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#20: AIは創造性を向上させるか?

COVID-19の影響で家で仕事をするようになり、はやくも4ヶ月目に入りました。自宅だと時間をうまくコントロールすることができず、すっかり記事の更新もご無沙汰しておりました・・・。

少しずつ生活のパターンも元どおりになってきて、こういった文を書く時間も戻ってきたので、また更新をしていきたいと思います。


人間の創造性とは何か?

先日とあるお客様から「AI利用により、従業員の創造性が上がったという事例はあるか?」という問い合わせを受けました。AI利用で企業が「生産性をあげる」という例はよくありますが、「創造性をあげる」という話はあまり聞いたことがありません。

この問いに答えるためには、本来はまず「人間の創造性とは何か?」を定義しなければならないのです。
とりあえず手軽なところで、Wikipediaで「創造」を調べると以下のような定義が書いてありました。

創造(そうぞう)とは、新しいものを産み出すこと。創作や発明、あるいは新しい考え方など、オリジナリティの強いものに対し使うことが多い。

この定義を見る限り、創造とは「新しいものを生み出すこと」であり、「創作や発明、新しい考え方」が具体的な例となります。さらに、できれば「オリジナリティの強いもの」が求められるようです。なんとなく、普通の人がイメージする感覚に近いですね。


新しいものを作り出すとは?

さすがにこの定義だと、機械学習や深層学習というような大量のInputを処理しているようなシステムが創造性を発揮するということは無理そうです。なので、もう少し定義を緩くしてみましょう。

例えば、研究の世界で学際領域と言われる領域では「異なる要素を掛け合わせること」により新しい研究のタネが生まれてくると言われています。こういった「既存の要素の掛け合わせ」により新しい考え方が出てくるのも、一つの創造性とします。

また、音楽のマッシュアップのような「既存のものから要素を抜き出して組み合わせた結果として、新しいものを作り出す」のも創造性の一つだと捉えられます。実際に、DJが既存の音楽を組み合わせて作ったものも「作品」として価値が認められています。

考えてみれば、茶道や武道での上達の仕方を表す言葉である "守破離" が示すように、何か新しいことを作ろうとしたらまずは既存のものをしっかり学ぶ必要がありますよね。また、後から観ると既存のものからはかけ離れたようなものでも、実は過去の蓄積から学んだ・・・ということは少なくないのです。

例えば、Appleが生み出したイノベーションの代表格と言われているiPhoneも、それよりも前にシリコンバレーではタッチパネル式のスマートフォンの研究が複数の企業によって進められていたことが知られています。


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AIは人間の創造性を向上させるか?

さてここまでは「創造性とは何か?」ということをみて来ましたが、それでは「AIは人間の創造性を向上させるか?」という疑問についての回答を考えてみましょう。

まず、多くの人々が「AIにより人間は創造的なことに集中できる」といった時に、実際にはAIが人間がやっている定型的・反復的な仕事を代替してくれる・・・という意味で使っていることがほとんどです。簡単に言えば、AIが瑣末なことをやってくれるので、人間は人間にしかできない仕事(と思われている)に集中できるということですね。

確かにこれは人間をより創造的にはしてくれそうですが、AIがその性質として人間の創造性を向上させている、とは言えそうにありません。
残念ながら、現在の統計的な学習をシステムの基礎としているAIでは、その性質上「新しい考え方」を提示することは非常に難しいと言わざるを得ないでしょう。

ただ、上に書いて来たように創造性の定義を緩めることで、AIが「人間が何かを思いつくためのツール」の役割は果たすことができると考えています。


1つ目は、AIを使って人間では計算が不可能な量のデータを取り扱い、何らかのパターンを見出すということです。ビッグデータ創薬やAI創薬と呼ばれる分野はこの考え方の先端をいっている領域と言えるでしょう。

2つ目は、既存の作品を大量に学んだAIが組み合わせによって生み出した「新しい情報」が人間の想像力を刺激する・・・という例です。すでに写真の世界では、学習したAIがその組み合わせから現実にはいない人間の写真を作るということが可能になっています。
また、音楽の世界でもある領域の楽曲を勉強させたAIに「新しい楽曲を作らせる」という研究が行われています。

こういった例は、「AIが人間の創造性を向上させた」とは言えないですが、AIというツールが、人間の創造活動に対して貢献可能であるということを示していると思います。



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