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感情の振れ幅〜旅の構成要素について

深夜2:30。東京・羽田発ベトナム・ホーチミン行きが時刻通り動き始めた。
僕がベトナムに行く時に、いつも利用する「VietJet」はLCCなので搭乗口も出国ゲートから一番遠いし、滑走路からも遠い。ある意味での迫害を受けているといつも思う。グーンという音を立てながら、いつまでも飛び立つこともなく空港の陸の上を走っている飛行機というのは、毎回なんだか不思議な感覚になる。

今回のベトナムの旅行は、妻のhanaが一緒。hanaは初めてのベトナム旅行。
年末年始の怒涛の営業の疲れもあったのだろう、hanaは飛行機の席に着くなり静かな寝息を立てながら眠りについた。

僕は気持ちが昂っているのか、深夜3時が近いというのにまったく眠気を感じないでいた。空港内を走り続ける飛行機の窓から、空港内にある飛行機の整備場が見えるのに気がついた。空港内を走る飛行機も不思議な感じがするものだけれど、屋内に置かれている飛行機というのもなんだか不思議な感じがした。飛行機の中からはその整備場に人がいるのかどうかまではわからない。夜中だから誰もいないのかもしれないし、僕からは人の姿が見えなかっただけかもしれない。僕には、その飛行機が少し寂しそうにしているように見えた。

でも、これは僕の心情の反射的反映に過ぎない。僕は、なぜだかわからないけれど、旅立つ瞬間というのはいつも物寂しく、物悲しい気持ちになってしまう。具体的に言えばある種の「孤独」を感じてしまう。今回は妻が一緒だったけれど、いつもと同じ様にその「孤独感」は迫ってきた。僕は、取り立てて自分の国を愛する気持ちなどは持ち合わせている人間ではないけれど、もしかしたら故郷を少しでも離れることについて無意識下に置いて感ずるものがあるのかもしれない。でも、僕はこういうセンシティブさこそが、旅に出ることの効用の一つではないかと思う。普段は何も感じず、あるいは考えもしないでスルーしてしまう様なことに、いちいち引っかかって何かを感じ、何かを考える。そして、普段なら気がつかない様なことに気がづき、心を寄せ、あるいはそこに発見を覚え、それらを発展させようとする。僕は、意識的にせよ、無意識的にせよ、これまでの旅を通して、そんなことを繰り返してきた様な気がする。

その感情の振れ幅の大きさこそが、僕自身の成長を促してきた大きな要素であることには疑いの余地がない。ある意味では、僕は孤独を感じるために、孤独を求め、今いる場所から異なる場所へ「移動する」のだ。

そんなことを考えるともなく考えていると、飛行機はピタっとその動きを止めた。機内の電灯が消える。エンジンの音も少し弱まる。一瞬、シンとした静寂が広がる。ほんの少しの「間」を持った後、飛行機のエンジンはフル稼働を始める。僕の身体にもGが掛かる。飛行機の走るスピードが頂点に達しようとした瞬間、ふわっと機体が宙に浮いた。車輪と地面が擦れる音が消え、エンジンの音だけがこだましている。窓からは遠くに東京の都心部の夜景がきれいに見える。深夜だというのに、やはり東京は眠らない。あっという間に夜景は遠ざかり、そして機体は雲の中に入り、そしてあっという間に雲を抜け、窓の外には呆気にとれるほどの数の星が瞬いていた。

僕はノイズキャンセリング機能の付いたヘッドフォンを装着して目を閉じた。

LCCならではの狭い座席で、腰やお尻が痛くなりながらもなんとか眠り続けることができた。目が覚めて、閉じておいた窓のカーテンを開くを強い光が機内に差し込んできた。窓から下を覗き込むと、そこには海ではなく陸が広がっていた。もうすぐベトナムだ。

機内アナウンスで機長から、もうすぐ到着の旨と、ホーチミンの時刻、天気情報が知らされる。「36度」だと言う。東京を出てきた時は、たしか「6度」だった。一気に30度も上がる。そのギャップに、僕のテンションは一気に上がり始める。僕は寒いよりも暑い方が好きなのだ。下降を始めた飛行機は次第に少しずつその揺れが大きくなり始め、hanaも目を覚ました。「下にベトナムがもう見えているよ」と教えると、「こんにちは!ベトナム!」と言いながら窓の外を覗き込んできた。彼女のテンションも一気に上がり始めた。

はしゃぎはじめる妻hana

スムースな着陸を完了させ、飛行機はホーチミン・タンソンニャット国際空港のど真ん中に停止した。沖止めというやつだ。羽田空港でも、タンソンニャット国際空港でも、LCCのヴェトジェットが手厚い待遇を受けることはない。「6度」の東京から一気に「36度」のベトナムに放り出されるのだ。でも、そんなことよりも、この狭い機体から早く脱出したい。僕は、そんな気持ちで機体のドアが開くまでの間に、パーカーを脱ぎ、トレーナーを脱ぎ、ヒートテックを脱ぎ、2枚重ね着をしていたTシャツのうち1枚を脱ぎ、Tシャツ1枚にデニムという服装に着替えた。これでベトナムも5回目。慣れたもんである。

飛行機のドアをくぐり、タラップから地面に降りると、ムアっとする熱気が吹きつけてくる。そして、その空気の香りが変わったことで、国が変わったことを実感する。あの香りとは、ドリアンやマンゴーなどの東南アジアのフルーツの少し発酵した様な香りだ。僕はこの香り、、というか匂いを感じ取ると、「ベトナムきた〜!」とそのボルテージが一気に上がる。

移動バスの中に押し込められ、ターミナルに向かいイミグレへ。
イミグレを抜ければ、本当の意味での旅が始まる。

僕は早く外に飛び出したい気持ちでいっぱいになっている。
妻のhanaもニコニコというかニヤニヤという方が似つかわしい不適な笑みを浮かべている。

妻と小学校教員のTさん

こうして、僕たちのベトナム旅は本格スタートする。

(つづく)

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