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【旅行記】中東の風に吹かれにオマーンに行ってみた(その5・最終回)

日本人になじみの薄い中東・アラブ世界の中でも特にどマイナーな国、オマーンに行ってみた旅の記録です。巨大な城塞を訪ねたり、無駄にスリリングな思いをして空港に向かったりした。

■ 城塞を活用するオマーン

既に首都マスカット観光でもご紹介した通り、オマーンには昔の城砦(フォート)が数多く残っており、たとえば首都マスカットのミラニ・フォートは現在でも防衛拠点になっています。また、いくつかは観光地化されています。

マスカットのミラニ・フォート。現在も防衛拠点として利用

同国の世界遺産の一つにやはり城塞都市の「バハラァ・フォート」がありますが、今回訪れたのは、その近郊にあり比較的アクセスが良い、内陸地方にある「ニズワ・フォート」でした。

■ 高速バスに乗ろう

ニズワはマスカットから175km離れたところに位置し、内陸部「バテイナ」地方の中心都市です。マスカットからは、国営バス会社の高速バスで片道2時間程度かかるそうです。

地球の歩き方による事前情報では、バスターミナルがマスカットの商業地区ルイにあるとのことでしたが、朝ルイでバス職員に聞いてみると、ターミナルはさらに空港寄りの大通り沿いに移転したとのこと。

慌ててターミナルに向かうバスに乗り、国営バス会社Mwasalat(以前はOTNCという名前でしたが、現在はONTCが近距離路線バス、Mwasalatが高速バスのブランドになっていると思われます)のターミナルに向かいました。中心部から空港方面に20分程度バスで移動しないと辿り着かないので、利用される方はお気をつけください。

事前に聞いていたバスの出発時刻から10分程度遅れてターミナルに到着したが、ターミナルというよりただの駐車場と言った方が適切なんじゃないかというぐらい何もない場所。

バスターミナル(らしい)

半信半疑でゲートのオッサンにチケット売り場の場所を尋ねてみると、ゲートの外にある小部屋でチケットが買えると教えてくれました。ブースのすぐ外には職員らしき連中がいましたが、おしゃべりに夢中でこちらには見向きもしてくれません。こういう国では正規の職員だか何だかわからない連中がダラダラしていることが多いのでこちらも無視して、小部屋に入ってみると誰もいませんでした。

奥に向かって何度か呼びかけてみると職員のオッサンが出てきて、外で駄弁っている連中を大声で呼びかけています。ようやく仕事モードに入ったらしき職員にニズワ行のバスを聞いてみると、「数分前に出た」とのこと。

・・・ならお前らがその辺でくっちゃべってないで対応してくれたら間に合ったんじゃないの?と思ったものの、抗議したところでバスは戻ってこないので、1時間後に来る次のバスチケットを手配してもらいました。ニズワフォートの麓の街まで2OR(≒600円)と、タクシーの相場を考えると破格の安さといえます。

バスチケット

■ バスを待とう

なんとか予定の遅れを最小限に抑えてバスを手配できたものの、ターミナルは巨大な駐車場でしかないのでコンビニや店もないため1時間の待ち時間を持て余していると、さっきチケット売り場を教えてくれたゲートのオッサンが声をかけてきました。

なんでも、建物の端に待合室があるとのこと。行ってみると、はたしてチケットブースと同じ建物内の反対側入り口を入ったところに給水器、トイレ、テレビがあり、さらに冷房が効いているという、とても有り難いスペースがありました。

待合スペース

待合スペースにはほとんど人がおらず、大きな荷物を抱えた商人のような出で立ちの一団が待合室の外にいたぐらいでした。

テレビではインド映画をずっと上映していましたが、ひたすら登場人物の顔にズームするだけの謎演出が繰り返される奇妙な映像でした。なんとなくサスペンスっぽい感じだったので犯人が誰なのか気になって見ていると、いつの間にか1時間経っていました。犯人がわかるパートまで見られなかったのが残念。

どうせバスなんか適当に遅れるんだろと高をくくっていましたが、ちゃんと時間通りにやって来ました。バスは4列シートで日本の高速バスと同水準で、中も非常にキレイでしたが、利用者は少なく席はガラガラでした。

バス車内は掃除が行き届いていてとても綺麗

ボッタクリで不快な思いをさせられるタクシーが時々物凄いボロ車であることを考えると、もっとバス利用が増えてもよさそうですが、まだ路線や便数が少ないのでしょうか。

出発する際、ゲートでいろいろ世話を焼いてくれたオッサンの姿が見えました。オッサンは私に気付いて親指を立ててきました。私も親指を立てて応じました。国営だからかバス職員はやる気ない感じでちょっとムカつきましたが、オッサンはとにかくいい人でした。

