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会社設立から2年、顧客との距離を軸にしたビジョンがやっと出来た話

カスタマー・インティマシー(顧客との親密性の徹底的追求)を通じた価値を提供する企業は顧客とのつながりを隣人同士と同じようなものにしていく。それらの企業はそのマーケットが欲するものではなく、ある特定の顧客が欲するものを提供する。そのような企業は、売る相手の人々と、その人たちが必要とする製品、サービスをよく知ることで商売を成立させる。だから、絶えずそうした製品とサービスを特別に仕立て上げ、それを妥当な価格で提供する。その価値理念は「あなたとあなたの必要とするものすべての面倒をみて差しあげます」、または「あなたに最良の総合的な解決策をお持ちします」というものである。 とすれば、カスタマー・インティマシー企業の最大の資産が顧客の忠誠心であるとしても、驚くにはあたらないだろう。
顧客にもう一度買ってもらうためには、なにも高価な広告や宣伝活動に頼る必要はない。カスタマー・インティマシー企業は取引を追い求めない。ひたすら特別な関係(リレーションシップ)を深めるのである。

ナンバーワン企業の法則


登りたい山は「カスタマー・インティマシー」だった


約2年前に独立し、イノベーション×テクノロジーで起業しようと意気込み、頑張ってきたものの、それが何なのかひたすら悩んだ2年間だった。

イノベーションを起こすためにテクノロジーを駆使したい。GAFAだけではなく、もっと日本も、果てはイノベーションに悩む他の国でも、イノベーションがどんどん生めるようにしていきたい。

だからこそパキシーノという社名にした。パキシーノはラテン語で平和を意味するPaxとイノベーションのInnoの造語で、イノベーションに関わる人(造り手も受け手も)みな幸せになってほしい、モノづくりする段階からずっと幸せでいてほしい、そんな思いを込めて命名した。

そんな思いは持っていたのだけれど、どういうプロセスだとそこにいる人は幸せなのか、軸となるもの(山)はなんなのか、ずっと腑に落ちていなかった。

この2年間検証・模索し、やっと山を見つけられたので、今回のnoteではそのことを書いてみる。

登りたい山はなんだったのか、悩みに悩みやっと見つけたのが「カスタマー・インティマシー」というものだった。要はイノベーションや幸せはあくまで得られる結果であって、山に登ったあとの満足感や爽快感みたいなものだった。そういった満足感はスポーツでも勉強でも得られる。
そうではなく、何を通して、その満足を得たいのか。そこが抜けていることにずっと気付けなかった。
重要なのは「カスタマー・インティマシー」という山を目指すことだった。そういう山を登り、結果的にイノベーションや関わる人が幸せになる。それが残りの人生でやりたいことだった。

「カスタマー・インティマシー」なにそれという人が大半だろう。僕も知らなかったし、なかなか知る機会のない言葉である。

グロービズの記事のお言葉をお借りするとこういう概念である。

カスタマー・インティマシーとは、顧客と親密な関係を築き、関係を強固にすることで顧客を囲い込み、長期の安定した良好な関係を築いて戦略的優位性を構築する考え方。

トレーシーとウィアセーマは1995年に『ナンバーワン企業の法則』で、「業務の卓越性」「製品リーダーシップ」「カスタマー・インティマシー」の3つの戦略のうち、どれか1つを選択、実行する必要があると示した。 具体的には、生命保険会社の生保レディーなどは、顧客ごとに専属の担当者がおり、個々の顧客と担当者の関係を築くことで顧客を囲い込んでいる。

また、カスタマー・インティマシーは、CRMで顧客を囲い込むための「顧客ロックイン戦略」の1つにも挙げられる。

カスタマー・インティマシー

トレイシーは『ナンバーワン企業の法則』のなかで、ナンバーワンを維持する企業がどんな強みを持っているか分析し、その強みを「業務の卓越性」「製品リーダーシップ」「カスタマー・インティマシー」の3つに分けられるとした。もちろんナンバーワンともなるとどれも一定のクオリティを保っているはずだが、そのなかでも1つがずば抜けているのがナンバーワンである理由と。

「業務の卓越性」はトヨタ・ユニクロのようにオペレーションを最適化・効率化し、他社に真似できない価値を届ける企業である。安かったり、早かったり。仕組みの強さが強みになる。

「製品リーダーシップ」はソニー・ピクサーのように商品で差別化を図る企業である。商品が強いという意味ではAppleとかMicrosoftも入るかもしれない。いい商品を作るためなら競争することすら厭わず、商品第一主義であることが強みになる。

