山夢

2022年6月14日に毎日詩を書くことを決めたので書いています。 2022年8月27日…

山夢

2022年6月14日に毎日詩を書くことを決めたので書いています。 2022年8月27日に休みたくなったので休みます。

最近の記事

孤独

孤独とは万人に降り注ぐ日差し 逃れようとしても いつかはそれを浴びねばならない 我々の身体に必要なものを生み出すために 燦々とした夏の日差しの足元 鋭く黒い影を落とし この世を極彩色に包み込む 穏やかな冬の日差しの足元 影も落とさぬ弱々しさと 日を懐かしむ感情よ そのどちらもが孤独の本質 決して逃れられないもので なくてはならないものなのだ

    • パテ

      うまく泳げないの 息の仕方を忘れてしまう どうやって手を動かして どうやって足を動かすのか うまく走れないの 息の仕方を忘れてしまう どうやって手を動かして どうやって足を動かすのか いつも忘れるのはおなじこと 呼吸と体の動かし方 思い出し方も思い出せない だからね 新しいことで満たすの 泳がなければ問題ないし 走らなければ問題ないし 何で満たそうこの空白を 少し前は満たせるモノがあったのに もう私には見向きもしない だって私は結婚してて かわいい子どももいるのだもの

      • 無限におはす神のうちに

        腹の中でつかえてしまって一向に出てこない これが益になればいいものの 糞なのだからそりゃもう無益 1円にだってなりゃしない マグネシウムにトマトジュース 食物繊維に乳酸菌 全部摂っても厄は落ちず腹ばかりが張っていく 最後に頼むは神であるが 生憎私は神を信じず信じるものは己の身 そんな心情であるからして 頼りたいとは毛頭言えぬ しかしここは日本であるから 遠く離れたインドの神なら 多少なりとも許してくれよう 油をガンジス川のように鍋に注ぎ 金色の玉ねぎの祝福を浴び あとは我が家

        • カモヌキ

          目のない何かに見られている 目がないのならば見られているは間違いか これが何かはうまく言えぬが カモシカとタヌキの中間のような 兎にも角にも哺乳類の区分には含まれそうだ 目を閉じた線が毛で埋もれ はじめからおわりまでそいつには 目が無いのが当たり前のようだった 毛についた埃までわかるほどに寄る生き物に 思わず身体が硬直したが 草食動物の類なのだろうし 大人しくしてればそのうち去るだろう しっとり濡れた小さな鼻をぷすぷすとひくつかせ 私の色褪せた前髪をショリショリと舐める

          ナシゴレン間話

          ひんやりとした床に寝転がりながら スマホでナシゴレンを注文した 少し先のことを考えながら生きていくと 少し先の私はありがたく思うかもしれないが 少し先の私は少し先の私を手助けしているので 今日はなるたけ手を抜くよ 今の私は過去の私に助けられていない 未来の私は過去の私を助けられない 過去の私だけは今と未来の私を助けられる でも今日はなるたけ手を抜くんだから 今の私も過去の私も今の私を責めないで 今にも過去にも見えないように 透明になって息をひそめる 手を抜くことは悪いこと

          ナシゴレン間話

          Book Layer

          鮭の切り身を焼いているときに小さな地震が発生した。すぐに火を消し、念のためダイニングテーブルの脚元へと潜る。小さな揺れは30秒ほど続いた。壁の向こうでどさどさという音が聞こえる。その後は何も音が聞こえなかった。沈黙だけが耳に届く。 地震速報を見る。震源地がここではなく、そこではないかを一応確認した。グリルの窓から覗くと、鮭は余熱で丁度良く火が通っていたので、取り出して粗熱を取る。保存容器に詰め、冷蔵庫へと閉まった。先ほどの音は隣の部屋の角の、いつまでも山積みにしたままの本が

          Book Layer

          シガールと先生

          「なんにせよ分かってほしいという気持ちを持ち続ける力が年々無くなっていくのです。だから代わりに文章が書けるようになったのかもしれませんね」 そう先生は話してくれた。 「私はまだまだ分かってほしくって苦しくなることばかりです。早く先生のようになりたいです」 私は先生が大好きだから。 「あなたと同じくらいの頃に同じように分かってほしくて足掻いていましたよ。でも分かってもらえなくて、そのうち分かってもらえることを諦めてしまいました」 先生はコーヒーをひと口飲もうとしてやめる。 「私

          シガールと先生

          楽器の泉

          どこかでカリンバの音が聞こえる。 昼に進められるマンション新築工事の最中、唸るモーター音、太い杭を打ちこむ音、怒号、その柔らかい金属音はそれらを掻い潜り私の耳まで到達した。しばし作業の手を止めてどこから聞こえてくるのかを探る。しかしあまりにも微かな音なので、音の発生源が同じマンションの住人なのか、近所の平屋なのか、はたまた隣の公園かどうかは掴めなかった。とにかく誰かがカリンバを練習しているのだろう。試し弾きのようなたどたどしさが感じられたが根気強く続けている。通っていた大学に

