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#9/60代パン屋の成長記録~自分の価値観を貫く~

1万時間はマジックナンバー

守破離は、武道や茶道など日本の芸道から生まれた言葉だ。
はて何年の稽古期間を経れば、一人前といえるのだろう?

私が社会人になった2009年。
『天才!成功する人々の法則』という本が話題を呼んだ(原文はMalcolm Gladwell (2008), Outliers: The Story of Success)。
卓越した演奏家は1万時間の練習を積み重ねていたという調査結果から、「1万時間こそ物事を習得するマジックナンバーだ」と述べている。

なぜこの本を覚えているかと言えば、本書に対する異論の声が大きかったからだ。「練習は時間が全てではない。量より質が重要だ」という反論だ。

ん(;´・ω・)???
ハナから質を追求できる人って、既に天才では?と違和感がよぎった。
なんだかざらつく、この感覚を噛み砕いてみたい。

『天才!成功する人々の法則』というタイトルなのに、「天才は凡人と質が異なる」と帰結されては、そもそも質を追求しようとする意識に及ばない凡人は、永遠に凡人のままではないか。(注:正しく読めば、きっとそんな暴論ではないのだろう。私の読解力のなさをご容赦いただきたい。)

「量は、いつか質を生む」
「努力は裏切らない」
そう信じられる世界が、私は好きだ。

2019年、東京大学の入学式における上野千鶴子さんの祝辞が話題になった。
「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください」

本当に、そう思う。
「1万時間取り組めば、きっと先が広がる」
甘んじた考えだとしても、甘えたい。
これからも全力で、この世界に甘えたいっ!

守破離の「離」として選んだ道

両親は週5日、朝4時から19時まで働いている。
お客さんが空く時間帯もあるので、仮に1日10時間集中しているとしよう。
すると10000時間÷10時間=1000日。
これは200週、約4年分に相当する。
5年目以降は、(天才とは言えなくても)一人前と言っていいように思う。

守破離の「離」とは、独自の新しいものを生み出し確立させる段階だ。

両親のパン屋は、拡大戦略をとらないという独自性を選んだ。

一定に経営が安定すると、バイトさん(パートさん)を雇う店舗は多い。売上および利益の拡大が見込めるからだ。しかしバイトさんを迎えれば、多かれ少なかれ相互にストレスを感じるだろう。
なんといっても両親だけの都合で休んだり、お店を閉じたりできなくなる。

仕事は「何をするか」と同じくらい、もしくはそれ以上に「誰とするか」が大事だ。たまに娘(私と妹)が手伝うことを除き、両親は自分たちのできる範囲のことしかしないと決めた。

また売れ残り(損失)を防ぐために、事前予約制に切り替えることを検討したことがある。
近所の大企業からまとまった数のオーダーをいただいたことがきっかけだ。
「朝6時に600個を納品」と指定を受けたので、両親と私は、徹夜でパンを作った。
作れば確実に買ってもらえるという精神的安定はあったものの、途中でオーダー数が減ったり、納品時間が早まったりと、度重なる変更にバタついた。
期日になっても料金は支払われず、何度かやり取りも必要だった。

この経験から、事前予約制に切り替えても、期待するほど経営効率化は図られないことを学んだ。たとえ損失が生じたとしても、食べてくださる方の顔がわかる距離にいることを選んだ。

守破離の「離」は、自分たちの価値観を深め、貫く時間だった。

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