「カスタマー・インティマシー」は顧客との関係を重視する。トレイシーの本ではIBMが挙げられていた。とにかく顧客のなかに入り込み、顧客の悩みを聞きながら、顧客の力になることを徹底する。顧客独自にカスタマイズすることすら厭わず、顧客の社員とも間違えられてしまうぐらい中に入り込むことを強みとする。

たまたまリサーチしていたときに、この用語に出会い、やりたいのはこれだと。自社でもやりたいし、弊社製品を導入してくださった多くの企業でも実践したい。このために残りの人生を使おうとなったのが2023年冬だった。

これだけだとまだ分からないと思うので、いくつも事例をあげてみよう。

たとえばこんな企業がある

顧客との長期的な関係を築いているといっても、具体的な取り組みは多種多様である。そのため、自分がこういうのが理想と思えるものをピックアップしていく。大切なのは、どの事例も「顧客との距離」が非常に近いということ。それが企業を強くするし、イノベーションを生むことにも繋がる。そんな視点で事例を紹介する。

コミュニティ編

顧客と距離が近いというと、真っ先に浮かぶのはコミュニティだろうか。
たとえば、以下の本からは、読売巨人軍、カゴメ、レタスクラブ、ネスカフェなど多くの事例を学ぶことができる。
ファンとともに苦楽をともにしながら事業を作っている世界は色々ある。

mineoの事例

上記の本にも載っているのだが、mineoを取り上げたい。
最近、携帯のSIMをmineoに変えた。そのときの体験が新鮮で面白かったので、良い例としてあげてみよう。

先日初めて知ったのだけれども、mineoはFun with Fans!を掲げ、他の通信事業者とは別の路線を歩んでいる。

ブランドステートメント

「通信」とは、文字や写真、動画といったデータを、単純にやりとりする手段ではなく、
そのやりとりに込めた「気持ちや想いを伝え合うもの」だと思っています。
嬉しいときに、悲しいときに、いつでも誰とでも気持ちを伝え合えるように。

その実現こそが通信事業者の使命です。

でも、今のモバイル通信はそれが当たり前ではなくなっています。
複雑な料金体系により、必要以上のサービスを契約していたり。
縛りにより、限られた時期にしか解約出来なかったり。
自分に合っていなくても、事業者が作ったサービスを
一方的に利用してしまっている状況です。

そういった時代だからこそ、mineoが生まれました。
既存の大手キャリアがすくい上げることができない、様々なニーズ、
様々な可能性を実現し、「次の当たり前」を創っていきます。

だからこそ、第一に、mineoは「誠実」であり続けます。
シンプルで分かりやすい料金体系、必要なものを必要なだけ選べる価値を提供し続けます。
当たり前に、手ごろな料金で、安心して気持ちを伝え合える環境を作ります。

でも、それだけではありません。
mineoは、事業者が作るものをユーザーが単に利用するだけの、
今の当たり前を変えていきたいと思っています。
応援してくれる「FAN」と「一緒」に。
そんな仲間と、想いを「シェアし、対話し、共創」していけば、
mineoは、そして未来は、きっともっと、面白く楽しくなるはずです。


ワクワクする世の中を実現するために、
私たちは、これからも、前例のない未来へ挑戦していきます。

Fun with Fans!

独立してから移動中にMTGするときもあり、パケット消費が増えていた。そのため、違うSIMにしようと調べていたところ、初めてmineoを知ったのだった。

mineoにはドコモプラン、AUプラン、ソフトバンクプランと回線ごとのプランがあるが、MNPする際にそれぞれ微妙に手続きが違う。そこで手続きを間違えてしまい、MNPをしても回線が通らなかったのである。

どうしようか悩み調べてみたところ、サポートアンバサダーという仕組みがあり、先輩アンバサダーが相談に載ってくれるということを調べることができた。

こちらに申し込んだところ、数分ですぐ先輩アンバサダーが登場。

すぐ相談に載ってくれ、異なったプランでの手続きをしていることが判明した。解決まで10分ぐらいだったかもしれないが、解決までの速さとアンバサダーという仕組みに、あまりに感動してしまった。

「カスタマー・インティマシー」について、社員と顧客がいたときにどっちがどっちだか分からなくなるぐらい距離が近いという理解をしているのだが、本当にそうだった。最後に「ありがとうございます!」と伝えるときも非常に心地良かった。こういう繋がりを意識した関係が新鮮だった。

他にもパケットを譲り合うという機能もある。混雑時間帯にも使えるが、先日の能登半島地震でもこの機能を利用し、微力ながらパケットを譲ってみた。どれだけ力になれたか分からないが、この人の温かさみたいなのが自分には良かったのである。

mineoは他にも面白い取り組みをしている。「ファンの集い」では約140名が参加。クイズ大会もすごいが、顧客とともに新しいアイディアのプレゼン大会をやるという徹底ぶり。

