花組版 激情 -ホセとカルメン-を観て

演目が発表されてから、ずっと楽しみにしていた『激情-ホセとカルメン-』。オンライン配信で観劇することが叶いましたので、その感想を綴りたいと思います。


花組版『激情-ホセとカルメン-』への期待

配役を確認したとき、心が躍りました。
というのも、「今までとは全く異なった『激情-ホセとカルメン-』になるだろう」とわくわくしたからです。

永久輝せあさんのホセ
星空美咲さんのカルメン
凪七瑠海さんのメリメとガルシア
綺城ひか理さんのエスカミリオ
帆純まひろさんのダンカイレ
一之瀬航季さんのレメンダート
咲乃深音さんのミカエラ

特に、前回の月組版で暁千星さんが演じた闘牛士 エスカミリオを永久輝さんの同期である綺城ひか理さんが演じること、自由奔放で魔性の女カルメンを下級生娘役である星空美咲さんが演じることで、今までとはまた違った『激情-ホセとカルメン-』になるだろう、と感じました。
配信を観るまで、「美咲ちゃんはどんなアプローチでカルメンを演じるのだろうか」「綺城さんは花形闘牛士 エスカミリオをホセの対比としてどのように作り上げてくるのだろうか」に悩まされ、「魔性 純粋 女性」という相反する言葉で検索し続けたり、オペラ 闘牛士の歌を聞き続けたりしていました。
期待が膨らむあまり、途中で満足できなかったらどうしようと不安になる日もあったのですが……予想を遥かに超えて素晴らしかったです!
Blu-rayを手に入れて、もう一度花組版『激情-ホセとカルメン-』を味わいたい。

永久輝せあさんのホセ

カルメンとの出会いで、人間の本能に目覚めてしまったホセ。本能は暴れだし、自分で止めることはできない。永久輝さんのホセからそんな印象を受けました。カルメンによって激しい感情を持つ男に変化したのではなく、初めからそんな男だった。

激情を観るたびに、純粋でまっすぐな人間が友人を傷つけるのか?と不思議に思っていたのですが、永久輝さんのホセなら故郷で友人を傷つけてもおかしくないな、と思いました。自分の欲求に対して、純粋で激しい感情を持っているからこそ、理性を失った時に感情のまま行動を起こしてしまう。

永久輝さんのホセから激しい感情を持つ危うさや恐ろしさを感じ取ることができるからこそ、これまでホセが受けた母親の無償の愛が際立つと感動しました。
友人を傷つける息子でも、母親はホセを愛し、疑いもなく信じていた。それはホセにとって、どんな自分であっても(人を殺めても)、母親は自分を愛している、自分の帰りを待っていると信じていられる、ホセの心の砦なのかなあ、と。(危うさや恐ろしさを持っていたにも関わらず、カルメンに出会うまでは真面目な人間としてホセが生きてこられたのも、母の深い愛があったからなのかも)母親への愛が深すぎるのではないか?といった疑問を持つことなく、「そりゃあ、ホセは母さんを愛するよね」と納得してしまいました。

永久輝さんならではのホセだなあ、と強く感じた場面はジェラシーの場面です。
「神よ――――!!!!」と叫ぶ姿は悲しみや嘆きから神にすがるのではなく、カルメンに愛が届かないことへの怒り、呪いのようでした。あの場面にBGMで雷鳴をいれてもマッチしたと思います。ホセの抑えきれないカルメンへの激しい愛が伝わり、とても好きな場面になりました。

星空美咲さんのカルメン

「美咲ちゃん、凄すぎる。」
この一言に尽きます。演技力のある娘役さんだとは知っていましたが、まさかここまでとは……。
私が感じた美咲ちゃんのカルメンは自分の感情や欲望についての理解が早く、その時の気持ちに素直。自分の気持ちに素直だからこそ、自由奔放。
美咲ちゃんのカルメンはただロマとしてその時を生きていただけで魔性の女になってしまったイメージです。生きるために嘘をつくこと、媚を売ることに対して悲しみや怒りはないように見えます。ロマのカルメンにとって、これが人生、これが生き方と悟っている。けれど、ホセと出会い、愛することでホセのように生きることができない切なさや諦めを感じました。カルメンの世間慣れした部分と純粋な部分のバランスが絶妙で感動しました。

