幻の長編から未発表短編まで(『飛火野耀 読本』より)

 デビュー作『忍耐の祭』(1979年12月)から再デビュー作『イース』(1988年3月)まで。空白に思えた期間も、作家は書き続けていた。
 本項では知られざる長編1作と短編3作について触れていこう。
 願わくば、作家自身か著作権継承者と連絡がつき、本として刊行されますように。

 ・幻の第二長編(1983年)

 あるものは油断なく敵を警戒し、あるものは愛し合い、あるものはあてどない夢を見ていた。そして、都市はじわじわと無機質の版図をひろげて、死の王国の到来を準備していた。N自身は、周囲のその闘いには気づいていなかったが、彼の内部では、死の衝動がほんのわずか生の欲望を上回っているようだった。

 飛火野耀/山科春樹には幻の長編が存在している
 デビューから4年後、『忍耐の祭』の次に発表された作品。
 それが本作、

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