50日目 声変わり

旅行記の本を読んでいる。昨日に引き続き、フランスを歩く。スイーツを巡る旅なので、おいしそうなお菓子がたくさん登場する。タッグタルト、チーズケーキ、パン・・・魅力的だなぁ。こちらは相変わらず入院中だ。外の世界を夢見る患者をしている。

シャワーからベッドに戻ると、向かいのベッドの奥様はいなくなっていた。愛犬ヨ-クシャーテリアのを話をしてくれた奥様だ。彼女は退院したらしい。からっぽのベッドが次の患者を待っている。かつてスーパーウーマンの奥様がつかっていたはす向かいベッドには、すでに2人の患者さんが入り、退院していった。なかなか回転が速い。救急病院ならではだなと思う。

今日は、きたる外出の日に向けて、車椅子を車に乗せることができるかどうかのチェックをした。看護師さんの立ち合いの下、車椅子から助手席への移乗ができるか試した。問題なさそうだ。久しぶりに車に乗った。駐車してある車の座席に座っただけだけれど、今までの日常に戻れそうな気持ちになった。一気に今までの入院生活の方が夢だったんじゃないかと、錯覚に陥る。

のどの穴は、いつのまにか閉じていた。スピーチカニューレをはずしてから2週間ちょっとかかった。なかなか閉じないと、気持ちは焦っていたけれど少しずつ穴は塞がっていたのだ。わかりにくいくらいゆっくりだけれど、身体は日々変化している。身体ってすごい。

のどの穴が閉じたらなおるだろうと思っていたが、閉じても声が少し出しづらいのは変わらなかった。のどの震える場所が、以前より遠くにあるような。声量は小さく、低くなった。ハスキーな声だ。病院にいる間は大声を出す機会がないから、わからないけれど、どのくらいまで声はでるようになるだろうか。声変わりしたことに関して、そこまで残念な気持ちはない。だって、話しができるだけで、それだけでもありがたいのだ。手放しで笑える、それだけで幸せなのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?