胡桃

北の国に住む文学おばさん。少し仕事していますが、ボォーと生きてる。

胡桃

北の国に住む文学おばさん。少し仕事していますが、ボォーと生きてる。

マガジン

  • 主に新聞に載った詩。

  • 俳句

    つくった俳句を記録します。

  • 雑文物置

    今まで書いたて発表していた雑文を置いておきます。

  • どうぶつ歳時記

    2023年の連載エッセイ。俳誌に載ってから公開します。

  • 胡桃の詩の物置

    詩誌に載せてもらった詩があったと思い出し、探して物置に置きます。

最近の記事

毛糸を編む      胡桃

編みかけの毛糸の靴下をとりだした つま先を残してぱったりやめている 毛糸を触りたくなる温度があるようだ ある日毛糸に触らなくなり 秋日和のある日もぞもぞ編みだす 編めば手が覚えている 毛糸を編む 夏の日がおだやかに身体にたまっている なんて素敵な時間 でもふと 生産性のないことをしているような もっとお金になることをしなさい 誰かにいわれているような 毛糸を編む 靴下の踵を編むのはめんどくさい めんどうだなあと思うのに 手を動かせば進

    • 2023年の30句

      非正規の女ばかりや一葉忌 パスワード忘れて宇宙時雨れるか 日記買うシルクロードは封鎖され コサックのダンス華やか寒気団 鉄砲音二発そののちしずり雪 枇杷の花閉まったままの饅頭屋 鳳凰の刺繍擦り切れ天保雛 デパートの重いドア開け天皇誕生日 スコップや種は光の子どもたち 春キャベツきみは羅漢のように待つ ユリノキの花の下には音楽隊 タイマグラいい黴の住む古屋がある 羚羊についていきたし苔の庭 蕗を煮る夫婦ふたりのひと掴み 神楽舞うからだに蛍飼いならし 弁慶の生まれ変わりや大山椒魚

      • 山に登る  ―辻まことのように

        ※今朝、引き出しにあったUSBメモリーを開いたら、懐かしいいろいろな文章や講義したときの進行や資料、学会の資料が入っていて、遠い目になってしまいました。今回の「山に登る」もその一つです。10年以上前の文章です。    山に登る  ―辻まことのように                       胡桃  「趣味は登山です」と言いたいが、最近では年に一、二回しか登っていない。  山登りは、東京の大学時代にはじめた。千葉という山のない土地に生まれ、山に憧れたのは、辻まことという

        • 毛糸編む

           毛糸を編む               編みかけの毛糸の靴下をとりだした つま先を残してぱったりやめている 毛糸を触りたくなる温度があるようだ ある日毛糸に触らなくなり 秋日和のある日もぞもぞ編みだす 編めば手が覚えている 毛糸を編む 夏の日がおだやかに身体にたまっている なんて素敵な時間 でもふと 生産性のないことをしているような もっとお金になることをしなさい 誰かにいわれているような 毛糸を編む 靴下の踵を編むのはめんどくさい めんどうだなあと思うのに 手を動

        毛糸を編む      胡桃

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        • 8本
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          6本
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          3本
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          5本
        • 胡桃の詩の物置
          5本
        • ひとりぼっちの楽しみ
          6本

        記事

          あれっ、パソコン内を探したけれど原稿がみつからない。 ※詩誌「回生」第も号(通巻第四十六号) 2022年1月10日

          縁があったら・青いドア

          縁があったら 「縁があったら、どこかで会うよ」 そう言って君は別れた メールアドレスも電話番号も知らない SNSで探せるかもしれないけど 探さなかった 結婚して子供を産んで子供が結婚し あるとき君と再会した 何十年も会わなかったのが嘘のように 読んだ本の話をする 出会うべき人に出会うものなのだ 風があの樅の木に出会うように わたしを過ぎ去った人が すべて懐かしい 青いドア 北国のさびれた飲み屋街に青いドアがある ペンキで塗りこめられた青が雪に映える ドアの前

          縁があったら・青いドア

          花綵列島

          壺という壺に月光脈打つ 独り居の星食べるよう猫まんま 寄席ひとつ魂食べて繭ひとつ わたしたちバベルの塔に着ぶくれて 手足冷えカラスきれいな空食べる 鹿の血の雪に染み入る静けさや 白衣脱ぎ全ての紙燃やし雪 雪野にてキツネノママゴト緋毛氈 花綵列島ちいさなちいさな老夫婦 誠実なあなたの吃音蝶が来る  演芸場  うつっぽい状態で、やる気が起きないとき、ネットで桂枝雀(二代目)や古今亭志ん生(五代目)など一昔前の落語を聞いていました。「饅

          花綵列島

          姉妹

          姉妹                            胡桃  母の姉である市川の伯母は、私が嘘をついた話をする。親戚の集まりだったか、たんに家族同士の会食の場だったか、伯母はことあるごとにその話をみんなにした。  私が小学生高学年の頃、伯母の家の鏡台か、テーブルに置いてあった百円硬貨、二,三枚を私が見つけて、「お金あるから、駄菓子屋さんへ行こう」と従兄弟たちを誘い、そのお金でお菓子を買った。そのあと、そのお金が実は伯母のお金だとばれたという話である。  私には、盗っ

