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#008: シリコンバレーでの安全安心なプロダクトづくり: 安全は物理、安心は心理?

シリコンバレーに出張する際に、お声がけのあった日本企業の現地オフィスに出かけることがよくあります。多くの場合は、数人〜10人程度の小規模オフィスなのですが、たまに「この企業がこの人数の日本人をシリコンバレーにおいておくのか!」と驚くようなこともあります。

そういった企業からよく話のテーマとして求められるのが「どうやって大企業でイノベーションを起こすのか?」ということです。こちらもそういったテーマについては何度も話しているので、それほど難しいものではないのですが、時々日本企業ならではの質問を受けることがあります。

先日訪問した企業では「プロダクト(製品)を開発する時に、安全安心を求められるのですが、どのように対応すればよいでしょうか?」という質問をもらいました。この質問、個人的にはすごく日本的であると感じました。

安全安心とは英語でどう表現するか

日本語では「安全安心」と一括りにして表現すると多くの人はなんとなく意味がわかったような気がしますが、まずもって"安全安心な"という修飾語を英語で表現するのが観点ではありません。「安全」は"safe"や時には"secure"で表現することが可能ですが、「安心」というのはなかなかいい訳語がありません。

"secure"でもいいですが、これは"ガッチリ守られている"というニュアンスが含まれますし、"reliable"だと"頼れる"というニュアンス。日本語で話している時には、"comfortable(心地よい)"が合うような場合もあります。どうしても訳す必要がある時には"safe and secure"という表現をしますが、多分ニュアンスはかなり違っているはずです。

こういったように、そもそも概念としての「安全+安心」というものがアメリカ人にとっては理解がしづらいものではあります。


安全は計測できる

もちろん、「安全+安心」という概念にぴったりハマるものがないということ == 安全+安心を考えない、というわけではありません。科学の一般利用という観点においては、ニセ科学に近いものが堂々と広告が打ててしまう場合がある場合に比べて、ずっと考慮がされているといえるでしょう。

安全については、「基準値の設定」と「プロセスの定義」を行い、その基準とプロセスを満たすものは安全であると定義する、というのが一般的な考え方です。基準値やプロセス自体が完全であるというわけでは決してなく、科学的な知見が得られればアップデートは行われるように努力がなされています。

それでも、少なくともあるタイミングにおいては、基準を満たすものやプロセスが適正であれば、「安全である」と主張することは認められています。つまり、安全であるかどうかというのは、プロダクト/サービスを設計・製造する側が物理的に考慮することが可能であるということです。

安心は計測できない

一方で安心については、そもそも明確に定義することは出来ないため、究極的には個々の人間や社会がどのように”感じるか”という問題になります。言い換えれば、この問題は心理的な側面から扱うべき問題であり、改善はコミュニケーションによりなされるべきである、と考えるということです。

例えば、遺伝子組み換え食品(GMO)に対する対応というのは、米国の考え方をよく表しています。遺伝子組み換え食品については、少なくとも米国科学アカデミー(NSA)は、食品として「安全」であるというレポートを発表しています。一方で、そう思わない消費者 == 安心しない消費者もたくさん存在します。

そういった「安心していない」消費者に対するために、米国では遺伝子組換え食品表示情報開示法により、遺伝子組み換えを行なった食品を原料とした場合には、その表示が義務付けられています。

プロダクトの観点、この場合は遺伝子組み換え食品そのものやそれを原料として利用する製品、から見ると、製品そのものの改良ではなく「表示というコミュニケーション」により対応をしているということになります。


安全と安心は別々の部門が対応する

GMOは一つの例ですが、会社として新しい製品開発を企画するときに、安全と安心を同じ人間が考慮する、ということは、米国ではあまりないといっていいでしょう。もちろん製品/サービスのビジネス上の最終責任者は全ての要素を考慮する必要がありますが、少なくとも製品/サービスを現場で開発する人間が、「この製品/サービスに対して安心してもらうにはどうすればよいか」ということを最初に考えるということはしません。

繰り返しになりますが、これは製品開発の際に「ユーザーの安心感(納得感)を無視する」という意味ではありません。そうではなく、この問題はコミュニケーションの問題なので、別の人間がチームに所属し一緒に解決をしていくものだ、と考えるのです。

それぞれの問題は性質が違い、求められる能力や経験が異なるわけですから、当然対処すべき人間は違って良いし、そうあるべきなのです。だからこそ、製品/サービス開発においては複数の異なる能力を持った人間がチームで対応することが重要になるのです。

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