プレゼン大会のお題も本格的で、顧客が本気で提案をしている。

一緒に考えるというのが本当に素晴らしい。

こんな社員か顧客か分からない関係が素敵で、まず例として挙げさせて頂いた。

コンサル編

コミュニティは他にも多くの事例が世に出ているので、あまり世に出ていない事例をあげていきたい。

ここではコンサル編として、「カスタマー・インティマシー」を実践している事例を紹介したい。

『ナンバーワン企業の法則』の事例

トレイシーの本からの引用ではあるが、1970年代のIBMは、商品を提供するだけではなく、提案の作成、システムの修理、研修など、顧客が必要なことを「なんでもやる」という精神で入り込んでいた。
それが結果的にデータ処理のマーケットを大きくし、IBM自身の利益として返ってくることが分かっていたのだろう。

多くの会社のデータ処理担当責任者にとって、IBMはなんでもすべて解決してくれる存在だった。IBMは新しいビジネス・アプリケーションの企画、開発スタッフの養成、 さらにはデータの管理などの方策を提供してくれた。IBMはこれらの責任者に、予算をどうしても着実に増やしていく必要があることを、上司の経営者にどう説明するかを教えてくれた。システムがうまく動かなくなるとすぐ飛んできて、問題の所在を分析、発見し、元通りに直してくれた。新しい機械はどれが必要となるか、どれがアップグレードする必要があるか、さらには新技術をどう取り入れたらいいかなどの計画も立案してくれた。また、お得意様を定期的に教習に送り込み、かれらの技術知識の向上と管理技能の発展に手を貸してくれた。一九七〇年代には、多くの会社のデータ処理責任者の仕事は、IBMのサポートなくしては不可能に近かったと言っても過言ではない。

『ナンバーワン企業の法則』

もう一つの事例として、エアボーン社。エアボーンはロジスティクスの会社で、顧客にゼロックスがいた。ジョー・デボアはエアボーン社に勤めるゼロックス担当の全国マネジャーで、彼が過去を振り返ったときの話。
ゼロックスで起きている配送の課題を分析し、自社で対応。ゼロックスが自信を持てなかった取り組みも共同チームを作り、深いレベルで対応している。勇気まで授けているのがすごい。

ジョー・デボアの話 ゼロックスとの共同作業では、相手に時間とカネを節約するいろんな方法を見つけている。たとえば、それまでならコピー機を修理する現場の技師は修理を要する部品をいったんDPC (地区部品センター)に送り戻していた。だれかがその情報を入力してシステムに入れると、その部品は直されて修理現場に戻されるか、処分されるのだが、そのプロセスを一巡するのに平均三〇日近くかかっていた。われわれはこのプロセスを修正し、まずDPCで部品をピックアップしたら、それをウィルミントンに送り、その情報をわが社の施設にあるゼロックスの端末を通じてゼロックスのシステムに入れ、そこで部品をゼロックスの指定の場所に届けるようにした。結果は全体の一巡所要時間を以前の三〇日からわずか五、六日に短縮することになった。同時に相手のコストも、間接費も、キーパンチに携わる人員もカットさせ、修理サイクルをスピードアップさせることにもなったのである。
もう一つの例を挙げると、われわれはDPCでの毎日のサービスは、空輸よりコストが安くてすむわが社のトラック拠点ネットワークを使った方がいいと思っていた。ゼロックスの方もこのことを考えてはいたのだが、使える可能性についてはいま一つ自信がなかった。そこでこの点を調べるため、双方で各三名から成る共同のチームをつくった。わが社からは現場の人間と地域トラック拠点の監督とともに私が選ばれ、ゼロックス側は在庫専門家、地域 輸送マネジャーおよび本社の輸送調整担当者の三人だった。

『ナンバーワン企業の法則』

コンサル業界にいたわけではないので、今でもここまで中に入り込んで一緒にやっているケースもあるのだと思う。

ただ、社員を勇気づけ、一緒にやりましょうとチームを組む姿は素晴らしいと感じ、良い事例として紹介させていただいた。

SNS編

D2Cクラシコムの事例

コミュニティ、コンサルに続き、SNSを駆使しながら、顧客と関係を築いている例として、クラシコムをあげたい。

先日教えていただいたのだけれど、「北欧、暮らしの道具店」を掲げD2Cを行うクラシコムという会社がある。クラシコムもまさにカスタマー・インティマシーを実現していた。

すがけんさんがこちらにまとめてくださっているが、北欧、暮らしの道具店という世界観を作り、広告ではなくSNSを駆使し、間に代理店は挟まずBtoCとして直販を行っている。

