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『それは、まるで環のように』 #磨け感情解像度




シャンプーを洗い流して目を開けたら またあたらしい一日がはじまる
身体を拭いて、髪を乾かして
鏡に映った自分を見て
今朝も無事に、昨日の記憶が刻まれたことをたしかめる
前髪が目にはいるようになったから、そろそろ切りにいこう
前にそう思ったのは ちょうど、あの
きみが自転車を買った 薄群青の空がきれいだった日のこと


すこし遅いぼくの朝にのこされていたのは、飲みかけのコーヒーと
玄関に、右側だけひっくり返ったスリッパ
さっきまで慌ただしかった部屋の名残は、あらたに刻む記憶のはじまり

夜中ベランダに干したきみのシャツが、もう乾いている
頼りになる風に、こんどはきみのタオルケットを委ねる
紫陽花と向日葵のコントラストが、視界のすみで揺れる
季節がまたひとつ運ばれてくる、そんな感覚をおぼえる
初夏の陽射しに かさねる、今朝も
これまでもかさねてきたように
昨日の、きみの
言葉を表情を、
温度を



きっと

何度よろこびに胸をあつく打っても   特別な日常を
何度こころが折れそうになっても   限られた時間を
またいつでも記憶を上書きして   ふたり手をとって
季節を進めていくんだろうね   これからもこうして
何気ないことをこそ大切に   目に見えるものとして
       特別が日常になった証を
目に見えるものとして   何気ないことをこそ大切に
これからもこうして   季節を進めていくんだろうね
ふたり手をとって   またいつでも記憶を上書きして
限られた時間を   何度こころが折れそうになっても
特別な日常を   何度よろこびに胸をあつく打っても

きっと

そうやって、生きていくんだろう



シャンプーを洗い流して目を開けて、またあたらしい一日をはじめるんだ
身体を拭いて、髪を乾かして
鏡に映った自分を見て
今朝も無事に、昨日のぼくらを宝箱にしまって
ひととおり家事を終えたら、さあ
すこし遅い朝ごはんにしよう


フライパンに
油を落として
強火にかざす
やがて
ちりちりと、油が跳ねはじめる
冷蔵庫を開けて、卵をとりだす その冷たさを、
手のひらで感じる

こん、こん、と
ひびを入れて、

割る、
それを


フライパンの上で


割る、




ねえ

生卵だと思って割ったら温玉だったよ あいしてる






『それは、まるで環のように』












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こちらの企画に参加させていただきました。

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