          ランディ

           ランディは猫である。立派な毛が長くフサフサした大きな雄猫。種類としてはヒマラヤンのような大型の猫である。(はっきり種類がわからない。) 毛が長いので余計に大きく見えて、夫の母からは「化け猫」と言われていた。  ランディは一九年近く生きた。  生まれたのは、一九八五年。独身生活の夫の元に、友達が子猫を持ってきて、「一人暮らしは淋しいだろう」とおいていったとのことだ。イタリアへ帰国する一家に猫の赤ちゃんが生まれて、里親を捜していたらしい。でも、由緒正しき子猫の赤ちゃんを、

          ランディ

          できないことばかりでも

          できないことばかりでも                    胡桃 跳び箱が飛べない なんであんなものを飛ばないといけないのだろう 走って跳び箱にさわりとまる 跳び箱はやさしく受け止めてくれる マットででんぐりがえり 前転も後転もできない 仰向けになって マットにしみた人間のにおい もちろん逆上がりなんてできるはずがない ひんやりした鉄棒は血のにおい 地面を蹴っても どうにもならない うたが歌えない ピアノを習っている女の子たちに 音程があっていないと指摘されるの

          できないことばかりでも

          無花果

          無花果 昼でも薄暗い部屋の炬燵の上に 無花果のはいったパックがあった 炬燵テーブルはベトベトしている 「無花果好きなんですか?」 無花果か、何十年ぶりに食った むかし伊豆に行ったんだ 仕事があったんだよ 現場の近くの丘に無花果がたくさん生っていた 好きに食べていいといわれて むしゃぶり食べた 美味しかった きのうスーパーに行ったらこれがあって 思い出して買ったけど そんなにうまくなかった もっと熟せばいいのかな 伊豆には友人と一緒に出稼ぎに行った あちこち働きに行って 妻

          鳥たち

             鳥たち                     胡桃  この春、鳥たちがうるさかった。山の家の外壁、とくに東側がアオゲラのおかげでボコボコに穴が開いている。一度、息子が帰ってきたときに、穴に木の板を打ちつけて修繕してもらったが、またすぐに穴を開ける。家の中で、コッコッコッと音が響くと裏口に飛んで行って、ドアを開け「コラー!ダメでしょう」と怒る。アオゲラは、ケッケッケッと鳴きながら、隣家との境にあるカラマツの幹の陰に隠れようとしている。アオゲラを叱っても甲斐もない。  本

          馬をみる

          馬をみる                     胡桃    「草競馬」という季語がかつてあった。農村での仕事もひと段落した秋に農耕馬をあつめて文字通り草の上で競馬を行った。賭け競馬ではない。農耕馬を競わせる馬の運動会のようなものだ。お遊びで賭ける人もいたかもしれない。  じゅず玉は今も星色農馬絶ゆ   北原志満子  農業の機械化で農耕馬はいなくなり、草競馬という季語も歳時記から消えていった。 夫とふたりでやっている「やませみ文庫」から『本を読む小屋』という冊子を出し

          馬をみる

          署名する

          署名する 白鳥もどるシベリアの兵帰還まだ 冬銀河もうすぐお湯が沸きますよ 銃を持つ照準合わせて雪強し 雪積もる銃よりペンもちたくて 雪やんで青空広げて署名する 恋しきは人参ごろっと母のスープ オリオンを指さす兵は十八歳 僕はぼくであること白鳥渡る 息白く映画のなかにいるようだ 腕がもげ痛いと泣く友冬三日月 豆のスープ熱々だけで嬉しくて 雪野原おなじ賛美歌うたうかな 笑うこと久しくなくて雪兎 凍土掘るなんのためか誰も聞かず 栗鼠見つけ追いかけて雪にたおれる 凍てついた敵のリュッ

          署名する

          青むまで 2020年

          銀のスプーン             胡桃 花わさび終の棲家の窓そうじ ものを知るさびしさ知らず天花粉 沙羅の花いちにちの傷なめる夜 郭公やひとり紙漉く山の人 天の川氾濫のよう八ヶ岳 山ほどの罪滅ぼしや雨蛙 落し文しずかに喋る人が好き トラノオの星々あつめ山歩き 白木槿息子がつくる参鶏湯 朝顔や汚れ取れない白い足袋 呼ぶ声に知らんぷりして大花野 茜さす空気をたべて鹿の鳴く 今朝の秋原稿用紙白いまま 白鳥来る銀のスプーン落とさずに 初雪や囁くように舟が出る 庭仕事 庭

          青むまで 2020年

          やっぱり猫が好き

          どうぶつ歳時記③    やっぱり猫が好き                     胡桃     わたしは浜辺に立っている。木で組んだ大きなテラスのような塔に猫がびっしり座っている。「こんなに猫がいるならジャンがいるかもしれない」と思って、「ジャンジャン」と呼ぶ。しばらくして「フニァー」と枯れた鳴き声が聞こえて、縫いぐるみのようなフワフワした毛をゆすりながら、お上品な足取りで階段を下りてきて、わたしの足に頭をゴツンした。ジャンを抱き上げながら、「ランディもいるだろう」と思う。「

          やっぱり猫が好き