インスタのフォロワー数はなんと130万人(2024年1月現在)。

YouTubeは58万人。

顧客とはSNS、YouTubeなど様々なコンテンツを通じて、ずっと繋がっている。だからこそ大々的なマーケをやる必要はなく、顧客が適切なタイミングで購入してくれるのである。

ちなみにドラマを作ったり

番組を作ったり

映画買い付け、公開したりしている。

SNSはじめ様々なコンテンツが顧客のエンゲージメントを高め、適切なタイミングで商品を買って頂く。そんなクラシコムも「コンテンツ」軸で顧客と繋がっているので紹介させていただいた。

ちなみに、社員の8割は既存の顧客から採用しているらしい。これも本当にすごい。

サービス開発編

最後のパターンとして、サービス開発編を挙げたい。事業・サービスを作るときに、ユーザーインタビューを行い、顧客理解に努めることは最近非常に盛んになっている。

一方で、そういった初期フェーズだけではなく、開発のあいだもずっと顧客と保ち続けるという世界がある。このスタイルはもっと広がるべきという思いもあり、事例として挙げたい。

Joy incの事例

アメリカのメンロー・イノベーションズ代表のチャード・シェリダン氏が書いた本。メンローは「地球上で最も幸せな職場トップ10」にも選ばれ、創造性を発揮できる、顧客共創型の新たな開発スタイルを実践している。

XP、アジャイル、リーンを主とした開発をしているのだけれど、そのなかでショウ&テルというイベントがある。

サービス開発に馴染みのない人向けに簡単に補足すると、開発というプロセスは、すごく大雑把に言うと

  • ① 作るべきものを決める

    • ある期間の中で何を作るのか

  • ② 作る

    • ある期間の中で実際に作る

  • ③ お披露目する

    • 作ったものを関係者に見せる

  • ④ お客様に届ける

    • リリースしたり、店頭で販売したり

細かく言うと品質保証だとか、振り返りだとか色々あるのだけれど、今回は多めに見てほしい。

そして、③のお披露目するというところが肝で、多くの場合チームの担当者にチェックしてもらったり、ステークホルダーだったり、わりと社内向きのことが多い。

メンローの場合はここが特殊なのである。

彼らは2週間ごとに①から④をやるようなイメージを持ってもらえればよく、ショウ&テルは③で性質的には進捗と状況を報告するイベントのようなものである。

面白いのが「顧客と合同で」行うのだ。この事例素晴らしすぎて、読むだけで涙ぐんでくるので、ぜひ熟読してほしい。

メンローでは、競合するかもしれない二つの絵を毎週の儀式で顧客と見せ合う。その儀式をショウ&テルと呼んでいる。ショウ&テルでは、その週にプロジェクトに携わったチームが聞き役となる。説明役は顧客だ。チームが達成した仕事の成果を顧客に説明してもらい、それをチームが聞くんだ。たとえばテッドとロブが、オンライン出版の入稿をするウェブサイトを作っているとしよう。出版社の顧客の代表がやってきて、コンピューターの前に座り、実際にウェブサイトを使ってみてレビューする。そして、見つけたことや気づいたことを、テッド、ロブをはじめとするプロジェクトに関わるすべての人に伝えるのだ。こうすれば、仕事の成果を双方が正しく理解しているか明らかになり、スポンサーとチームの考えのずれも明らかになる。僕たちは、ショウ&テルのやり方を元とは逆にしている。顧客がより積極的に会話に参加し、チームは観察、傾聴し、顧客からの質問にフィードバックを返すようにした。
ショウ&テルのエピソードはいろいろあるが、一番魅力的なものの一つはプロジェクト開始直後のものだった。アキュリ社向けにフローサイトメーター(複雑な医療用検査装置で、細胞で散乱されるレーザーを計測することで細胞の解析を行う)のソフトウェアを作っていたときのことだ。一番最初のタスクは、三つのボタンを持つシンプルなアプリケーションを作成することだった。ON、OFF、そしてEXITだ。マウスでONをクリックすると、プロトタイプの基板上で緑色のLEDが点灯する。OFFを押すとLEDが消灯し、EXITを押すとプログラムが終了する。

