見出し画像

おじさんの恋煩い~中編~

前編

前編はこちらから

前編では時系列や歳が分かりづらいところもあると思いますので、少し整理をします。

彼女が新卒で入社してきたのが4年前で、現在彼女は26歳、私が44歳。18歳も下になります。

そしてもうひとつ、私が既婚者なのは周知のとおりですが、実は彼女も既婚者なのです。彼女は入社2年目、24歳の若さで結婚しています。私は出向中で全く気が付かず、再会して結婚の事実を知るまで旧姓で呼び続けていました。

再会のとき

工場の再編プロジェクトは難航しました。新規に導入した生産ラインの仕様がしっかり詰め切れておらず不具合が多発、連日深夜まで対応に追われていました。また次々に新規生産ラインが導入されるタイトなスケジュールも長時間労働に拍車をかけました。

そして近づく限界。

8月下旬のある朝、ベッドから起き上がれなくなっている自分に気が付きました。

強烈なめまいと頭痛の発症。

とりあえず1週間休むも症状が収まらず、状況を聞きつけた人事課の判断でプロジェクトから外れ本社に戻ることになりました。

満身創痍の中、本社に戻ってきた私を待っていたのは、黙々と孤独に仕事を続ける彼女の姿でした。主だった生技メンバーは出向や他部門・他拠点に異動、残っているメンバーも技量やマンパワー的に彼女を見る余裕はありませんでした。当然彼女の仕事のアウトプットは滞り勝ちとなります。

そんな彼女を部課長は評価しませんでした。ちゃんと見ていれば彼女がどういう状況か理解できたはずです。しかし、私が本社に戻ってきた10月上旬の時点で翌1月の異動を決定していました。彼女は生技に籍を残しながら異動先の開発の仕事をするという異例の対応。それほどの厄介払い。私は激しく憤りました。そんな私も所属自体は他工場のまま。彼女の上司に処遇改善を訴えても虚しいだけでした。

それでも彼女はようやく話せる人ができたと、私を温かく迎え入れてくれました。彼女は私が帰ってきて本当に嬉しいと言ってくれましたが、心身を病んだ私は彼女の笑顔にどれほど救われたでしょう。この恩にいつかは報いなければならないと今でも思っています。

そしてこの時、彼女の名字が変わっていることに気が付きました。

休職

しかし、やはり私の心と身体は長く持ちませんでした。
再び訪れる激しいめまいと頭痛。本社復帰から2週間で休職するよう上司から指示を受けました。

自分の技術者としてのキャリアは終わった、そう思わずにはいられませんでした。恐らく私にも異動の打診があるだろうと。

実際、品証部への異動が決まりかけており打診がありました。これは私が勝手に思っていることですが、生技にとって品証は敵。品証は品質を保証する部門ではなく、品質を生技に保証させる部門。つまりはいつも口先だけ介入してくる鬱陶しい存在。上司の打診に品証に行くなら退職すると告げるとこの話は立ち消えになりました。

約2か月間の休職。

また2週間でしたねと少し俯き加減に言った彼女の言葉が胸に突き刺さります。思い起こしてみれば、新人研修も出向によって2週間で交代。彼女には申し訳ないと思いながらも自分にも余裕がなく、療養生活に入っていかざるを得ない状況でした。

この2か月は本当に苦しい2か月でした。
たくさんの投薬を受けましたが症状が改善されず、自分は本当に治るのだろうか、社会復帰できるのだろうかという不安に苛まれていました。

しかし転機というのは訪れるものです。
紹介してもらった大学病院の医師よって病状が劇的に改善していったのです。医師が下した診断は片頭痛によるめまい。片頭痛の中には稀に生活に支障をきたすほどの症状が出る場合があるそうです。私はそんな稀なものを引き当ててしましました。ですが、原因が分かってしまえばあとは退治するのみ。この医師との出会いから1週間後には普段の生活に戻れるほど回復しました。

ちなみに昨年末から同じ症状が出ており、月1回同じ医師のところに通っています。

復帰

すっかり良くなった私は12月中旬に職場復帰します。
生技だけではなく部として復帰を歓迎してもらい、とても嬉しかったことを覚えています。特に席が隣になった彼女は細かなところまで気を遣ってくれ、何の戸惑いもなく通常業務に戻ることが出来ました。当時口癖になっていた「頭が痛い」をぼそっとでも言うと、すぐに大丈夫ですか?ちょっと休ますか?などと声をかけてくれるほどの気の遣われよう。何か子供に戻ったような、くすぐったい気持ちになりました。

2人で休憩をとっていると彼女が不意に言い出します。

もう休まないでくださいね。マタイさんがいないと私もこの会社にいる意味が分からなくなります・・・

この時は胸がいっぱいになって「うん、ありがとう」と応えるのが精一杯でした。しかし今になって思うと・・・

これが彼女を女性として見るようになったきっかけかも知れません。

次に続く・・・



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?