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リゾートホテルからウェルネスリゾートへ。映えではないブランド再構築ストーリー【前編】

コロナ禍で旅行業界が打撃を受ける中、3期連続で過去最高売上を実現したウェルネスリゾートがあります。それは、奄美大島にある「THE SCENE amami&wellness resort

目の前に広がるのは、海亀が生息する一面の青い海。その先には加計呂麻島が望めます。豊かな緑に囲まれたその場所は、まさに非日常を味わえる環境。

空港から車で90分、このホテルには「どうしてもここを訪れてみたかった」というゲストや「またここに訪れたかった」というリピーターが絶えません。奄美大島の最南端の地にあるウェルネスリゾートは、なぜコロナ禍での売上拡大が実現できたのでしょうか。

その成功背景の1つとして、ブランド構築があります。

言葉やクリエイティブで「ウェルネスリゾート」というブランドイメージを伝えるというのではなく、ブランドをどう体現していくか、顧客体験をどう提供していくのかを徹底的に考え、点ではなく線にしたブランド構築ステップがありました。

まず前編では、ウェルネスブランド構築のステップについてお話をしていきます。

単なるリゾートホテルではない価値を発見

幾度となく緊急事態宣言が出された2020年。初めて現地を訪れた私は、ホテル前に広がる光景の美しさに息をのみました。

ホテル前のヤドリ浜。目の前にあるのは、加計呂麻島

目の前には、海亀が顔を出す青く透き通る海。見渡す限りの大自然に包まれて、聞こえるのは波と風の音、鳥のさえずりだけ。これまでも様々な場所へ旅をしてきましたが、日本とは思えない非日常の空間で、本来の自分に戻っていけるような感覚がありました。

今ではホテルのコンセプトとして浸透してきた“ウェルネスリゾート”という言葉がぴったりな場所だというのが第一印象。

しかし、実際に訪問してみるまで、ここは大人のための場所だというイメージはなかったのです。大人の女性がひとりで訪れて自然の中でゆっくりと自分と向き合える場所だというイメージを、私は持てませんでした。

“インスタ映え”からの脱却

当時のSNSやホームページでは、いわゆる「インスタ映え」を意識した表現をしており、大人のためのウェルネスリゾートと言う印象はありませんでした。また、戦略的なブランドコミュニケーションをとっていなかったため、メディアで紹介される情報も限られていました。

まずは、この大きな乖離を埋めていくことからスタートしようと顧客層が気になり、現場のスタッフ数名に尋ねてみると「普段は都会で忙しく働いていて、オフには自然の中で一人の時間を持ちたいという女性……まさに志賀さんのような人が来ます!」という返答が。

当時のSNSイメージ

私のような女性がメインの顧客層なのに、私にはこの場所が私のための場所だということは伝わっていなかった。それは本当の魅力が伝わっていない。非常にもったいないことです。そして同時に、ブランドコミュニケーションのあり方を見直せば、ビジネスとしてさらなる発展が見込めるとも感じました。

30〜40代の女性がひとり旅で訪れることも多い、この場所をウェルネスリゾートとして打ち出していこう。方向性が見えたことで、私はまず、このホテルが目指す「ウェルネスリゾート」の定義・価値を明確にするとともに、現状の分析をしてイメージの乖離を埋めていくことにしたのです。

PRや広告展開は、ブランドコンセプトが正しく表現できる状態で行うべきもの。目先の売上のために、やみくもにブランディングとは離れた露出をしても、意味がありません。

そこで対外的なブランドの表現をすべて見直し、基盤が整ってから戦略的なPRコミュニケーションを設計していくステップを進めていきました。

ウェルネス体験、島の恵みを取り入れた食…
第三者視点で掘り起こされる魅力

そのイメージ乖離を埋めるために、対外的に出している写真素材1つから全て見直しました。

現在のホームページやInstagramでは、よりウェルネスリゾートを感じていただけるブランドの表現をご覧いただけると思います。

現在のInstagramイメージ

それでは、どんな過程を経て、ここまで改革できたのかを説明していきましょう。

まず「THE SCENE」というウェルネスリゾートの価値を定義することから、ブランド再構築はスタートしました。

まず挙げられるのが、海と緑に囲まれた絶好のロケーション。世界自然遺産である奄美大島の中でも最南端にある国立公園内に位置しており、360°どこを見ても人工物がない環境です。