アキュリのCEOでプロジェクトスポンサーのジェニファーがショウ&テルにやってきた。彼女はプログラムについてチームと話し、僕たちの成果を使ってみせてくれた。システムは予定どおり動いた。ON、OFF、 ON、OFF、繰り返し、繰り返し。簡単なことだ。本当に。でもジェニファーは椅子から飛び出し、大喜びで、次の取締役会で結果を見せると約束してくれた。チームは混乱した。何でこんな簡単なことに、大喜びしているんだろう。
ジェニファーの喜びようはタスクの複雑さや、完了までに必要だった努力と釣り合っていないように見えた。彼女は説明してくれた。シンプルなタスクを明確に完成できたのは、すごい進捗なのだと。「こんな仕事を長いことをやってきたの」ジェニファーは言った。「プロジェクトが始まって、たった二週間しかたっていないのに、みなさんはハードウェアチームとソフトウェアチームが一緒に働けることをデモしてくれた。すごいことよ。ほとんどの会社は、デバイス開発に入ってから何か月も、ときには何年もたたないと、チーム間で協力できたという結果を見せることができないの」
ショウ&テルは重要なやり取りだ。顧客は、プロジェクトを実際にやっている人たちと議論ができる。プロジェクトを実際にやっている人たちは、顧客の反応から、顧客の感情を読み取ることができ顧客が興奮していることもあれば、退屈しているときもある。そして、ときには落胆したり、 鬱憤をためていることだってある。チームには、本物の感情の振れ幅を感じ、見てほしいのだ。マネージャーの巧妙な解釈を聞くのではなく。 プロジェクトで働いたチーム全員が、プロジェクトの他の部分の成果とうまく統合できるか見ることになる。計画と実績に差があった場合は、仕事に関わった人たちのあいだで、すぐにオープンに話し合う。

顧客が、「ああ、私たちの説明をこう理解しちゃったのね」と言うこともある。「そう、まさに伝えたとおりだ。でも、実際に見てみたら、必要なのはこれじゃなかった」と言うこともある。どちらの場合も、僕らは成果に問題があるとは考えない。どちらも、すばやくたくさん間違えるという、僕たちの創業の哲学と沿っているからだ。すばやく失敗して、早く発見できれば、成果が小さいうちに修正できる。変更のための時間も予算もあるうちに。
人間のコミュニケーションは、間違った理解、間違った伝達、暗黙の前提の危機に満ちている。関係性の問題のほとんどには、これらの危機がある。一方から見れば明白なことも、逆から見ると理解することさえ難しい。僕たちにとって誤解の壁を壊す唯一の方法は、関係者を一緒に集め、開発している技術を一緒に触ったり見たりする、構造化された儀式に放り込むことなのだ。

「ジョイ・インク: 役職も部署もない全員主役のマネジメント」

元々世にないものを作る以上、どうしても認識のズレが起きたりする。顧客自身も欲しいものが言語化できなかったり、開発側もそれを汲み取れなかったりする。だからこそこうやって期待値をすり合わせ、認識のズレを最小にしていく。

これを開発中ずっとやっているのが素晴らしく、紹介させていただいた。

メルカリの事例

ジョイ・インクのようにさすがに毎回顧客を呼ぶのは難しいと思う人もいるかもしれない。古巣であるメルカリの事例を紹介したい。

メルカリでは2018年頃から、開発スタイルをよりグローバルに合わせていくということで、アジャイル型の開発スタイルへチャレンジをしていった。

その当時からユーザーインタビューをしたり、素晴らしいCS対応で顧客と繋がるポイントはあった。ただ、ジョイ・インクのように開発のなかに顧客がいる感じではなかった。

これはメルカリがそうだったというより、開発は基本そういうものと思ってもらったほうがいい。ジョイ・インクが例外中の例外なのである。

開発のプロセスのなかに顧客が入るというのは、異端であって、よくあるものではない。僕もサービス開発に関わって、20年近く経つが、このとき初めて知ったのである。

当時アジャイルへの変革ミッションを受け持ち、アジャイルコーチの方と連携し、各チームを支援したのだが、そこで初めて知ったのである。

そして支援を続け2年ぐらい経つと、ショウ&テルのような、制作物を見せる場に、開発チームとは別の社内の人が参加するようになった。

この社内の人は、メルカリユーザーと同じような考えを特に持っていて(その感覚を保つために、コンビニでバイトするぐらいの徹底ぶりだった)、その視点でフィードバックをしていた。

開発しているとどうしても、サービス提供者の目線になりがちである。しかも、いくらメルカリを使っていたとしても、自分の基準が、多くのユーザーの基準とも限らない。

しまむら理論というのがあるが、この観点を当たり前のように持つのは非常に難しい。

こうやって時間をかけながら、エンジニア含めて開発チームが徐々に顧客(候補)と共創しながら、モノづくりをできるようになったのであるし、今もチャレンジし続けているのだろう。

なぜ今カスタマー・インティマシーが大切か

多くの事例を取り上げてしまい、長くなってしまった。非常に申し訳ない。

ではなぜ「カスタマー・インティマシー」に注力するのか整理したい。注力するとこういうステップを経ることができ、④を目指せるからと考える。

  • Step① まず事業を一緒に作るため、顧客との距離の近づけ方を知る必要がある。サービス開発となると、距離を近づける方法を知らない人も多い。まずここが解消されないといけない。

