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思いやり

東京へ来た。1か月ぶりに。
今回は小学校資格認定試験を受けにきた。
一次の筆記試験がまさか通っているとは思わなかったけど、
通っていたのなら二次も受けるしかない。
たぶん来年受け直したら、落ちると思っちゃうから。

金曜日の新橋の空は狭い。
高いビルに囲まれて、日陰だらけで肌寒い。
夕方には仕事終わりの人々が一斉に華やかな金曜日を迎えている。
街中華をお腹いっぱい食べて、うろうろ散歩した。
田川からおよそ半日、でも別世界にいるようだった。

試験を迎えた朝。
夜には、久々に高校時代の友人と会う約束だ。
緊張しながらも勉強してきたことをぶつけて、
なんとか試験を終えた。自信は結構ある。

試験は道徳科の指導案作成だった。
内容は「親切・思いやり」。
親切な行動は、された方もした方もいい気持ちになる。
そんな価値に気付かせながら、道徳的態度を育てる授業を考えた。

次の日、余裕を持って道徳科の模擬授業をして、
急いで帰りの成田空港行きの電車に乗った。
電車の予定は1時間ほど。
小説を読みながら、目的地まで揺られていた。

途中駅に差し掛かって、斜め前の乗客が降りた。
空いたシートには、東京駅開業100周年のSuicaが残っていた。
僕と、周りの人は「あっ。」と気づく。
隣に座っていた家族連れがそれを拾ったが、
子どもだけを置いて、電車を降りることは難しそうだった。

ちょうどその時、二つのことに葛藤を迫られた。
一つはそのSuicaを渡してもらって、忘れた乗客に届けること。
でも、空港行きの1時間に1本しかない電車を逃してしまうかしれない。
もう一つは、そのまま見ているだけでいること。
でも、記念のSuicaを届けることはできない。

10秒くらいの間の中で、僕はただ座席に座っていた。
頭の中では「多分動いて届けたほうがいい」と考えていたのに、
体は一歩も動こうとはしなかった。
結局、Suicaはその人に届けられないまま、
成田空港まで運ばれてしまった。

電車に揺られている間、急に後悔の気持ちが込み上げてきた。
なんで届けなかったんだろう。
別に電車を逃して次の電車に乗ったとしても、飛行機には間に合う。
自分中心で物事を考えて、無意識にその判断を下していることを
空港行きの電車で突きつけられた。

道徳科の模擬授業の中では、自分中心だけではなく、
相手の気持ちを考えで動くことを善とする授業を考えていたのに。
自分はいざその場面に直面すると、動けない。
まだまだ未熟で、心構えが足りなくて、情けない。
そう感じてしまった。

もうその場面には戻れない。
これからどうして生きていくか。
咄嗟の判断ができるためには、やっぱり日頃からの思考って
とっても大切になるんだと思う。
毎日の準備を積み重ねている人だけ、
いざという時に行動がすぐ取れる。

今日のぼくは動けなかった。
どんな生き方を目指していくか。
どんな在り方を意識していくか。
どんな人生を歩んでいくのか。

また一からのスタートだ。

読んでいただきありがとうございました!