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【空き缶、彩へ舞う】第4話 忘れ物を担ぎ上げる

 普段なら勤めが終わってそのまま帰るのだけれど何故か気になってしまった。私はステーションの反対側を目指して足を進める。どうして、なぜなんだろう。と思いつつも半分は「どんな人が来たのだろうか、顔でも見てやるか」という気持ちもなかったわけではない。
 
「・・・カリン君が見ていた週刊誌の事、もうバカにできないな」
 
 人が嫌いなくせに、どんな人なのか気になるという非常に面倒な性格をしていると自負している。食うことには興味ないけど、どうやって料理をしているのかとか、こだわりの食材は、とか。そういうのが気になるとかそんな感じ。
 
 ホームに着くと陰からこっそりと降りてくる人たちを眺めはじめた。軌道から降りてくる人はフードを被っている者、大きなスーツケースを転がしている者。老若男女、本当に色んな人が居る。でもそんな彼らにも皮肉めいた共通要素が有って、決まりきって顔色が良いわけではないことと、活力がみなぎっているとも感じられないことである。
 
 人の波がうねりながら移動していくのが見えて、だんだんとそれが薄れていくと車両の最後尾の方に何人かが集まり出した。
 
「なんかあったのかな」
 
 私の体は勤め先の癖もあってなのか軌道車で起きたことに反応してしまった。自然と足が前に出てしまい、隠れていたのに外に出てしまった。すると集まっていた人の中の1人が私の存在に気が付いて手招きをしている。
 
「来いってこと?」
 
 仕方なく歩いていく。どうやら集まっている人は軌道車の乗務員のようだった。
 
「キミ、ターミナルの保安員?」
 
「あ、いえ・・・私は一応整備員ですけど、何か軌道に不具合でも?」
 
「整備員か・・・でもまあ、いいや。これ、何とかしてくれないか?発車時刻が来てるんだけど」
 
 そう言われ貨車の中を覗き込んだ瞬間、私は目の前の光景に言葉を失ってしまった。
 
 そこには頭から血を流した金髪の人が壁にもたれかかる様にして倒れていた。周りには積み荷らしい色んな荷物が散らばっていてどれも血が付いている。
 
「どうも運搬中、ここに積んであった荷物に潰されたみたいなんだ。多分もう生きてないから回収して処理しておいてよ」
 
 その言葉があっけに取られている私を現実へ引き戻した。とりあえず何とかしなければいけないと考えて向かったのはホームの奥にある備品置き場。ここになら何かあるはずだとドアを開け、部屋の周りを見渡すと備品運搬用の台車が置いてあった。
 
 台車を手に取って部屋を出ようとするとき目に入ったのが溶接をするときに使う防火シート。迷ったが新品を乗せるとそのまま台車を転がしていった。
 
 貨車の中に台車を引き込むと動かないように固定し、台にシートを引いて倒れている人物を引き起こす。手袋や服に血が付いていき、見る見るうちに赤く染まっていく。やっとの思いで乗せると体を動かして体育座りをさせシートでくるみ込んだ。
 
「・・・これもそうだろうか」
 
 近くに落ちていた荷物。おそらくこの人物の物だろう。小さめの旅行鞄のようなものが転がっていた。それを自分の肩に掛け、台車を外に引っ張り出した。ホーム脇に動かないように固定したあと、掃除用具を持ってきて血の跡を軽く掃除した。その間、気になって何度か台車の方を見たが全く動く気配がなかった。
 
 掃除が終わり、休憩をとっていた乗務員へ片が付いたことを伝えると「どうもね、・・・処理は任せてもいいよね」と返事が返ってきた。
 
 肩に下げたカバンを見つめながら台車の前に行くと、何とも言えない気持ちでカバンを下し、一応合掌しておいた。
 
「こんな私でも祈りたい時が来るなんて」
 
 でもこれ、何か違和感がある。なんだろうか。としばらく考えているとあることに気が付く。
 
「私、この人が生きているかどうか確認してない」
 
 そう思い付きシートを少しだけ取ると、手袋を外して口元へ伸ばした。
 
「嘘、まだ生きてるじゃん」
 
 か細いが確かに呼吸がそこにはあった。手の甲にわずかに感じられる息吹き。急いでシートを戻すと私はある場所へ向かった。
 
 医務官が居るセクター、その外れにある通称〝ヤミ医者街〟へ。
 

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