  • Step② 顧客との距離が近くなると、顧客の理解が進むのでより戦略を立てやすくなる。しまむら理論ではないが、たたでさえ期待値がずれやすいサービス開発である。このズレが最小にできるので、戦略がシンプルになる。

  • Step③ 戦略がシンプルになると、余計なことにコストを払わなくて良くなる。不毛な開発は減るし、大々的なマーケを踏まずとも、すぐ目の前にいる顧客にサービスを届けることできる。そうすると、コストが減るので、利益が出るし、顧客とコミュニケーションができているので、顧客ロイヤリティも高くなる。

  • Step④ 最終的にこの顧客との関係がモートになる。顧客の現状に向き合い続けることで、結果的にコストが減り、顧客目線でより多くのチャレンジができるようになる。
    パキシーノの願いであるが、ここまで来ればよりイノベーティブな事業が生まれ続け、サービスの造り手も受け手もより幸せになれると信じている。

Step①. 顧客との距離を一歩近づける

まずは①が重要である。これまでいくつもの開発の現場を見てきたが、顧客との距離が近いというケースは稀である。
ユーザーインタビューや顧客のフィードバックを実施している企業はあるが、製品開発プロセス全体でいうと、ほとんどないのではないかと思う。

なので、まずここを変えていかないといけない。顧客に会いに行く方法も知る必要があるし、会ったあとにしっかり分析できる必要がある。

ビザスクやUniiリサーチといったツールもあるので、顧客に怖がらずに会いに行けるようにしよう。

たとえば僕が支援している企業さんは、最初顧客に会うことすらできなかった。そこでこういったサービスがあるとお伝えし、インタビューの仕方をお伝えしたところ、今では週に2~3件顧客へヒアリングできるようになっている。なので、できないわけではなく、会い方や話し方を知らない人が多いのだと思う。

すでに顧客がいるならヒアリングしてみよう。そして、少しずつで良いので、メンローやメルカリのように開発プロセスのなかにも顧客を巻き込んでみよう。

Step②. 戦略への反映

顧客との距離が近づいたら、今度はそれを戦略に落とす。UXリサーチャーや営業の方がやっているように、顧客のヒアリングから商材・サービスへの反映が必要になる。

スナックミーは熱量の高いユーザーの声を愚直に聞くことでサービス改善に繋げている。詳しく聞いてみると、賞味期限が切れ、捨てるしかない顧客が多かったようである。食べ物を捨てる罪悪感から退会していることが分かり、寄付できるように仕様を変えた。その結果継続率が向上している。

他にも有名な話として、ホンダのスーパーカブの話がある。顧客の反応を見ながら試行錯誤した結果、顧客が想定と異なった使い方をして、マーケットフィットしたという。

大型バイクで大失敗...

当初、ホンダはアメリカ人に対して大型バイクを販売していました。価格的にも、性能的にも「イケるはず」とホンダの経営陣はかなり自信を持っていたようです。

ところが、いざ販売してみるとトラブルが続出しました。アメリカ人がオートバイを長距離、高スピードで乗るために、ホンダのバイクが壊れ始めたのです。そこで仕方なく、小型バイクの販売に切り替えます。

ケガの功名でスーパーカブが大ヒット

仕方なしで始めた小型バイク「スーパーカブ」の販売は、予想外の大ヒットにつながります。アメリカ人はスーパーカブをおもちゃ感覚で使い始めたのです。キャンピングカーに積んで、旅先で乗り回すような人々も出てきました。

これは、ホンダが当初想定していた計画とは全く違います。大型バイクがたまたま市場にフィットしなかったから、結果的にスーパーカブがヒットしたのです。まさにケガの功名です。

ホンダがスーパーカブでアメリカ市場を席巻した理由


Step③. 利益率向上・顧客エンゲージメント増加

こういう関係が作れると、利益率があがり、顧客エンゲージメントもあがる。

たとえば1対5という法則があり、新規顧客は既存顧客の5倍のコストがかかるという話がある。新規顧客を獲得するには、販管費が非常にかかるため、それだけコストに差が出てしまう。

1対5の法則とは、アメリカのコンサルティング会社のディレクターが提唱した会社経営における法則です。新規顧客に商品やサービスを販売するためには、既存顧客に販売する場合にかかるコストの5倍のコストがかかるという法則です。

短期的な目標やノルマを達成しようと思うと、ついつい新規顧客の獲得にばかり目を向けがちです。それも大切なことですが、新規顧客を開拓してさらに売上を上げるには、すでにいる顧客を対象に売上を上げるよりも5倍のコストがかかるかもしれないということを知っておく必要があります。

