ソーシャルメディアを「タダ」で使うコスト

マイケル・コシンスキーという若い学者がいる。彼は、2013年の4月にとある統計モデルを発表したことで、Brexitや2017年のアメリカ選挙戦の結果に大きな影響を与えることとなった。

「いいね」からわかること
氏の発表によると、Facebookの「いいね」を解析することにより、ユーザの性別や肌の色はもちろん、支持政党や年収、さらにはIQに至るまで、極めて高い精度で判別することが可能だというのだ。例えば、ユーザが黒人が白人かは95%以上もの確率で判別可能だし、民主党支持者なのか共和党支持初なのかが85%以上、キリスト教徒なのかイスラム教徒なのかが82%、ゲイかレズなのかなども80%前後の確率でわかるという。それどころか喫煙の有無や知能指数に至るまで、僕らが何に「いいね」をつけているかを調べるだけで分析できてしまうというのだ。

さらに面白いことに、解析対象となる記事は一見こうした個人の性向には何の関係もないと思われるものばかりなのだ。例えばカーリーフライ(ジャガイモをらせん状にカットして揚げた食べ物)の投稿に「いいね」をつけたかどうかでIQの高低が判ったり、「怖がっているのは、君よりもあのクモの方だ(That Spider is More Scared Than U Are)」というページに「いいね」をつけたかどうかで、喫煙者かどうか高確率で判断できるという。

コシンスキー氏が、この研究成果を発表してからしばらくして、この彼の統計モデルをほぼそのままコピーして活動を始めた会社がある。それが今話題になっているケンブリッジ・アナリティカだ。この会社はまずFacebookアプリを作り、それを同SNS上でばらまいた。このアプリはよくあるような性格診断アプリで、誰も何も疑問に思わなかった。このアプリを利用したのは、約27万人。しかし、問題はその先にある。実はアプリ、アプリの利用者だけではなく、アプリ利用者の友達がFacebook上で何に「いいね」をつけているのかをトラックしていたのだ。この手法で、ケンブリッジ・アナリティカはなんと5000万人分のデータを手に入れたと言われている。また、Brexitの国民投票にも同じ手法で大きな影響を及ぼしたとも噂されているのだ。

前述のコインスキー氏は2016年末のアメリカ大統領選の直後にこのケンブリッジ・アナリティカによるのやり方に気が付いて声をあげたのだが、選挙後の混乱の中に埋もれてしまって話題にすらならなかった。しかし、ここにきてFacebook社自身がこの問題を公にしたことで、一気に注目を集めている。

関連記事:マイケル・コインスキー氏の研究が詳しく知りたい方はこちらへどうぞ。
Digital records could expose intimate details and personality traits of millions

SNSのコストは誰かが負担している
さて、このような事態が明るみになったことで、次には責任問題が浮上している。これはいったいFacebook社の落ち度なのだろうか? それともこうした情報を収集し、政治的に利用したケンブリッジ・アナリティカが悪いのだろうか?

僕自身がこのニュースを聞いたときにふと思い出したのは、「タダより高いものはない」ということわざだ。僕らはFacebookをタダで利用しているのに、Facebook自身は笑いが止まらないほど大儲けをしている。その利益はどこから来ているかというと、要するに僕らの情報を売っているのだ。Facebookは確かに、僕らの名前や勤務先といったプライバシーに関わる個人情報を直接売り買いしているわけではない。しかし、Facebook自身もこのケンブリッジ・アナリティカと大差ないユーザー解析を行い、広告を打ちたい事業者に大きな利便性を与えてることで利益をあげているのだ。

1度でもFacebookに広告を出してみればわかるが、地域、年齢、性別、趣味、収入などといった様々なプロファイルを細かく指定し、極めて限定的なターゲットに向かって、精度の高い広告を打つことができる。何人の目に触れ、何人が反応したのかも随時正確に把握可能だ。一度こんなサービスを利用してしまえば、新聞広告などに戻れるはずもないのだ。

なお、このようなタダのサービスを提供しているのはFacebookだけではない。Googleだって、Twitterだって、Instagramだってみんな同じビジネスモデルだ。僕ら自身はタダだと思っていても、実は誰かが何らかの形で、そのコストを負担しているのだ。

思ったていたよりも高い「タダの対価」
「僕は平々凡々な人間だから、住んでいる地域や性別ぐらいバレたって別にどってことないよ」と考える人も多いだろう。僕自身も、長らくそう考えていた。しかし、僕らがこうしたタダのサービスに払っている対価は、どうやら考えていたりもずいぶん大きそうなのだ。

そう。実は僕たちは、無料サービスの対価として、民主主義そのものを手放そうとしているのかもしれないのだ

昨今、フェイク・ニュースが大きな話題になっているが、これらもどこかの誰か目的を持って作り、広告料を払って様々なソーシャルメディアで拡散しているのだ。どこかの製品が売れるくらいならいいが、こうして世論が分断され、選挙結果が左右される。そして気が付いてみると、民主主義そのものが機能しなくなりつつあるのだ。

僕は、SNSの会社を非難するつもりはあまりない。FacebookもGoogleもTwitterもIntagramも、慈善事業やっているわけではないのだ。どこからか利益を上げなければならない。こんなにも優れたサービスが、タダで運営できるはずがないではないか。

もしも、政治や商売に利用されるのが嫌だと言うのならば、それ相応の対価を僕ら自身が「金銭」という形で払っていく必要があるのではないだろうか?

そう。「タダより高いものはない」のだから。


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松井博

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