■ 拾う神あり

ニズワまでは幹線道路をひた走っていくだけなので、全体的に土色の地形を眺めて過ごしました。12時半頃にニズワの街に到着したのですが、フォートまではそこから数kmあるため、タクシーなり移動手段を確保する必要があります。ちょうど正午を過ぎて暑くなってきたこともあり、まずは情報収集と腹ごしらえのためファストフードのレストランへ入りました。

会計の際にレジでタクシー乗り場を聞いてみましたが、地元の人に教えてもらった場所に行ってみてもタクシーが見つからなかったため、フォート方面に歩きながら流しのタクシーを拾うことにしました。

フォートへの道はごく普通の住宅街といった印象で、ちょうど学校が終わったのかスクールバスから制服姿の女学生が下りてきたり、庭先で何かの枝を燃やす農家などを眺めつつ歩き出しました。

ニズワの街角

しかし気温がおそらく35度以上。たちまち汗が噴き出してきます。さすがに参ってきて、多少ボられてもいいからとにかくタクシーを拾おうと、大通りに出て自動車道の脇を歩いてみても、こういう時に限ってタクシーになかなか行き当たることができません。

直射日光を避けるためタオルを頭に乗せてはいましたが、さすがに歩き続けるのがしんどくなってきたとき、一台のアイスクリーム会社のトラックが信号で止まったかと思うと、助手席から誰かが手を振っているのが見えました。

地元のドライバーが道に友達でも見つけたのかと思っていましたが誰も反応しないので、どうも私を呼んでいるように見えます。よもや強盗かと思ったが、あまりの暑さとしんどさでどうでもよくなっていたため、彼の招きに応じてトラックに乗りこみました。

運転手はアラブ人らしい格好で、助手席のもう一人(私を呼んでいた方)はパキスタン人だという。フォートに行くと言うと、ついでに乗せて行ってくれるとのこと。警戒はしていたものの、こんなところをフラフラしている怪しげな旅人から強盗しようなどと奇抜な発想をする奴もおるまいと思い、そのまま連れて行ってもらうことにしました。

道中、パキスタン人が私にカラ●ーチョ的なスナック菓子をくれました。はじめは、暑さにやられているときに塩辛いものよこしやがって…、と恩知らずなことを思いましたが、脱水の際には適切な量の塩分(ミネラル)を水分と一緒に補給しないと、結局体の水分がどんどん失われていってしまいますので、あとで振り返るとあれは妙手であったなと思い返して改めて彼に感謝しました。もちろん、彼がそれを意識していたかどうか、今となっては確認しようがありませんが。

乗って数分で、今までの苦労は何だったのかと思うほどニズワ・フォートにあっけなく到着しました。駐車場にタクシーが何台か止まっていたので、帰りはマスカットに行く人を集めて乗合すればいいかとアタリを付けました。猛暑にやられかけていた私を救ってくれた2人は結局私に何も要求することなく、私をフォートの入口で下ろすと颯爽と去っていきました。私は心から感謝しつつ彼らに手を振りました。

イスラムというと、イスラム国のような攻撃的で原理主義的な面が強調されがちですが、イスラムの教義では、旅人には施しをすべしとされているのだそうです。

数日前に訪れた南部のサラーラでも、私が遺跡に向かって歩いているとタクシーでもない普通の乗用車がクラクションを鳴らしてきて、どこへ行くんだ、行き先が同じなら連れてってやると言ってくれることがありました。

これらのことを振り返ってみると、オマーンの人々は、先祖の代からずっと旅人に手を差し伸べていたのではないかと思わされます。果たして私たちは同じ事ができるでしょうか。今回の旅で最も印象深かった出来事でした。

■ フォートを歩く

ニズワ・フォートは、内陸地方の防衛拠点として17世紀に建造された強固な要塞です。居住機能を備えた城の部分と、防衛設備を持つ円形の砦部分に分かれており、侵入してきた敵に対して熱湯やヤシ油を注いで攻撃するための穴や、この地方に特有の灌漑設備などが残っています。

日陰になっている建物内は風が通り涼しく、居心地のいい建物でした。構内には市場もあって土産物が買えるそうですが、午前中しか開いていないため観光はできませんでした。市場を見たい人は朝イチに訪れる必要がありますのでご注意ください

ニズワ・フォート外観

フォートから周辺を眺める

フォート内部

■ 安く帰ろう!