具体的に考えてみれば、1対5の法則が的を射ていることがわかるでしょう。新規顧客を開拓しようと思うと、一から営業をかけ、アポイントを取ったり名刺交換を行い、さらに商談を何度も重ねて交渉を繰り返し、ようやく取引が成立します。非常に多くのコストと労力、それに時間がかかります。また、既存の商品を新しい顧客に販売する場合でも、クーポンを発行したりキャンペーンを展開したりして集客する必要があるので、既存の顧客に対するよりもコストがかかるのは容易に理解できるでしょう。

既存顧客の場合、定期的に購入してもらえるような商品やサービスがあれば、現状を維持するだけでもある程度の利益が見込めます。追加で商品やサービスを購入してもらう、もしくは顧客を紹介してもらうなどの方法も、新規顧客を開拓するコストよりはるかに低いです。これがはっきり1対5の法則とまとめられたことによって、既存顧客との関係を強化することがいかに重要であるかが証明されました。

1対5の法則とは?

顧客との距離が近づくことで、コストを1/5に下げられるとなったら、どうだろうか。

また、クラシコムの例で分かるように、ロイヤリティが上がっているからこそ、単価が高くても、そこから買いたいというユーザーが増えていく。

広告業界に長くいた僕も上記の広告+LP+CRMのセオリーで考えていたのですが実際調査してみると、「SNSを通じて顧客が欲しいものを欲しいタイミングで高単価のオリジナル商品を初回に購入した顧客のその先のLTVがとても高い」という結果になりました。

ここでも顧客重視の視点が重要なのだと気付かされたのです。

"SNS時代の次世代メーカー"として「北欧、暮らしの道具店」のクラシコムがメーカーの次の形を作り始めた気がしたのでまとめてみました


その結果、より多くの利益が出ているので、さらなる投資がしやすくなる。そうすれば、サービスを新たに作ったり、ブラッシュアップするというより良いサイクルができあがってくるだろう。

Step④. 顧客とともに強固なモートへ

ここまでのステップを経ることで、その企業は強固なモートを作れている。

モートについてはこちらに詳しい。

バフェット/マンガーも言っていることですが、Moatがある企業は価格をコントロールすることができます。価格を上げてもカスタマーが逃げない。他の選択肢を選ばない。バフェット/マンガーのポートフォリオであるコカコーラ、See's Candiesなどはその代表です。販売力という意味だと、どの企業よりもコストを下げることができるMoatがある事、多くの顧客にアクセスできる事が大きな理由です。規模の経済等はこの例になります。

Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論

カスタマー・インティマシーが目指す世界である。価格をコントロールでき、顧客も離れることはない。

そうすれば、その利益を使い、また新たなチャレンジができるだろう。

少し抽象的なので、こんな風になったら良いと言うシチュエーションをあげてみる。

気持ちよく開発し、気持ちよくお金を払う

メンローでもそうだが、顧客と一緒に開発するのは良いものである。メルカリで顧客と一緒に開発しているチームは、顧客にデモするときにすごい楽しそうで、ドキドキしながらも、良い開発をしているんだと感じたこともあった。そんなモノづくりを当たり前にできないだろうか。

また、mineoで先輩アンバサダーから助けられたことで、mineoがすごくいいサービスだと感じたことも上述した通りである。パケット寄付することで、少しでも世の中に貢献できるのではという思いもできた。その結果、このサービスにお金払うことが非常に気持ちよかったし、このサービスに払いたいと思えた。

近所の八百屋さんといつも話してて、このお店好きだからこのお店にお金を落としたい、そんな関係を作れないだろうか。

顧客の繋がりからイノベーションへ

イノベーションは異質なものが交差するところに生まれる。そのためには、企業内に閉じるのではなく、企業外の人間として顧客を取り込むのはどうだろうか。顧客が所属するメーカーとコラボするなどして、新たな事業を生み出せないだろうか。

まず前提としてイノベーションは交差させないといけない。同質ではダメで、異なったものが融合するからイノベーションが生まれる。

ハーバード大学MBAなどを経て複数の企業を設立し、現在ではコンサルタントとして活躍しているフランス・ヨハンソンは、創造性、イノベーションなどの分野における研究を行う中で、アイデアは交差点から生まれるという考えに至りました。幅広い分野の文化人や芸術家の手によって創造性が開花するのを助けた、15世紀イタリアのフィレンツェで繁栄したメディチ家にちなんで、この交差点の効果を「メディチ・エフェクト」と名付けました。もし、あなたが創造的なアイデアを生み出したければ、交差点に身をおけばよいのです。

交差点とは、通常では考えられないような組み合わせや結びつきが起きるチャンスが大幅に増える場所になります。ルネッサンス期のフィレンツェでは、目覚ましいアイデアが爆発的に生み出されていました。異なる専門分野や文化が交差する場には、イノベーションを行うチャンスが数多くあるのです。

起業家・経営者のためのビジネス書評ブログ!