ホセに惚れてからは、カルメンがホセに対して猫なで声で話したり、しだれかかったりしないのがいいなと思いました。逃げるためにホセに媚を売り、嘘をつく姿と対象的で、カルメンがホセをありのままに心から愛しているように見えてよかったです。

研究科5年目で、こんなに素晴らしいカルメンを演じることができる美咲ちゃん。今後どんな娘役さんになっていくのか、楽しみで仕方ありません。

凪七瑠海さんのメリメとガルシア

メリメはホセやカルメンとは違う世界線で生きています。もう既に起きた出来事を物語にするために、メリメの心の中で動き出したホセとカルメンをじっと見つめる。凪七さんのメリメは現在進行形で、自分の心の中で動き出したホセとカルメンたちを書いているように感じました。
物語から浮いてみえる恐れもあるお役だと思うのですが、物語に自然に溶け混んでいて、でも異質感はあって……という絶妙な塩梅で最高でした。凪七さんの凄さを改めて実感しました。
激情の物語では、ホセとメリメの関係について語られませんが、凪七さんのメリメの話ならホセは話を聞くだろうし、信頼を寄せるだろうなと感じました。そっとホセに寄り添っているメリメだったと思います。

凪七さんのガルシアは迫力がすごかったです。生き方が汚いと非難されても、生き残ることにこだわる、生きるために勝ちを奪うガルシアでした。
上手く言葉にできないのですが、凪七さんのガルシアと美咲ちゃんのカルメンが夫婦になるのは納得できました。
カルメンを愛しているけれど、カルメンからの愛は求めないといった愛の形や安心感(危険な男ですけれども)が凪七さんのガルシアから感じることができて、美咲ちゃんの繊細なカルメンに合っているなあ、と。恐ろしいけれど、頼りになるガルシアでした。

綺城ひか理さんのエスカミリオ

月組版の暁千星さんのエスカミリオが新進気鋭の花形闘牛士、人生負け知らずの男ならば、綺城さんのエスカミリオは勝負に勝つことで人生を切り開き、花形闘牛士に登りつめた男の印象を受けました。敗者の人生を身を持って知っていそうな、自分の全てを賭けた勝負を何度もしていそうな、人間として円熟しているエスカミリオ。

エスカミリオが自信たっぷりなところ(運命の女神が自分を裏切らないと信じているところ等)は、今まで勝つことで人生を変えてきた自負があるからこそ。自分の運命を信じているから、手の中のカードを全て替えることができる。綺城さんのエスカミリオは勝つことにこだわるのではなく、勝つことの意味を知っているエスカミリオでとても魅力的でした。

花形闘牛士で自分自身が太陽のような男なのに、どうしてエスカミリオはカルメンを太陽の女として愛するのか。カルメンからあたたかい安らぎを感じているのか。
綺城さんのエスカミリオをみて、影の世界を知っているエスカミリオならカルメンの命の輝きが太陽のように感じるのかもしれない。闘牛によって消耗されるエスカミリオの命の輝きをカルメンが満たしてくれるような感覚になるのかもしれない。

光の世界から影の世界に転がり落ちた永久輝さんのホセと影の世界から光の世界に駆け上がったように感じる綺城さんのエスカミリオが対照的で、対照的な二人が同じ女 カルメンを愛することがとても面白いな、と花組版の激情を観て思いました。

配信日の綺城さんの声の艶が美しくて、鳥肌が立ちました。歌がうまいとエスカミリオの説得力も増しますね。「人生、戦いに勝つ」という言葉の説得力が凄まじいエスカミリオでした。今の綺城さんだからこそできたエスカミリオだったのではないでしょうか。

花組版『激情-ホセとカルメン-』を観て

花組版『激情-ホセとカルメン-』にもしテーマがあるなら、私は「愛するとは何か?」ではないかと感じました。
過去に公演された宙組版、星組版、月組版と比べて、花組版のホセとカルメンの恋愛が純愛のようにみえてしまったからかもしれません。

美咲ちゃんカルメンが永久輝さんホセに手を差し出すことが2回あり、それが良い意味で浮いてみえたことがとても印象に残りました。あの行為は花組版にとって意味があるのかも、とずっと考えてしまい……
私のなかでは今のところ、差し伸べられた手を素直に掴むこと=人を愛することなのかも、という結論に落ち着きました。(でも、まだずっと考えています)
花組版『激情-ホセとカルメンー』は考えれば、考えるほど面白い作品で、観れて幸せでした。

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