかと思います。
今回のリリースではその株主間契約についてJoint Venture Agreementという形で明記されつつ、これが解消されることについても書かれているのは今後の重要なポイントになってきます。

■SBGJの事情
SBGJについては孫さんの発言を追っかけていればだいたいわかるように思うので端折りたい感じですが、簡単に言えば、例のVision Fundの投資に傾倒していて、日本市場は割ともう重要度が下がってきているように見えること、株主からの要請として、必要なexit(投資先の投資価値を現金化)をすること、があるかと思います。特に後者についてはこの数年話題になっているAlibaba株の売却とそれに絡むデリバティブ損失なんかもその一環ですが、この度ファイリングされたSBKKの上場もこれに当たるものと解釈できます。今回のディールもグループとしては持分の移動の性格が強いですが、SBKKやヤフージャパンを除いたSBGJとして考えると、売却益によるキャッシュインがあり、投資会社として見た場合に評価すべきポイントになってくるかもしれません。
併せて、ヤフージャパンをどの程度持っておく必要があるか、というのも考察点ですが、事業シナジー的な意味で連結しておきたいものと考えられます。

■SBKKの事情
ヤフーのプレミアム会員とソフトバンク加入者の連携について、こうした動きの背景には国内通信市場の競争環境があるのは指摘するまでもないと思いますが、ドコモやらKDDIやらの経済圏の話、そして楽天の通信市場参入などで通信とネットサービス、なかんずくコマース系サービスとの融合はどうしても避けられない話題で、SBKKが上場するとなった今、その株価評価に関してそうした競争戦略や中長期の成長シナリオを打ち出す必要があり、その意味でSBKKがヤフージャパンの株を保有する意味というのを捉える必要があるかと思います。

■今後の話
以上が背景的なものです。つまりYahoo! IncがAltabaになり、税制が改革され、いつ売ってもいい状況になっていたところ、SBKK含めてスキームが固まったのがこのタイミング、と私は理解しました。で、その結果何がどうなるかについての大雑把なポイントはこんな感じでしょうか。

■オーバーハング
大株主がいてロックアップが外れたなどの理由で発生するかも知れない売り圧力を売りが覆い被さってるものとして「オーバーハング」などといいますが、今回のディール以降もAltabaはヤフージャパン株を保有しつつ、株主間契約は解除された、という状況についてはどう理解するのかという話が残るように思われます。

■ヤフージャパンのROE
2018年3月期のヤフーの自己資本1兆133億円(純資産から少数株主持分引いた「親会社の所有者に帰属する持分合計」を使ってます)に対して、今期の当期利益予想は四季報によれば900億円、配当性向40%程度とすれば、ROEは9%切るわけで、なんといっても「新たな挑戦」をするわけである程度の低下はやむを得ないわけですけど、ここで2000億円程度の自社株買いをすれば10%程度は維持できるし、新たな挑戦をしなければ10%を超えるわけで、ROEの低下に一定の歯止めがかかることが期待されます。

■SBGJの持分のインプリケーション
今回のスキームでは結果的にSBBMやSBKKを通じたものも併せてSBGJとしては48.17%に上がるわけで、将来的にこれを40%まで、すなわち連結対象ギリギリになる水準まで下げる可能性がある点には注意が要るかと思います。批判としては外部流出(少数株主持分)を増やすのかという批判が考えられます。手法としては市場での売却、ヤフージャパンによる追加的な自社株買い、ヤフージャパンの提携先への売却等、色々考えられますね。


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