たとえば、「ファミコン」や「ゲームボーイ」にも影響を与えた、携帯用ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」の話がある。任天堂の発想力とシャープの技術が組み合わさり、今のゲーム業界を作り上げている。

1つ目の例は、携帯用ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」という製品です。ゲーム好きの方、ご年配の方などは存知かもしれません。1980年に任天堂が発売して、当時は世界中でかなり革新的な製品とみなされていました。

手のひらサイズの携帯のゲーム機で、すごく革新的な製品にも関わらず5,800円という価格で発売され、世界的に大ヒットしました。そして、これが任天堂にとって大きな収益になり、その後の「ファミコン」や「ゲームボーイ」の開発にもつながっていくことになります。

これだけでも十分イノベーションだと思いますが、作られた背景には「活用していない余剰資源」がありました。このアイデアを生み出したのは、任天堂の有名なゲームクリエイターの横井軍平さんです。

1970年代は日本の電卓メーカーが激しい競争を行っていて、シャープやカシオの電卓がどんどん小型化して安くなっていきました。そんな中、1970年代終わりにはサラリーマンが1人1台電卓を所有するようになって、暇つぶしとして出張の新幹線の中で電卓を弄んでいる人もいたそうです。

それを目にした横井さんは、「電卓のように小さくて、一見遊んでいるように見えない携帯ゲーム機があったらいいな」と思ったんですね。そして、それを単純なアイデアとして、任天堂の社長と雑談した時に「出張中にこんなことを考えた」と伝えます。

その日社長が同席した会議の隣の席には、たまたまシャープの社長さんがいました。そして何気ない時間つぶしとして、「おたくの電卓を見て、うちの社員がこんなことを言ったんだよ」という話をしたそうです。

そして、何が起こったか。1週間も経たないうちに、シャープの重役が任天堂を訪問してきます。その頃、電卓の競争は成熟しきっていて、これ以上市場は伸びないとわかっていました。

シャープは、「液晶チップの技術に対する投資を控えるべきかどうか」と、経営的な意思決定をしようとしていたタイミングだったそうです。だから、「別の用途があるのかもしれない」と、任天堂に話を聞きにやってきたというわけです。

ここでの「余剰資源」とは、シャープの電卓に使い尽くされた「チップ技術」を指しています。この余剰資源を活用して、まったく違うところで水平的な展開が起こり、「ゲーム&ウオッチ」が生み出されました。

シャープの液晶チップ技術が、そのまま完全に提案されるかたちで作られたので、すごく安く開発・生産でき、破格の革新的な製品として売り出されたというわけです。

事業成功のカギは、「枯れた技術」の水平展開
「余剰資源」を活用したイノベーション事例

ここで挙げたのはまだまだ一例で、もっと素晴らしい世界があるのだと思う。そういう未知の世界をもっともっと増やしていきたい。

ビジョンをアップデート

自分のなかで理解が深まったこともあり、パキシーノのビジョンをアップデートすることにした。新しいビジョンは以下である。

世界中のすべての企業で、お客さまとの距離が一歩もう一歩近づく世界を創る

パキシーノビジョン

顧客との距離については、世界中のすべての企業が近づけるべきと考え、世界中のすべての企業とした。メルカリにいたときも感じたが、日本で生まれ、日本で育った以上、やはり世界で戦える日本企業を作りたい。それが日本の国力をあげることにも繋がる。

そして、少しでも顧客に近づいてほしいという意味で「一歩」、一歩近づけたらさらに一歩ということで「もう一歩」という思いを込めてみた。

一歩ずつでもいいので、顧客との距離を近づく世界を作っていきたい。

終わりに

今回はビジョンを中心にした話を書いた。会社のビジョンとなると中途半端な思いは書けず、思いを込めたら1万5千字を超えてしまった。本当に長くて申し訳ない。

また、今回はビジョンを中心に書いたこともあり、具体的な事業については書けていない。ここから実際の事業を作っていく必要がある。

とはいえまだ結果も出てないなかでどうこう書くものでもない。ある程度結果がついてきたときに記事にしたい。

この記事では、パキシーノで実現したいビジョンをこれでもかと書いたつもりである。この世界観に共感いただける方はぜひTwitterのDMや、会社の問い合わせフォームから連絡頂けると嬉しい。何かコラボできないかぜひ相談させてください。

また一日一日頑張っていこう。ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!

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