          楽器の泉

          脱走劇

          美しくきらめく会場から 今抜け出そうとする一つの影 穴の空いた外套を纏いソールの薄い靴を履く 気を抜くと振り返ってしまう シャンデリアの光が鋭く瞳孔に刺さる 輝きが私を絡めとる前に前に駆け抜けろ お前が目指すのは誰も寄り付かぬ陰鬱な森 足首に濡れた草が小さな切り傷を生むのを 柔らかな声すらもことごとく無視をして 茨が行手を遮ろうとも目的地まで走り抜けろ ここまでこれば追手など来るはずもない そもそも追われてなどもいないのだから 確かなものは足首で燃える生まれたての痛みだけ

          粘着性の高い黒い物質

          粘着性の高い黒い物質が噴き出してくる事件が いろんなとこで相次いで発生してるのって知ってる? その物質がなんなのかまだ判明してないみたいだよ 人によってはなんだけどね 晩御飯の献立を考える時に 着飾って玄関の扉を開けた時に さあ描こうと絵筆を握った時に あと少しで完成する論文を書いている時に 廃棄寸前のカップ麺買ってる時に みんなの前で怒鳴られてる時に 子が口からオムライスをわざとこぼした時に 足元からどばーって漏れてくんだって 検索すると結構簡単に出てくるよ 『 足元 黒い

          粘着性の高い黒い物質

          かわいい猫

          かわいいのね あなたは 真っ黒の毛並みがつやりとひかる 小さいのね あなたは ふかふかした足と湿った鼻 結構喋るのね あなたは 撫でられたくって身体を寄せる あなたと暮らす為に あなたの自由を奪わねばならない あなたが持つ権利と引き換えに わたしはあなたを 人の考えうる限りではあるが あなたがなるべく幸せに過ごせるように 尽力するよ 賢いのね あなたは おもちゃの紐を咥えて投げる 馬鹿なのね あなたは すぐ私を見失う 寂しいのね あなたは 愛を貪欲に求めて叫ぶ カーテンの

          かわいい猫

          大丈夫会議

          今日は大丈夫でした 明日はわかりません 正しくは1秒先もわかりません 実は今日も駄目でした もう何年も前から 物心ついた頃から わたくしはずっと駄目でした チェックリストはわたくしが作成したものですので 編集権限はありますけれど そうそう編集いたしません なぜならば 上の者が首を縦に振らないからです 上の者といいましてもわたくし1人ではありますけれど 1人が拒否すれば誰も反対いたしません 大丈夫になるためには何をするべきか それはリストの再検討ないし破棄なのです しかしそのリ

          大丈夫会議

          存在しない水

          人を殺したかもしれない 首を絞めていた 唾液が手の甲に付着した 隠蔽工作をした 服をゴミ袋につっこんだ これは夢の話 そう夢の話 着ていない服をゴミ袋に詰める 口が解けぬよう固く結ぶ 眠る前に見た、妻が失踪する映画 いくつかのパーツが組み立てられ わたしの夜が始まった 夜が終わりを迎えて真っ先に 手が汚れていないか確認した リビングで眠る夫を横目に蛇口をひねる 猫が足元に擦り寄る 人殺しにもやさしいのだね 濡れた鼻先を優しく撫でる 本当に人を殺したのだろうか 箱をひ

          存在しない水

          からになれば

          この道は霧の向こうまで続いています 自分は立ちすくんでぼんやりしています そこには何がありますか こういった質問を どなたかに聞くのも憚られます 恥ずかしいのです 自分がいかに頭の足りない人間なのか 見たくないのです 自分以外が軽快に道を歩く様を 全てが遅いと怒鳴られ続けました 覚えがとにかく悪いのです 身体にいくつも穴が空いてるのでしょう 入れたはなから溢れてしまう ぎこちなく鼻から息を吸い ぎこちなく鼻から息を吐きます 口の中では舌の位置が定まらず 前歯の裏で足止

          からになれば

          日常に潜む非日常

          口に合わないカレー屋の照明が灯る 何を着るにも困る髪色にされたヘアサロン いつまで経っても借り手のつかない月極駐車場 埃まみれの空き店舗 以前はなんだったか 仏具屋ばかりの陰鬱で清潔な道 遊具がひとつもない公園の抜け殻の隣には 築45年の外壁だけ塗り替え続けたアパート 緑色の虫が脚を天に向かって伸ばしている 溜まっていた郵便物の端でひっくり返してやる 何が起こったかわからないのか それともわかった上で固まってるのか 靴の底がべたつくエレベーターに乗り込んで 7階のボタンを鍵

          日常に潜む非日常

          ギヨーシェ

          寂しさを感じたことはあるかい 僕はね ないんだ どんなことが寂しさとなるか それは想像がつくよ 大事な人が死んじゃったりとか 大切な場所から離れなきゃいけないとか 言葉が誰にも伝わらないとか そういったことなんだろう 大事な人なんて居たのかな 大切な場所なんてあったかな 言葉が伝わらない場所はどこだろう 発せられない状態も含むのか それに触れずにここまで生きたんだ 寂しさって なんだろうね ギヨーシェで波打つ文字盤に7時の影が落ちる 灰色の薄絹のような光だ 無数の寂しさ

          ギヨーシェ