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【空き缶、彩へ舞う】第1話 ブリキの缶詰

 キコキコと缶切りで丁寧に缶の上の方をなぞっていく。この時の私は無心。何も考えずにスタートの切り口からゴールへと向かって缶切りを走らせていく。やがてゴールにたどり着くと手を切らないように箸をひっかけて蓋を開けた。すると中に魚のオイル漬けみたいなものが現れる。匂いを嗅いで「大丈夫そう」と小さく呟くとポケットから取り出したフォークで中身を突き刺し、さっきもらったパンの上に乗せて食べ始めた。
 
「・・・まあまあかも」
 
 この際贅沢は言っていられないのかもしれない。
 
 朝、目が覚めると私は手足がキチンと動くことを確認する事から始める。足の指、手の指。ギュって力を入れて戻すのを繰り返していくと、血流がだんだんしっかりと感じられるようになって「ああよかった、今日もちゃんとついてる」って安心して起き上がる。
 
 体を起こしたら2段ベッドの上から降りる前に天井に着いているダクトへ手をかざし、暖かい風が昨日と同じように流れてきていることを確認してから梯子を下りる。
 
「この間は悲劇だったからなぁ」
 
 数か月前、私はこの部屋で目覚めた時、暖房が止まって手足が凍傷になりかけるどころかそのまま天国へ運ばれてしまうのではないかというくらいの状況になっていた。助かったのは朝早くたまたま私を訪ねて来た友人のおかげ。私は彼に医務室へと担ぎ込まれて処置をされた。
 
 ベッドから降りて部屋にある熱水管の蛇口をひねって、金属製の桶に熱湯を入れてタオルを浸す。やけどしないようにトングで取り出し、適当に湯切りをして温度が下がったら手で固く絞る。そのタオルで寝ぼけた顔を拭いていく。それが終わると寝巻から着替え、必要な物をポッケに詰め、部屋の時計を確認し私はドアを開け外に出た。
 
―極寒の土地。土地にある国家。ここはその国家の為に勤める労働者の生活の基盤。名称は「都市缶」そして理由は分からないが外の世界からは「空き缶」と呼ばれている。
 

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