一通り観光したところで、日没前にはマスカットに帰ろうと入口付近のタクシー乗り場へ向かいました。木陰になった石垣に何人か運転手が集まっていたので、聞いてみるとあと2人客が集まったら乗合でマスカット方面に連れて行くとのこと。

オマーンのタクシーは通常の乗用車タイプとミニバスタイプがあり、どちらでもシェアタクシー(所定の人数が集まり次第発車するタイプ。普通のタクシーと比べて格別に安い)になります。

フォートやその周辺をしっかり観光しきったので、客が来るまで待とうと思い、運転手と並んで石垣に座っていると、運転手がコーヒーや水をくれるので有り難く頂戴しました。コーヒーはアラブ式の独特な風味があって美味しかったです。

30分ほど待っていると、マスカットに行くらしき地元の兄ちゃんがイライラしだす。どうでもいいのですがプロテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチに顔が似ていました。どうもタクシーを出してくれと頼んでいるらしい。

運転手は私にもどうだ、と聞いてきたので、値段を聞くと3OR(≒900円)とのこと。バスは2ORしかかからなかったけどなと思いはしたものの、早く帰れるに越したことはないのでそれで了承し、車を出してもらいました。

車は高速道路をひた走りつつ、途中途中の街で客を乗せたり下ろしたりしながらマスカット方面に向かいました。タクシーの運ちゃんは基本的にボッタクリ体質なので、集金の際ちゃっかり5RO要求してきましたが、当初の約束と違うと言って撥ね付けるとあっさり3ROで了承しました。

ニズワ・フォートの入口から、1時間半程度でマスカットの幹線道路にあるラウンドアバウト(環状交差点。オマーンには信号が少なくラウンドアバウトで方向を変える場合が多い)に到着したのでそこでタクシーを降り、そこらに沢山集まっているミニバスタイプの乗合タクシー(15人~20人乗り)で中心部に向かい、宿に帰り着きました。

ラウンドアバウト付近

■ 再びのオールド・マスカット

旅の最終日は折しも金曜日で、イスラムでは休日にあたるため、あまり店も開いていません。この旅ではスケジュールを無理やり詰め込んだため、早起きして行動開始することが多かったのですが、今回の旅で初めてのんびりと過ごす時間が確保できました。

休日の雰囲気に流されてホテルでゆっくり朝食を摂り、ホテル向かいの魚市場に行ったり、路線バスでオールド・マスカット地区に再度向かい、前回行けなかった砦や門を見たりしました。

海岸沿いの魚市場

マスカット・ゲート

夕方には市場が開いたので、そこで一通り土産物を購入し、ホテル脇のいつものパキスタン料理屋で早めの夕食を済ませると、深夜のフライトに向けて空港へ向かうことにしました。

■ 安く空港に向かおう!

さて、問題は空港へのアクセスです。そこらへんでタクシーを拾えば直行できるのですが、あえて3000円かけていくメリットが乏しいんですよね(タダのケチ)。昨日までの経験上、空港のある幹線道路は路線バスが通っているため、バスに乗って適当なところで降ろしてもらえばOKだろうと考え、昨日と同様ルイのバス乗り場からバスに乗りこみました(300バイザ≒90円)。

あらかじめバスの運転手には空港に行きたい旨伝えておきましたが、どうも反応が芳しくないので不安になりました。そこで、バス車内にデジタル画面があり、停留所の名前が都度表示されることを利用し、バス停の名前をGo●gleマップに打ち込んで大まかな場所を特定しつつ進むことにしました。正直、狙い通りに辿り着けるかすごくドキドキしていました。今思い返すと、なんでこんな面倒かつ無駄なスリルを味わいにいったのでしょう。どこか頭がおかしくなっていたとしか言いようがない。

あるバス停で泊まった際にまだ少し距離があるな、と思っていると、運転手が私に向かって降りろとジェスチャーしてきます。日本のバスのように必ずしも等間隔にバス停があるわけではないので、ここが最寄なのでしょう。意地悪で言っていないことと信じたい。

幹線道沿いにはさすがにタクシーが多く、すぐに流しが捕まりました。運転手はこの度で利用したタクシー運転手の中で最も話の分かる兄ちゃんで、「空港内に入ると1RO、空港外の歩道橋までだと0.5RO」と親切にも案内してくれました。

歩道橋から空港内はほとんど距離がないため入構だけで2倍額というのは納得いかないものがありますが、予め案内してもらえるのはとてもありがたい。もちろん歩道橋まででOKと伝え、無事に空港に着くことができました。深夜11時ごろのフライトも特に遅れることなく、ふたたびドーハで乗り継いで、翌日日本に帰り着きました。

空港に向かう歩道橋から

■ 旅の総括

総括すると、オマーンの良いところは海も山もあり自然が豊か、文化的所産も多く残り、治安も良好、人柄も温厚で親切といったところです。

他方、物価が高い、観光地を結ぶ交通インフラがまだ外国人に不親切だったり、時期を選ばないと気候が過酷だったりするところはマイナスなポイントと言えるかもしれません。

日本とは全く異なる風景を楽しめる国として、非日常を求める方にぜひお勧めしたい国です。

ここまでお読みくださりありがとうございました!

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