見出し画像

それだけで、青春でした。

 

 喉が渇いた。君は百十円で苺ミルクを買う。
 新聞部がスクープ探して駆け抜けていく。
 吹奏楽部の情熱音色をBGMに帰宅するあいつ。
 僕はもう、スーツを着てしまった大人。

 陸上部が走る。なぜか演劇部も走る。
 サッカー部が蹴る。バレー部は空を仰ぐ。
 科学部がネモフィラを探して散歩する。
 君はまだ、制服を着た子供。

 入道雲を目指して自転車を漕いだり、
 帰りにガリガリ君を買って食べたり、
 定期テストに襲われて滅入る、青春。
 それだけで、青春でした。

 お化け屋敷を作ろうとする君が、
 僕を手招きしてくれるけど、
 向かう先には品川駅しかなくて、
 それが悪いってわけじゃねえけど。

 雨が降ったらグラウンドは濡れる。
 保健室で目を瞑ってその音を聴く。
 なぜか君が隣で座っていて、
 僕の手をそっと握ってくれるのでした。

 どうでもいい英単語を覚えたり、
 古文による単純恋愛を読んだり、
 気まぐれにテニスをしたりする、青春。
 それだけで、青春でした。

 けれども僕の青春は、渇いてしまった。
 もう一回水を得ることはない。
 花が咲く季節なのに干からびてしまって、
 壊れた迷路だけが続いている。

 友達と喋ったり、君と笑ったり、
 夢を見たり、勉強したり、
 汗を流したり、制服を汚したりする、青春。
 それだけで、青春でした。

 振り返れば、君はいる。
 それだけで、青春でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?