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運命のひと

たぶん、最悪の結果ってやつになるんだろう。
彼女は、夜行バスに乗って遠くの県に引っ越して行く。
私は、退職。

どうしてこうなったのか、正直、よく分からない。
ただ、倉庫の段ボールの間に隠れて泣いていた彼女を見て、私はもうこんな職場にいたくないって思ったのは覚えてる。

きっと、働いていればどこにでもあることなのだろう。
人間関係のあれこれや、理不尽な要求や、残業の多さ…等々。

そんなよくあることなのにも関わらず、私たちは耐えられなかった。
たったの半年。


私は、夜行バスに乗って行く彼女を見送ることにした。
待ち合わせの場所に、引っ越し作業を終えた彼女は片手にキャリーケースを引きながら現れた。職場ではいつもキリッとアイラインを引いている彼女だけれど、その日はノーメイクだった。


私たちは、ファミレスで夕ご飯を食べながら、部活の最後の大会が終わった学生みたいにこれまでのことを思い出して笑った。辛くてどうしようもなく苦しんだけれど、私たちはきっと精一杯やったのだ。
引っ越し作業もあったせいかちょっと疲れた感じの彼女と、胃がまだ本調子でない私と、たったの半年。でも、超濃厚だったねって。

彼女は行動力があって、私をグイグイ引っ張ってくれた。彼女がいなかったら、私は死にそうになりながらもズルズルと不健康な仕事のやり方を年単位で続けていただろうし、きっとそれは身体か心のどちらかが致命傷を負う結末にしかならなかったと思う。


普段、「運命」なんて言葉は使わない。
でも、彼女はすごい勢いで、私の運命を変えてくれた。
これから悪い方にも良い方にも、どちらに進むか分からないけれど、もし私だけの道があるならば、そこに進むチャンスをくれたと思っている。

「運命の人ってさぁ、恋人とかだけじゃなくて、自分の運命を変えてくれた人も、運命の人って言えるんじゃないかなぁ。だとしたら、Aちゃんは私の運命の人だな(笑)。」

冗談っぽく言ったら、彼女は
「ほんまや…!私にとっても同じやで。」
大きな目をさらに大きくして真剣な表情で頷いた。


ずいぶん遠くの県に行ってしまうから、偶然に会うってことはないだろう。下手したら永遠の別れになってしまうかもしれない…。そう思いながら二人でバス停まで歩いた。たぶん、私はこの日のことを忘れない。


ここへ来てくれてありがとう。
いつも隣にいてくれてありがとう。
私の運命を強力に変えてくれた人。
運命のひと。


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