ホテル前の加計呂麻島を見ながら行うサンライズ・サンセットヨガは、ここでしか味わえない体験・空間に、ここならではの価値を感じました。

夕陽を望むサンセットヨガ

またコロナ前から導入しているウェルネスプログラムをはじめ、リラクゼーション、海でのアクティビティなど、全てがホテルの中で完結できるのも大きな特徴でした。ここでは外部のツアーを手配する必要はなく、オールインクルーシブであらゆるウェルネスな体験ができます。

これは女性がひとり旅をするうえでも、子連れファミリーにとっても心強いと感じるポイントの一つです。

和食は、割烹ししくらの宍倉利一氏の監修

そして私が良い意味で驚かされたのが、食事のクオリティの高さです。地のものをふんだんに使い、島の恵みが感じられる料理の数々は、旬の素材を活かした洗練の味。聞いてみると、東京で腕を振るう有名シェフや料理長の監修によるものでした。

ここが奄美大島の最南端の地であることを忘れるほどの本格的な味わいに驚いた私は、スタッフにその感動を伝えました。

イタリアンは、代官山カノビアーノ植竹シェフ監修

しかし当時のホームページには、料理に関してはあまり表立って書いていなかったのです。写真は古く、かつページをよく見ないと辿りつけないような場所に掲載されていました。

・ここでしか味わえないローケーション
・ウェルネスプログラム
・オールインクルーシブの価値
・食事のクオリティ
そのほかにもたくさんありますが、こんなに差別化できる要素が詰まっていました。そして「ネイチャークレンズ」という独自の素晴らしいストーリーコンセプトも持っていたのです。

「こんなに素晴らしいものなのに、なぜもっと前面にアピールしないのだろう?」と不思議に思いましたが、現場では「差別化できる大きな価値」だとは気づいていなかったといいます。

このように第三者が入ることで、現地のスタッフには見えない価値を明確化できます。そしてペルソナとしての消費者視点も活かしながら、「これは素晴らしい、価値のあることですね」「こういうサービスは他では見たことありません」と、このホテルならではの価値を1つずつ引き出していきました。

ウェルネスリゾートに舵を切り、ターゲット顧客を定義

ウェルネスリゾート「THE SCENE」の支配人 小林良輔氏

ウェルネスリゾート「THE SCENE」の支配人、株式会社nobitel ホテル・トラベル事業部 執行役員の小林良輔氏は元トップ営業マン。最年少役員となりホテル事業の立ち上げを任された経歴の持ち主で、ホテル開業当初は4畳半の部屋で寝泊まりして、フロントから厨房作業に至るまで、あらゆる業務に自らも従事していたといいます。

その小林氏が語ってくれた印象的なエピソードがあります。

2015年のオープン当初、ホテル前のウッドデッキでヨガを終えた女性のお客様が、涙を流していたことがあったそうです。心配になった小林氏は声をかけてみることに。すると、「こんな大自然に囲まれてヨガをして、心が洗われ、自然と涙があふれてきました」という言葉が返ってきたといいます。
その言葉に心を打たれた小林氏は、それまで漠然と掲げていた「リゾートホテル」というコンセプトを一新しようと決意。大自然の中に身を置き、非日常的な場所でリラックスして過ごすことで、心や体、脳を浄化する「ネイチャークレンズ」というコンセプトに注目するようになったのです。

「ネイチャークレンズ」は、大自然の中にある、この場所だからこそ打ち出せるコンセプト。これも唯一無二の価値であることを確認したことで、思い切って「ウェルネスリゾート」に舵を切るという方針が明確になりました。

そして整理した価値を踏まえたうえで、これまでの顧客について分析してみると、こんなことが見えてきました。

・30〜40代の女性が一人で来客するケース
・目まぐるしい日常から離れ、自分のペースで自由に過ごしたいニーズ
・転職などの転機を迎えた際の記念旅ニーズ

また、経営者や会社役員の方がオールインクルーシブも可能なこのホテルで集中して事業戦略を考えるなど、ワーケーションのために訪れるケースも。

そこで「30〜40代女性」や「経営者・役員層」といった、旅慣れた大人世代がメインのターゲットになると考えました。そしてこれらの層への認知が進めば、家族で訪れたいというニーズも増えると予想されることから、「上質な旅を求めるファミリー」もターゲットになり得るという方向性も見えてきたのです。

ターゲットが明確になったことで、次のステップとしてターゲット毎の戦略設計、ウェルネスの新商品や企画開発へと進んでいきます。後編では、「映えではなく、大人のウェルネスリゾートに生まれ変わった話」をしていきます。

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